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ブッフビンダーのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集

解説 Commentary

ブッフビンダーが弾くベートーヴェン「ピアノ・ソナタ」について

 ルドルフ・ブッフビンダーは、来日ごとに重厚且つ壮大で、しかも情感あふれるピアニズムを披露し、ピアノ好きの心をとらえている。これまで日本ではライフワークとしているベートーヴェンのピアノ・ソナタなどを演奏してきたが、ここに2014年に初めてザルツブルク音楽祭で実現したベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会の第1日目が登場した。
 ブッフビンダーのベートーヴェンは、デリケートで親密感に富み、解放感あふれ、深遠でドラマティック。いずれの作品も深々とした打鍵、絶妙のペダリングを駆使したスケール大きな奏法だが、とりわけ各ソナタの緩徐楽章の弱音がえもいわれぬ美しさで、作曲家の内奥に秘められたロマンを浮き彫りにする。
「私は完璧主義者なんですよ。どんな作品を演奏するときも、たいていは楽譜を8から10版研究し、徹底的に作曲家の意図したことを追求していきます。ベートーヴェンのソナタの場合も同様で、あらゆる版を見直し、常に新たな発見を求めてベートーヴェンの神髄に近づいていきます。ただし、このソナタをどう弾きたいか、どう表現したいかを話すよりも、まず演奏を聴いてほしい。作品論は他の人にお任せしましょう(笑)。私はひとつの音符、休符、フレーズ、強弱、リズムなどをこまかく研究し、少しでも作曲家の魂に寄り添う演奏をしたいと願っています」
 ブッフビンダーは、このように作品論を話すことは好まない。しかし、作曲家の残した原典にこそ真実を見出すため、その話題になると、一気に雄弁になる。
「たとえばベートーヴェンのソナタの3つの音符が続く箇所で、彼は最初の音符はf、次の音符もf、そして最後の音符には何も書いていない。ところが、出版社は3つともfと印刷している。これではまったく曲想と意図が異なってしまいます。それを私が何度訂正するべきだといっても、出版社は一向に直そうとしない。こうしたまちがいは1曲のなかに山ほどあるのです。全曲を通して演奏した場合、それはベートーヴェンの目指すものから遠くかけ離れてしまいます。私はそうした楽譜の研究を長年続けているんですよ」
 こうした徹底した楽譜の読み込み、作曲家の意図にひたすら近づいていくことにより、ブッフビンダーの演奏はひとつひとつの音が生命力に満ち、聴き慣れた作品がいま生まれた音楽のように新鮮な色合いを帯びる。そこにはブッフビンダーの作曲家への深い敬意と愛情と探求心が込められている。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタも長年に渡る研究、分析に支えられた演奏だが、生まれ出る音楽はけっして堅苦しくなく、自由闊達で創意工夫に富み、誠実で温かみのある彼の人間性とあいまって、見るものをベートーヴェンの世界へと自然な形でいざなう。
 彼の演奏はからだのどこにも余分な力の入らない自然体な奏法。映像で演奏している姿をじっくりと見られるのは、こうしたナチュラルなからだの使い方、脱力の仕方、顔の表情、指のこまやかな動きなどが明確に観察できることがもっとも有益なことである。
 そしてこのベートーヴェンでは、美しく壮麗な大伽藍のような音世界を描き出している。精神性が高く作曲家の魂に近づく一途な演奏だが、随所に豊かな歌心と踊り出したいような躍動感が顔をのぞかせる。 
 これがウィーン人の気質だろうか。急速なパッセージでも打鍵は深く、リズムは昂揚しながらもけっして揺るがない。ブッフビンダーは、まさにライフワークとしてのベートーヴェンのピアノ・ソナタと一体化し、視聴者に作品の新たな発見を促してくれる。

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

伊熊よし子 Yoshiko Ikuma

音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)、「図説 ショパン」(河出書房新社)、「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)。近著「フジコ・ヘミング たどりつく力」(幻冬舎)。共著多数。http://yoshikoikuma.jp/

©Silvia Lelli

PROGRAM

ブッフビンダー「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集」Vol.1

初回放送 4月28日(金)21:00~22:40

©Silvia Lelli

ベートーヴェンの創作活動において、ピアノ・ソナタは最も重要なジャンルの一つ。19世紀前半におけるピアノという楽器の発展の中で、彼はピアノ音楽の新しい表現方法を追求した。“ピアノの新約聖書”と称される32曲のピアノ・ソナタは、ピアニストのみならず、ピアノに関わる全ての人間にとって避けて通ることができない、今なお燦然と輝く存在。故郷ボンから音楽の都ウィーンに移住して間もないベートーヴェンは、まずピアニストとして活躍し、その作曲の多くがピアノ音楽に向けられた。この2014年ザルツブルク音楽祭のチクルスは、「ベートーヴェンの新しい解釈を示した、彼以外には成し得ない偉業」と称賛された。第1日目のプログラムは、作曲を師事したハイドンに献呈された「作品2」の中で悲劇的な情熱を持つ第1番。親しみを込めて夫婦喧嘩と呼称された第10番。ソナタなのにソナタ形式が一つもない第13番『幻想曲風ソナタ』。反対に3楽章全てがソナタ形式という第17番『テンペスト』、そして緩徐楽章が一つもない第18番『狩り』という5つのソナタ。5歳でウィーン音楽大学に入学したブッフビンダーは早くから神童として才能を発揮し、ミュンヘン国際音楽コンクールやベートーヴェン・コンクールに優勝するなど華々しい受賞歴を誇る。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を2度録音し、さらに50回の全曲演奏会を行うなど、彼はまさに「現代における最も重要なベートーヴェン奏者」と評されている。この番組では、全曲にわたり、ブッフビンダーの明晰なタッチと透明な音色による、オーソドックスながら新しい感覚のベートーヴェンを見ることができる。明確な構成感と美しいフレーズも魅力。

[演目]ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op2-1/第10番ト長調Op.14-2/第13番変ホ長調Op.27-1『幻想曲風ソナタ』/第17番ニ短調Op.31-2『テンペスト』/第18番変ホ長調Op.31-3『狩り』
[ピアノ]ルドルフ・ブッフビンダー
[収録]2014年8月3日モーツァルテウム大ホール(ザルツブルク)「ザルツブルク音楽祭2014」

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
08 月の番組ガイド&番組表 e-Book
07 月の番組ガイド&番組表 e-Book
NEWS
  • 2017.07.10
    2017年7月、8月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    7月30日(日)及び、8月に放送を予定しております、「佐渡裕『真夏の夜のガラ・コンサート2017』 in グラフェネック」につきまして、当初出演予定だったカティア・ブニアティシヴィリのキャンセルにより、コンサートが想定より短くなりました。
    そのため、既にお知らせしております、放送時間が下記の通り一部変更となります。
    8月の編成内容につきましては7月20日に更新する、WEBサイト上の放送スケジュールを御確認下さい。

    7/30(日)
    ■変更前
    21:00~24:00 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック

    ■変更後
    21:00~22:05 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック
    22:05~24:00 ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2009『絹のはしご』
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)