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ラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集2015

解説 Commentary

ラトル&ベルリン・フィル「ベートーヴェン:交響曲第2番&第5番『運命』」

 サイモン・ラトルとベルリン・フィルの「卒業」が、いよいよ来年に迫っている。
 卒業、すなわちラトルがベルリン・フィルの首席指揮者・芸術監督の地位を、任期満了とともに終える。
 オーケストラと険悪な関係になったからでも、健康に不安を抱えたからでもない。2002年から続けた緊密な関係を、ここで円満に終らせようというのである。
 だから、卒業と呼びたくなる。どちらが卒業するのか。片方ではない。双方が16年間の歳月を卒業して、それぞれに新たな時代を見つけていくのだ。
 この映像は、2015年10月にベルリンのフィルハーモニーで行なわれた、5夜にわたるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会の第2夜を収録したものだ。全曲演奏会はこのあとパリ、ウィーン、ニューヨークでも行なわれ、翌2016年5月には東京のサントリーホールでも開催された。
 世界各地のクラシック音楽の中心地をめぐって演奏したこのツアーは、卒業を前に「音の記念碑」を建てようとしているかのように私には思えた。総決算、といってもいい。互いの信頼関係の証、といってもいい。

 映像で見るとわかるとおり、この演奏は作曲当時のスタイルをかなり意識している。モダン楽器を用いているが、弦楽器の人数は少なめ。
 第2番では第1と第2ヴァイオリンが各10人、ヴィオラ6人、チェロ6人、コントラバス3人。運命》は少し増えて12~10~8~6~5となる。最近はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団などでも、これと同様の人数で演奏している。
 20世紀後半には第1ヴァイオリン16人、そして木管を2人から4人へと倍の人数に増やした大編成さえ当然だったことに較べると、格段に少ない。少ないなんて貧乏くさい、と思われる方もおられるかも知れないが、あまり大きいと「総身に知恵が回りかね」る要素も出てくる。響きが濁って、スピード感を失いやすいのだ。
 その点、この演奏の弦楽器奏者の人数は「適切」である。管楽器2本ずつ(《運命》のトロンボーンのみ3本)とのバランスが、ちょうどよいのだ。それは古典派的な、ハイドン的な性格がまだ残る第2番はもちろん、雄渾で壮大な《運命》においても、適切なのだ。壮大なのは作品の内部の世界であって、外面的な規模や人数のことではないからである。
 編成が小さめなことで、響きが澄んで明快になり、互いを聴きあうことが容易になる。ラトルは、カリスマ的に全員を押さえつけ、引きずり回す暴君ではない。誰もがソリスト級の腕前をもつベルリン・フィルの楽員をまとめ、促す役目に徹していく。第2番の第2楽章などで、しばしばラトルはソロに耳を傾け、それに反応するように合図を出す。
 力強い音楽という一面が強調されがちな《運命》という曲には、じつは木管楽器がひどく寂しげな、孤独な音を残す場面がけっこうある。本当に乗りこえるべきは憎むべき敵ではなく、自らの孤独感と劣等感である、とでもいいたいかのように。
 そのようなとき、名手たちがどんな表情でどんな音を出すか、ぜひ注目してほしい。弦楽器の人数が適切だから、管楽器のソロも力むことなく、実にきれいに響いてくる。
 こういう瞬間に、世界最高の楽員たちが集まったオーケストラと指揮者が過ごしてきた美しい歳月が、その姿を見せていると思うのだ。

山崎浩太郎(演奏史譚)

山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。日本経済新聞、『レコード芸術』等への寄稿、衛星デジタルラジオMUSIC BIRDの番組パーソナリティなどを担当。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)がある。

©Monika Rittershaus

PROGRAM

ラトル&ベルリン・フィル「ベートーヴェン:交響曲第2番&第5番『運命』」

初回放送 3月5日(日)21:00~22:30

©Monika Rittershaus

『レオノーレ』序曲第1番はベートーヴェン唯一の歌劇『フィデリオ』のために作曲された4つの序曲の一つで、第1番は1807年プラハ公演が計画された際に作曲された。結局計画は頓挫し、この曲が作曲家の生前に演奏されることはなかったが、出版の際に第1稿のものと誤認され、現在では序曲第1番と呼ばれている。序曲第1番の映像は珍しく、しかもベルリン・フィルの演奏で見ることができるのは貴重。交響曲第2番は、有名なハイリゲンシュタットの遺書が書かれ、絶望から再起した直後に完成した初期の代表作。『運命』は冒頭の「ダダダ・ダーン」を指して「運命はこのように戸を叩くのだ」とベートーヴェンが語ったと伝えられる音楽史上最も有名な交響曲の一つ。一瞬たりとも停滞しないテンポの中で、指揮者とオーケストラのスリル満点の音楽のキャッチボール、そしてベルリン・フィルの名手たちの超絶アンサンブルの熱演を目で楽しみながら、オーケストラのパワーと重厚感も耳でたっぷり味わえる。なお、この日のコンサートマスターはダニエル・スタブラーヴァが務めている。ベルリン・フィル次期音楽監督にキリル・ペトレンコが決まり、数年後にロンドン響音楽監督としてベルリンを去ることになるラトルの総決算。

[演目]ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第1番ハ長調Op.138/交響曲第2番ニ長調Op.36/交響曲第5番ハ短調Op.67『運命』(ベーレンラーター版/ジョナサン・デル・マー校訂版)
[指揮]サー・サイモン・ラトル
[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
[収録]2015年10月7日&13日フィルハーモニー(ベルリン)

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
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05 月の番組ガイド&番組表 e-Book
NEWS
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)