2019 / 07 / 03
「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」第16回【相乗効果を発揮! 広上淳一と京都市交響楽団】

写真提供:京都市交響楽団
ラフマニノフで魅せた彼らは、レクイエムをどう奏でるのか
今月は指揮者単独ではない。ファンの声援も熱い広上淳一と京都市交響楽団、この顔合わせを推す。
6月、彼らの本拠地である京都コンサートホールとサントリーホールで、ヴェルディの歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲(京都)、ブラームスの「悲劇的序曲」(東京)、五嶋龍のソロによるコルンゴルトの「ヴァイオリン協奏曲」、それにラフマニノフの「交響的舞曲」を聴いた。
広上と京響は、ラフマニノフがアメリカで手がけたオーケストラ曲にして彼の最後の作品となった「交響的舞曲」で魅せた。会場でSNS上で、賛辞が飛び交う。
パフォーマンスよろしく踊っているように見えて(実際踊ってはいる)、広上はオーケストラの音楽家たちに覇気や自信を授けつつ、演奏のイメージやアンサンブルのあり方を視覚的に指し示す。結果としてメンバーから好ましい技やアンサンブルが引き出される。
京響はそんな広上に導かれ、日本の優れたオーケストラのひとつに躍り出た。トップ云々ではなく、あくまでメジャーの1つ。このコンビよりも表層的に巧く、整った演奏はあるだろう。
しかし広上と京響の音楽的交歓、あるいはプロフェッショナルな信頼関係がもたらす質感や熱量は格別だ。
マエストロには実はミッションがある。オーケストラというパフォーミングアーツの華が、限られた音楽好きのためだけに存在するわけではないことを明らかにしたい──演奏のクオリティを落とさず、聴き手や地域に手を差し伸べる。そのために懸命だ。
広上が京響(1956年京都市によって創設)の第12代常任指揮者に就任したのは2008年4月のこと。2014年以降はミュージック・アドヴァイザーも兼ねている。指揮者とオーケストラが相乗効果を発揮するためには、やはりそれなりの時間が必要なのだ。
彼らが第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート(2017年9月サントリーホール)で奏でたラフマニノフの「交響曲第2番」とチャイコフスキーの「組曲第4番ト長調《モーツァルティアーナ》から第3曲祈り」がCD化された。ラフマニノフの「交響曲第2番」も広上淳一の十八番で、1990年代前半にイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団へ客演した際には、2週間に渡って10回指揮したこともあった。当時イスラエル・フィルの定期会員は2万5000人いたのだ。テルアビブ、エルサレム、ハイファのホールを満たした手拍子や歓声を思い出す。
近況に戻せば、広上と京響は今年11月、京都と名古屋で、かのスウェーデン放送合唱団と共演。モーツァルト、フォーレの「レクイエム」を披露する。世界最高峰の声に誘われ、新境地を奏でるか。期待は限りない。
第15回【スペイン、フィンランドをベースに躍進!N響デビューも控えた鬼才Dima Slobodeniouk】
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第13回【オーケストラ芸術の地平を拓く、34歳の川瀬賢太郎】
第12回【人を呼ぶマエストロ 山田和樹】
第11回【劇場を、新たな創造を愛してやまない鬼才マキシム・パスカル】
奥田佳道 Yoshimichi Okuda
1962年東京生れ。ヴァイオリン、ドイツ文学、西洋音楽史を学ぶ。ウィーンに留学。現在、放送出演、執筆、レクチャー、公演のプレコンサートトークで活躍。アサヒグループ芸術財団音楽部門選考委員、朝日カルチャーセンター新宿、北九州講師。中日文化センター講師。フッぺル鳥栖ピアノコンクール審査員。エリザベト音楽大学パフォーマンスフォーラム講師。著書に「これがヴァイオリンの銘器だ」「おもしろバイオリン事典」他。
<公演情報>
■京都市交響楽団「第10回名古屋公演」
(第23回スーパークラシックコンサート)
[日時]2019年11月24日(日)16:00開演
[会場]愛知県芸術劇場コンサートホール
[指揮]広上淳一
[合唱]スウェーデン放送合唱団
[管弦楽]京都市交響楽団
フォーレ:レクイエム ニ短調 op.48
モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
料金
S 13,000円 A 11,000円 B 9,000円
C 7,000円 D 売切 U25 2,000円
お問い合わせ
東海テレビ放送 事業部052-954-1107
クラシック名古屋052-678-5310
https://www.kyoto-symphony.jp/concert/?y=2019&m=11#id816
■京響スーパーコンサート「スウェーデン放送合唱団×京都市交響楽団」
[日時]2019年11月23日(土祝)14:00開演
[会場]京都コンサートホール・大ホール
[指揮]広上淳一
[合唱]スウェーデン放送合唱団
[管弦楽]京都市交響楽団
モーツァルト:歌劇「皇帝ティートの慈悲」K.621より序曲
モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183
モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
料金
S 9,000円 A 7,000円 B 5,000円 C 3,000円
お問い合わせ
京都コンサートホール075-711-3231