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ティエリー・マランダン「バレエの夕べ」

解説 Commentary

ティエリー・マランダン「バレエの夕べ」について

 長いキャリア、実力と人気を誇るも日本でまだ大きく紹介されていない最後の振付家の一人、それがティエリー・マランダンだ。ネオクラシック・スタイルの代表者と目される彼の作品には、バレエのDNAが息づく精緻な身体のフィギュア、音楽と融け合うムーヴメントの美しさと、コンテンポラリーダンスの衝撃を与える斬新なコンセプトや衣装、舞台美術が絶妙に溶け合っている。

 1959年北フランスに生まれたマランダンは、バレエを学び、1978年のローザンヌ国際バレエコンクールで入賞、翌年にパリ・オペラ座バレエ団のダンサーとなる。その1年後にライン・バレエ団(現ライン国立歌劇場バレエ団)、翌1980年にナンシー・バレエ団(現ロレーヌ・バレエ団)に移籍し、踊る傍ら、1984年に初振付作品を発表。作品はすぐに国内外で高く評価され、2年後にマランダンは同僚ダンサー8人と独立し、カンパニー「タン・プレザン」(「現在時」の意)をパリ郊外に設立する。それは、バレエの伝統を保ちつつ、困難な現代社会と向き合う、マランダンの決意表明だった。このカンパニーが発展し、1998年に文化省とビアリッツ当局からの提案を受けてマランダンが立ち上げたのが、ビアリッツ国立振付センター/バレエ・マランダン・ビアリッツだ。大半の芸術監督がコンテンポラリーやストリート系の振付家である全国19ヶ所の国立振付センターのなかにあって、マランダンは現在のバレエのありかたにこだわり、19年に渡る活動を続けてきた。現在カンパニーは、年間100公演(1/3が国外公演)、観客動員85,000人を誇り、ヨーロッパのダンスファンでその名を知らぬ者はいない。

 今回放映されるのは、古典と前衛が共存するマランダンの魅力が存分に味わえる三作品。『牧神の午後』(1995)は、元は20世紀初頭に芸術界を席巻したバレエ団、バレエ・リュスの伝説的ダンサー、ニジンスキーが、1912年にドビュッシーの曲に振り付け、牧神役を踊った作品。跳躍も回転も封印した振付、逃げた妖精が残したベールで牧神が自らを慰めるセクシャルな表現が、公開当時に大スキャンダルを巻き起こした。ニジンスキー版に漂う真夏のシチリアの午後の気だるく噎せ返るような官能を、マランダンは無機質な室内で消費される現代のチープな愛欲へと変換してみせる。その衝撃度は、ニジンスキー版に負けていないので、お楽しみに。『薔薇の精』(2001)も、詩人ゴーチエの詩に想を得て1910年にフォーキンが振り付けたバレエ・リュス作品へのオマージュ。舞踏会から帰宅した娘が眠り込むと、胸に飾っていた薔薇から妖艶な薔薇の精が現れ、夢うつつの娘をダンスに誘う。このロマンティックな筋書きにマランダンはポップな新解釈を施し、美しい二人のダンサー、兼井美由季とダニエル・ビスカヨの鋭いテクニックと広がりのある表現力がシュールな幻想美を加えている。バレエ通なら、原版の振付の引用を探すのも楽しい二作品だ。
 『ある最後の歌』(2011)では、古楽アンサンブル「ル・ポエム・アルモニーク」の精彩に富んだ演奏と伸びやかな歌唱にのせ、10人の男女が多彩なダンスを展開する。音楽と調和した振付に心地よく酔うなかで、複数のカップルの多様な愛の形、共同体に溢れる素朴で優しい感情、いつか訪れる別れと明日への希望の物語が、胸裏に浮かび上がってくるだろう。衣装も美術の一部となって象徴的な意味を担い、ラストシーンを劇的に彩る。

 過去を否定せず、長い歴史の連続と断絶の相においてダンスを見つめ、学び、創造するマランダンの振付には、時に滑稽であっても、必死に前へと進んできた人間たちへの温かなまなざしが流れている。ダンス観が変わる、驚きに満ちた経験になるだろう。

岡見さえ(舞踊評論家)

岡見さえ Sae Okami

舞踊評論家。2004年より舞踊評の執筆を始め、現在は新書館『ダンスマガジン』、産経新聞、朝日新聞等にコンテンポラリーダンスやバレエの公演評、取材記事等を執筆する。

