CLASSICA JAPAN

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コラム

2017 / 06 / 15

第24回【ラトル最後のベルリン・フィル】

≪旅する音楽師・山本直幸の百聴百観ノート≫

 ラトルが契約終了となる、2018年6月でベルリン・フィルの首席指揮者兼芸術監督(以下「音楽監督」)を退任すると発表したのは2013年1月のことで、その時「後進に道を譲る時が来た」と語っていました。しかし2018年は、まだ指揮者としては若い63歳という年齢です。世界トップのオーケストラの音楽監督というポストに執着がないことには、驚きさえ覚えますが、ラトルが16年という任期で、ひと時代を築いたことは間違いないでしょう。ラトルがベルリン・フィルでデビューを飾ったのは1987年でしたが、その後ラトルは就任会見まで58回指揮していました。楽団員の代表が選んだ理由について、「ラトルが1987年に初めて指揮して以来、バロック・古典派か近現代の曲を積極的に取り上げて大きな刺激を与えてくれた。そして本来ロマン派の音楽を得意としている私たちとお互いに補完し合い、新世紀に向けてオーケストラを発展させることができる」と述べていたことを今でも思い出します。今のベルリン・フィルは、ラトルが若返った楽団員の能力を最大限引き出しつつ良好な関係を維持し、時代を超えた幅広いレパートリーの獲得に成功したことは事実です。2018/19年シーズンは、音楽監督不在という異例の事態になります。2019年に「契約期限なし」という契約で後任に就くペトレンコが、果たして何年音楽監督を務めることになるのかは分かりませんが、突出した才能と個性を持つ楽団員とどのような関係を築いていくのか、注目したいと思います。

 ラトル最後のシーズンとなる2017/18年は、16年間の集大成としてベルリン・フィルを精力的に指揮します。演奏旅行も含め、演奏会を52回、オペラを8回振りますが、もう一度どうしてもベルリン・フィルの響きで演奏したいと思っているお気に入りの曲を幾つか選んだようで、その選曲にはラトルのこだわりが感じられます。例えば8月25日のオープニング公演にはハイドンの「天地創造」を選び、その後恒例のザルツブルク音楽祭、ルツェルン音楽祭でも同作品を指揮します。そして6月19/20日、拠点フィルハーモニーでの最後の演奏会には、マーラーの交響曲第6番を選んでいます。1987年、ラトルが最初にベルリン・フィルを指揮した際に選んだ思い出深い曲になります。ちなみに音楽監督として最初に挑んだ作品は、マーラーの交響曲第5番とアデスの「アシュラ」(ドイツ初演)でした。その「アシュラ」は、ロンドン交響楽団オープニング公演に取り上げています。その他ヤナーチェクの「利口な女狐の物語」、コダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」、シューマンの「楽園とペリ」、バーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」、ラフマニノフの交響曲第3番等々。勿論招聘するソリストも共演を繰り返していた内田光子、ランラン、ツィンマーマン、バレンボイムなど著名ピアニストが名を連ねています。ファンサービスのつもりなのでしょうか、12月9日には自らピアニストとして出演、ドビュッシーのヴァイオリンソナタとメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」を樫本大進、クヴァント、フックスとの共演で演奏します。それから11月と5月の2度も2夜連続で別プログラムの演奏会が鑑賞できる機会を用意しています。

 指揮者に関しては、ラトルの意向が反映された結果なのかは不明です。ペトレンコが1プログラムだけ、そして若手の常連ドゥダメルとネルソンスが外されたことには、理由はともあれやはり淋しい気がします。ブロムシュテット、ハイティンク、メータ、ヤンソンス、小澤征爾、ガッティ、ティーレマンなどの常連は当然として、計133回も演奏機会がありながら、デビューを果たせる指揮者が、アルティノグリュとスロボデニュークの2人だけというのも、何故?と思わせる意外な点です。

 6月24日に愛妻コジェナーを迎えて催されるヴァルトビューネ野外演奏会は、シーズンの最後を飾る恒例のイベントであると同時に、ラトルが音楽監督として最後に指揮台に立ち、ベルリンの聴衆に別れを告げる機会になります。もっともその後もラトルの希望通り客演指揮者としてベルリン・フィルとの関わりは維持されるでしょうが・・・

