CLASSICA JAPAN

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人間ドキュメント: 隠されたストーリー(4月)

解説 Commentary

「シリアからの脱出~ピアニスト、エイハム・アハマド」について

 いま、シリアで起きていること、ヨーロッパを揺るがせているパレスチナからの難民の問題について、音楽の側からその本質をあぶり出すような、衝撃的ドキュメンタリーを観た。
 「シリアからの脱出~ピアニスト、エイハム・アハマド」である。

 エイハム・アハマドは、シリアの首都ダマスカスの南部ヤルムークに暮らす音楽家であった。父は楽器職人でヴァイオリニスト。1950年代にパレスチナ難民キャンプの町として開拓されたヤルムークは、さまざまな民族や宗教や文化が共存し繁栄する美しい街だったという。
 ところが2012年のある日から、状況は一変する。シリア政府軍の戦闘機がヤルムークを攻撃したのだ。あっという間に、町は見る影もなく荒廃してゆく。
 政府軍の側に立つか?
 イスラム原理主義者、反政府勢力の側に立つか?

 そうしたなか、アハマドが美しいヤルムークについて歌い、ピアノを弾く姿は、ひたすら平和で穏やかな暮らしを願っている、当地の大多数の人々の気持ちを雄弁に語っている。それは地球の裏側の遠い国の出来事というよりは、もっと身近な存在としてシリアの人々のことを想像させてくれるものだ。
 彼らは、私たちと全く同じように喜怒哀楽し、食べ、学び、働き、家族や友人とともに生きている。男も女も子供たちも、不安におびえ、困窮に耐えながらも、楽しい音楽があれば笑顔で歌い、心を通わせる――普通の人たちなのだ。

 いま、世界的に「難民」に対する根本的態度が改めて問い直されている。排斥することで純粋性を守るのか。それとも歓迎して友人として受け入れるのか。さまざまな事情と感情が入り乱れて、答えは容易ではない。
 このドキュメンタリーを観ると、難民となった音楽家アハマドは、どんなにヤルムークが荒廃しようとも、本当は愛する土地に最後まで残って音楽とともに人々に希望を与えようとしていたことがわかる。そうした中で、過激派の兵士に目の前で大切なピアノを焼かれるなどの事件があり(これを語るくだりは涙なしには聞けない)、生き残るためにやむを得ず出国せざるを得なかったのである。
 難民としての受け入れ先のドイツにいても、アハマドの心には美しかった頃のヤルムークの面影が去ることはない。ピアノを弾きながら一緒に笑顔で歌った幼い女の子の頭部を、一発の銃弾が貫いた瞬間のことを、忘れることはない。

 「音楽こそが我々の祖国です」。
 このアハマドの言葉ほど、いまの時代にあって、音楽が人間にとって引き続きどれほど大切なものであり続けているかを雄弁に示すものがあるだろうか。
 ピアノを通じてあらゆる民族や宗教をこえて心のつながりを求め、特に子供たちに献身しようとするアハマドの取り組みに対して、「人権のための国際ベートーヴェン賞」が授与されたのは当然だろう。
 そのセレモニーの様子とともに、ピアニストのマルタ・アルゲリッチが、なぜアハマドにベートーヴェン賞がふさわしいかについて述べるくだりも印象的である。
 「ベートーヴェンは自由とアイデンティティの象徴であり、最も人道主義的な作曲家です。これはそういう意味での賞なのだと思います」

 どんな時代の、どんな国に暮らそうとも、暴力によって根こそぎ暮らしが破壊されることは誰にでも充分ありうる。そんなとき、自分の中で粉々に壊れてしまった何かを修復しようとする本能というものがある。それこそが音楽なのだ。

 今回のクラシカ・ジャパンからのオンエアは日本初放送とのこと。現代の「難民」の問題のみならず、音楽と人間の根源的な結びつきについて考えさせてくれる、必見の番組となるだろう。

林田直樹(音楽ジャーナリスト・評論家)

林田直樹 Naoki Hayashida

音楽ジャーナリスト・評論家。「音楽の友」「レコード芸術」編集部を経て独立。オペラやバレエからクロスオーバーや現代音楽、ワールド・ミュージックまで、ジャンルにこだわらない自在な執筆活動を行う。著書に「クラシック新定番100人100曲」(アスキー新書)ほか。月刊「サライ」(小学館)に連載中。インターネット・ラジオ「OTTAVA」「カフェフィガロ」で番組パーソナリティをつとめる。近著「ルネ・マルタン プロデュースの極意」(アルテスパブリッシング)。

©Rami Al-Sayed

PROGRAM

シリアからの脱出~ピアニスト エイハム・アハマド

初回放送 4月23日(日)21:00~21:40

©Rami Al-Sayed

シリアの首都ダマスカス南部にあるヤルムーク難民キャンプ。内戦に怯え、飢餓に苦しむ過酷な状況の中で、盲目のヴァイオリニストを父に持つエイハム・アハマドは、瓦礫だらけの通りにピアノを持ち出し、家族や友人、子供たちと一緒に音楽を奏でていた。2015年4月、ヤルムーク難民キャンプはIS(イスラム国)に制圧され、アハマドのピアノは「音楽はイスラム教で禁止」との理由で焼かれ、彼は脱出を決意する。アハマドは脱出の記録をfacebookに投稿。その体験は世界中のニュースでも取り上げられ、2015年に彼は「人権、平和、包容、貧困撲滅のための国際ベートーヴェン賞」を受賞。この番組は、現在ドイツで生きるアハマドの姿を綴ったドキュメンタリー。彼は今なお、内戦による死の恐怖と、夢と希望を奪われたシリアの人たちへの想いを歌に託して、音楽活動を続けている。

[出演]エイハム・アハマド、マルタ・アルゲリッチ 他
[監督]ギュンター・アッテルン&カルメン・ベラシュク
[制作]2016年

PROGRAM

クラシカ・音楽人<びと>「伊藤京子~アルゲリッチと未来を紡ぐ」

初回放送 4月1日(土)20:30~21:00

チャンネル独自の視点で、音楽に身も心も捧げる話題の音楽人の本音に迫るインタビュー番組。4月は、今年19回目を迎える「別府アルゲリッチ音楽祭」のプロデューサーを務めるピアニスト、伊藤京子が登場。ピアニストとしてドイツ留学中、世界最高峰のピアニスト、マルタ・アルゲリッチと出会い、彼女の名を冠する音楽祭を立ち上げることになったきっかけとは。そしてクラシック音楽とは無縁の温泉の町に、なぜアルゲリッチは毎年来るのだろうか。音楽祭の正式名称「Argerich’s Meeting Point in Beppu」~アルゲリッチの出会いの場~には、アルゲリッチと伊藤の“人が出会うことで多くのことが変わり、未来が開ける、幸せな出会いを多くの人びとへ”という深い想いが込められているとのこと。音楽が社会にできることを心に刻み、この名称に込められた想いと共に20年。今年も「別府アルゲリッチ音楽祭」は、5月6日から26日まで開催されます。昨年末、その地道な活動が評価され、日本音楽著作権協会の第3回JASRAC音楽文化賞を受賞した伊藤が、アルゲリッチと共に紡いでゆく「音楽で人と未来を育む」夢を語る。

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
06 月の番組ガイド&番組表 e-Book
05 月の番組ガイド&番組表 e-Book
NEWS
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)