©Les Films Figures Libres

PROGRAM

ティエリー・マランダン「バレエの夕べ」

初回放送 4月30日(日)21:00~22:05

©Les Films Figures Libres

フランスとスペインの大西洋側の国境近くの高級リゾート地ビアリッツを本拠地とするマランダン・バレエ・ビアリッツが、2012年バスク地方サン・セバスチャンのビクトリア・ユージニア劇場で行った、同団芸術監督ティエリー・マランダンが振付けたトリプル・ビル。ティエリー・マランダンは、パリ・オペラ座やナンシー国立バレエのダンサー出身の振付家。マランダン・バレエ・ビアリッツは、クラシックバレエとコンテンポラリーダンスを結びつける初の国立振付センターを作ろうというフランス文化・通信省の要請により、1998年に文化・通産省とビアリッツ市、バスク政府の共同でマランダンが創立した、国立振付センターを兼ねたバレエカンパニー。この公演のテーマは、フランス音楽とバレエ・リュスへのオマージュ。プログラムは、『牧神の午後』(1995年初演)『薔薇の精』(2001年初演)、そして2011年初演の『ある最後の歌』。「どんなにアバンギャルドであっても、ダンスはそのDNAの中に必ず古典的な伝統を持っている」と語るように、斬新でシンプル、そしてクラシカルなマランダンの振付は、その洗練された動きの中にさまざまなメッセージや情感を感じとることができる。

[演目]牧神の午後
[音楽]ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
[振付]ティエリー・マランダン
[装置&衣裳]ホルヘ・ガラルド
[照明]ジャン=クロード・アスキエ
[出演]アルノー・マウイ
[演目]薔薇の精
[音楽]ウェーバー(ベルリオーズ編曲):舞踏への勧誘Op.65,J.260
[振付]ティエリー・マランダン
[装置&衣裳]ホルヘ・ガラルド
[照明]ジャン=クロード・アスキエ
[衣裳]ヴェロニク・ミュラ
[出演]兼井美由季&ダニエル・ビスカヨ
[演目]ある最後の歌
[音楽]『宮廷の階段に~フランスの古いロマンスとコンプラント(哀歌)』よりヴァンサン・デュメストル(ル・ポエム・アルモニーク)編曲の音楽及び伝統的歌唱
[振付・装置・衣裳]ティエリー・マランダン
[照明]ジャン=クロード・アスキエ
[出演]イオネ・ミレン・アギーレ、ジュゼッペ・キアヴァーロ、ミカエル・コント、エリス・ダニエル、フレデリク・デベルト、兼井美由季、ハコブ・エルナンデス・マルティン、クレール・ロンシャン、シルヴィア・マガリャニス、アルノー・マウイ
[収録]2012年11月24日&25日ビクトリア・ユージニア劇場(サン・セバスチャン)

TEL:045-330-2178 月〜金 9:30〜18:30 祝日は除く
08 月の番組ガイド&番組表 e-Book
07 月の番組ガイド&番組表 e-Book
NEWS
  • 2017.07.10
    2017年7月、8月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    7月30日(日)及び、8月に放送を予定しております、「佐渡裕『真夏の夜のガラ・コンサート2017』 in グラフェネック」につきまして、当初出演予定だったカティア・ブニアティシヴィリのキャンセルにより、コンサートが想定より短くなりました。
    そのため、既にお知らせしております、放送時間が下記の通り一部変更となります。
    8月の編成内容につきましては7月20日に更新する、WEBサイト上の放送スケジュールを御確認下さい。

    7/30(日)
    ■変更前
    21:00~24:00 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック

    ■変更後
    21:00~22:05 佐渡裕「真夏の夜のガラ・コンサート2017」 in グラフェネック
    22:05~24:00 ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2009『絹のはしご』
  • 2017.02.14
    2017年2月、3月の一部番組の放送時間変更のお知らせ
    2月19日に初放送を予定しております【ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」】の番組時間が想定より長いことが判明致しました。そのため、既にお知らせしております2月、3月の放送時間が下記の通り一部変更となります。詳しくはWEBサイトの日別番組表でご確認ください。

    2/19(日)
    ■変更前
    21:00~22:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:35~23:05 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:05~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    ■変更後
    21:00~22:40 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    22:40~23:10 クラシカ・音楽人〈びと〉「IIJ会長 鈴木幸一~音楽を愛し支える」
    23:10~24:00 ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」

    2/20(月)
    ■変更前
    21:00~22:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:45~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    21:00~22:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    22:40~24:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/21(火)
    ■変更前
    17:00~18:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:45~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    17:00~18:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    18:40~20:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/22(水)
    ■変更前
    13:00~14:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:45~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    13:00~14:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    14:40~16:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/23(木)
    ■変更前
    10:00~11:45 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:45~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
      ↓
    ■変更後
    10:00~11:40 アレクサンダー・エクマンの『ある白鳥の湖』
    11:40~13:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」

    2/24(金)
    ■変更前
    7:45~9:20 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:20~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」
      ↓
    ■変更後
    7:45~9:25 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    9:25~10:00 ゲルギエフのショスタコーヴィチ「交響曲第9番」

