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ラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集2015

解説 Commentary

ラトル&ベルリン・フィル「ベートーヴェン:交響曲第4番&第7番」

 ベルリン・フィルの首席指揮者に就任して13年。サイモン・ラトルが2015年に満を持して取り組んだベートーヴェン交響曲チクルスは、決定的に、新しい。そしてその新しさは、ヴィジュアルを通してこそはっきりと味わえる。このたびの放映を見る・聴く最大の醍醐味は、ここにあろう。
 たとえばコントラバス。最初の第4番で、何挺が見えるだろうか? わずか5挺である。カラヤン時代にはありえなかった規模だ。たしかにラトルの前任者、クラウディオ・アバドも、ベートーヴェンで同様にコンパクトな編成をとっていた。けれども、今回は見える位置が違う。ベルリン・フィルでは、遅くともカラヤン以降、弦楽器を左から右に、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラときて、コントラバスは右側、チェロとヴィオラの背後に置くのが伝統的なやり方である。アバドもこれに倣っていた。ところがこのラトルのライヴでは、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンと並び、コントラバスは左側に、第1ヴァイオリンとチェロの背後にいる。編成を刈り込み、配置を変える――これは、20世紀に支配的だった流儀を見直し、ベートーヴェンが念頭に置いていた音響イメージに少しでも近づこうとする試みと言えよう。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが、まるでピンポン・ゲームのように音を投げ交わす様子など、たしかに、両パートが対坐するこの配置でこそよく分かる。近年さまざまな指揮者が実践していることではあるが、これをベルリン・フィルのベートーヴェンに、チクルス・レベルで導入したのは、ラトルが初めてとなる。
 いや、ラトルはたんに流行を持ち込んだわけではない。彼はもっと先を行っている。楽譜――作曲者の手稿譜や当時の写譜屋の仕事にまでさかのぼり長年のミスプリや誤解を排した、ベーレンライター社新版を使用――には明示されていないことまでも考慮し、作品の個性に、よりこまやかに対応しているのだ。
 第7番を見てみよう。コントラバスが、こんどは第4番より1挺増え、6挺になっている。ところが第1ヴァイオリンとヴィオラの数は、第4番と変わらず、それぞれ12挺、8挺。対して第2ヴァイオリンは12挺、チェロは8挺と、第4番より2挺増している。ヴァイオリン・パートが第1・第2とで同等になったのは、両パートの対話性が、第7番では増していることを考慮したものだろう。また低音弦をヴォリューム・アップしたのは、本作で低音がサウンド面でより大きな役割を担っているからに違いない。この後者の考慮は、楽譜にないコントラ・ファゴットを2本導入し、コントラバス・パートを補強している点にも反映している。これは、ベートーヴェンが生前ウィーンの上演で試みようとした措置を、実際にやってみたものであるが、その効果も、映像――コントラバスとホルンの間に位置している――を観ながら聴くことで、より明確に楽しめるはずである。いっぽう、第4番では、ベートーヴェンがここで木管楽器に担わせたソロイスティックな役割を、より前面に出すことになった。フルートのエマニュエル・パユからファゴットのシュテファン・シュヴァイゲルトまで、名奏者たちのファイン・プレーを、じっくりと味わいたい。
 ラトルのベートーヴェン解釈については、ベルリン・フィルのある奏者が、「アバドの明るさにカラヤン時代の重みをも加味したもの」と評している。筆者はこれに、「スピード感」を加えたいと思う。テンポが速いという意味では、必ずしもない。音そのものに、その機動性に、キレの良さがあるのだ。結果、全体の響きに、迫力のみならず稀有な透明感が伴うことになった。ベルリン・フィルのベートーヴェン演奏史に刻まれた新たな一頁であることは、もはや間違いなかろう。

舩木篤也(音楽評論家)

舩木篤也 Atsuya funaki

1967年生まれ。音楽評論家。「読売新聞」で演奏評を、NHKで音楽番組の解説を担当。公演プログラム、「レコード芸術」「ステレオサウンド」ほか専門誌でも執筆。東京芸術大学ほかでドイツ語講師。共著に『魅惑のオペラ・ニーベルングの指環』(小学館)、共訳書に『アドルノ 音楽・メディア論』(平凡社)など。

©Monika Rittershaus

PROGRAM

ラトル&ベルリン・フィル「ベートーヴェン:交響曲第4番&第7番」

初回放送 4月2日(日)21:00~22:35

©Monika Rittershaus

2015年10月に本拠地フィルハーモニーで行われたサー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全曲演奏会より、第3日目は交響曲第4番と第 7番。交響曲第4番は、ベートーヴェンがヨゼフィーネ・フォン・ダイム伯爵未亡人との恋愛が最高潮に達していた頃の作品。第7番は、心を浮き立たせるようなリズムが特徴的で、後にワーグナーが「舞踏の聖化」と呼んだことでも知られている。この番組は、ジョナサン・デル・マー校訂ベーレンライター版「新ベートーヴェン全集」の21世紀の新たなスタンダードといえるもの。一瞬たりとも停滞しないテンポの中で、名手たちによる超絶アンサンブルとベルリン・フィルのパワー&重量感が目と耳の両方で味わえる。なお、この日のコンサートマスターは樫本大進。ベルリン・フィル次期音楽監督にキリル・ペトレンコが決まり、数年後にロンドン響音楽監督としてベルリンを去ることになるラトルの総決算。見るものを圧倒的な興奮に誘うベートーヴェン。

[演目]ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調Op.60/交響曲第7番イ長調Op.92(ベーレンライター版/ジョナサン・デル・マー校訂版)
[指揮]サー・サイモン・ラトル
[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
[収録]2015年10月15日フィルハーモニー(ベルリン)

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
08 月の番組ガイド&番組表 e-Book
07 月の番組ガイド&番組表 e-Book
NEWS
  • 2017.07.10
    2017年7月、8月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    7月30日(日)及び、8月に放送を予定しております、「佐渡裕『真夏の夜のガラ・コンサート2017』 in グラフェネック」につきまして、当初出演予定だったカティア・ブニアティシヴィリのキャンセルにより、コンサートが想定より短くなりました。
    そのため、既にお知らせしております、放送時間が下記の通り一部変更となります。
    8月の編成内容につきましては7月20日に更新する、WEBサイト上の放送スケジュールを御確認下さい。

    7/30(日)
    ■変更前
    21:00~24:00 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック

    ■変更後
    21:00~22:05 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック
    22:05~24:00 ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2009『絹のはしご』
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)