 日本のファンにとってはベルリン・フィルを率いての最後にして7度目の来日になる11月の来日公演が、楽しみなお別れ公演になるはずです。

 ベルリン・フィルの音楽祭であるバーデンバーデン・イースター音楽祭も最後になります。音楽祭がザルツブルクから移転して5年目の今年は、座席占有率が93%で25,000人の観客を動員し、ようやくバーデンバーデンが国際的にも認知された感があります。ラトルが3回指揮する来年のオペラ演目は、ワーグナーの「パルジファル」で、正統派演出家として定評のあるD.ドルンが招聘されます。演奏会は4回指揮し、客演指揮者としてハーディングとI.フィッシャーが迎えられます。

 イースター音楽祭は、カラヤンがベルリン・フィルにオペラを演奏させる機会を与えるためにザルツブルクで創始した音楽祭です。それをアバドも引き継ぎましたが、ラトルが楽団員と決めてバーデンバーデンに移転させました。ラトルにとって最後になる来年は、バーデンバーデンにもその名を刻み、その存在を深く印象づけるものにしてくれることでしょう。

【ロンドン交響楽団音楽監督も兼務】

 2015年3月、ラトルは「最後の仕事」として2017/18年シーズンから母国を代表する名門ロンドン交響楽団の音楽監督に就くことを発表しました。つまり1年間は2つのオーケストラの音楽監督を兼務することになります。すでにロンドン交響楽団のスケジュールも発表されていて、9月14日のオープニングから10日間、いわゆるロンドンでの「お披露目」としてラトルが集中して5回指揮することになっています。ラトルは英国ほど優れた作曲家がいる国はない、まさに英国には「金坑」があると述べていますが、ロンドンでは英国の現代作曲家たちの作品を積極的に取り上げるようです。まずオープニング公演では、グライム(世界初演作品)、アデス、バートウィッスル、ナッセン、エルガーの作品が演奏されます。ちなみに演奏されるアデスの「アシュラ」は、ラトルがバーミンガム市交響楽団時代に世界初演を指揮した作品です。その後はベルリオーズの「ファウストの劫罰」、ストラヴィンスキーのバレエ音楽が演奏されます。

ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
©Marco Borggreve

 そしてシーズンのハイライトとして夏にテート・モダンのタービン・ホールでシュトックハウゼンの大作「グルッペン」を指揮します。この作品は3群のオーケストラという大編成になるため、2008年9月にベルリン音楽祭のハイライトとして取り上げられた際は、拠点のフィルハーモニーではなく、テンペルホーフ空港の格納庫で行われました。ラトルはロンドン交響楽団の拠点、バービカンセンターでは自分の持つレパートリーの1/5は演奏できないと主張しています。ブーレーズやヘンツェの作品、ベルリオーズのレイクエムなどを例にあげ、そもそもこのホールの舞台はオーケストラ演奏向けに設計されていないと嘆いています。ラトルが英国のEU離脱によって何か良くなることでもあるのか、想像もできないとも言っているのは、キャメロン前首相が新しいホール建設のために出すと言っていた予算を、EU離脱決定後に就任したメイ首相が引っ込めてしまったからです。代わって金融街「シティー・オブ・ロンドン」の自治体が資金の一部を負担する用意があると発表したことで、ロンドンにも、世界に誇れるような優れたコンサートホールが建設されることには楽観的な期待感は抱いているようです。

 クラブツーリズムの「音楽の旅」で、自分が観たい、聴きたい公演を鑑賞できるツアーを企画し、本場で感動を共有する人たちの輪を広げていきます。勿論ベルリン・フィルを鑑賞するツアーは今後もご紹介します。
ツアーの詳細、お問い合わせはこちら

 

筆者紹介

【クラブツーリズム 音楽の旅】
旅の文化カレッジ講師 山本直幸

ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
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NEWS
  • 2017.07.10
    2017年7月、8月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    7月30日(日)及び、8月に放送を予定しております、「佐渡裕『真夏の夜のガラ・コンサート2017』 in グラフェネック」につきまして、当初出演予定だったカティア・ブニアティシヴィリのキャンセルにより、コンサートが想定より短くなりました。
    そのため、既にお知らせしております、放送時間が下記の通り一部変更となります。
    8月の編成内容につきましては7月20日に更新する、WEBサイト上の放送スケジュールを御確認下さい。

    7/30(日)
    ■変更前
    21:00~24:00 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック

    ■変更後
    21:00~22:05 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック
    22:05~24:00 ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2009『絹のはしご』
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)