    2/25(土)
    ■変更前
    15:55~17:30 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:30~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    15:55~17:35 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    17:35~19:20 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    3/5(日)
    ■変更前
    17:35~19:10 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:10~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
      ↓
    ■変更後
    17:35~19:15 ブロムシュテット&P・ゼルキン「ゲヴァントハウス定期演奏会2016」
    19:15~21:00 ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」
  • 2017.02.14
    番組ガイド内容誤表記のお詫び
    2月号、3月号の番組ガイドの索引におきまして、下記タイトルの番組情報表記に誤りがございました。
    謹んでお詫び申し上げます。

    ラトル&ロンドン響2016「20世紀フランス音楽の夕べ」

    <誤>
    [演目]フランシス・プーランク:二重混声合唱のためのカンタータ『人間の顔』、シャルル・ケクラン:ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を題材にした『レ・バンダール=ログ』(猿のスケルツォ)、ジェルジ・クルターク:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に(ドイツ初演)、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団[合唱指揮]ギース・レーンナールス[収録]2016年2月20日フィルハーモニー(ベルリン)
    ■字幕/約1時間41分

    <正>
    [演目]モーリス・ラヴェル:クープランの墓(プレリュード/フォルラーヌ/メヌエット/リゴドン)、アンリ・デュティユー:ヴァイオリン協奏曲『夢の樹』、モーリス・ドラージュ:4つのインドの詩、アンリ・デュティユー:メタボール、モーリス・ラヴェル:バレエ『ダフニスとクロエ』第2組曲[指揮]サー・サイモン・ラトル[演奏]ロンドン交響楽団、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)ジュリア・ブロック(ソプラノ)[収録]2016年1月13日バービカンホール(バービカンセンター内、ロンドン)[映像監督]フランソワ=ルネ・マルタン
    ■ 字幕/約1時間41分
  • 2016.11.10
    放送障害のお詫び
    2016年11月10日(木)10時07分頃、番組宣伝映像におきまして、映像が止まるなど、お見苦しい箇所が御座いましたことをお詫び申し上げます。

    今後ともクラシカ・ジャパンをよろしくお願い申し上げます。
  • 2016.09.30
    10月編成変更のお知らせ
    10月9日(日)21時~放送の BBCプロムス2016「バレンボイム&アルゲリッチ」 において、公演プログラムに変更があり、予定より長いコンサートとなりました。

    そのため、既にお知らせしております10月の編成内容が一部変更となります。

    10月9日(日)~15日(土)、23日(日)の放送スケジュールについては、各日別番組表のページをご確認ください。
  • 2016.04.04
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』の公演収録日について
    ザルツブルク・イースター音楽祭2016『オテロ』につきまして、3月27日公演を放送予定でしたが、主催者側の都合により、3月27日には映像収録が行われませんでしたので、クラシカ・ジャパンでは、予定を変更して3月19日プレミエ公演を日本語字幕付きで放送いたします。
  • 2016.03.01
    『スカパー!プレミアムサービス 新規加入キャンペーン』
    3月中にスカパー!プレミアムサービスにて、クラシカ・ジャパンのご視聴をお申込みいただくと、4月、5月の2ヵ月間、各月の月額視聴料が1,000円(税込)になります!
    3月31日(木)のお手続き完了分まで対象となります。今が加入のチャンス!
    詳しくは、スカパー!0120-039-888(受付時間/10:00~20:00年中無休)までお電
    話ください。
  • 2015.10.30
    ホームページをリニューアルしました。
    ホームページをリニューアルし、10月30日に公開いたしました。コラムやアーティスト・インタビュー、クラシックの動画、放送情報などが楽しめるように内容をより分かりやすくし、デザインや構成を見直しております。今後、内容をさらに充実してまいりますので、引き続き、クラシカ・ジャパンをよろしくお願いします。
  • 2015.10.28
    スカパー!プレミアムサービス、プレミアムサービス光でクラシカ・ジャパンをご視聴頂いているお客様へ
    2015年10月26日(月)深夜3時より放送のシリーズ「明日のスターたち」#12はメンテナンスの為、スカパー!プレミアムサービスまたはスカパー!プレミアムサービス光にご加入のお客様はご視聴いただけません。一部の番組表に番組名の記載があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
  • 2015.10.20
    11月の番組情報を公開いたしました。
    11月の番組表情報と番組表・番組ガイドのebookをUPしました。ぜひご覧ください。
  • 2015.10.07
    番組情報表記変更のお詫び
    2015年9月より放送している「ボリショイ・バレエ1991『ジゼル』」におきまして、番組情報表記に一部誤りがございました。下記の通り変更し、お詫び申し上げます。

    【変更前】
    ヴィクトール・バリキン(アルベルト)

    【変更後】
    アレクセイ・ファジェーチェフ(アルベルト)