2019 / 08 / 14
第9回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
女性指揮者ミルガ・グラジニーテ=ティーラ、ヴァインベルクの思いを歌い、振る!
みなさまこんにちは。タワーレコード渋谷店の松下です。今月の当欄のコラムはヴァインベルク:交響曲第2番、第21番の新譜を取り上げたいと思います。1919年にポーランドで生まれたミエチスワフ・ヴァインベルクは今年生誕100年に当たります。家族全員がホロコーストの犠牲になり、自身も亡命先のソ連で逮捕されるなど、苦難の人生を歩んだヴァインベルクの音楽は近年クレーメルの精力的な活動により広く知られるようになりました。
ユダヤ教の祈りの歌を意味する「カディッシュ」と名付けられた交響曲第21番は完成までに四半世紀以上も費やした大作であり彼の総決算的な作品とも言われています。55分におよぶ単一楽章の交響曲で6つの部分から成り立っています。全体的に悲劇的な感情にあふれる作風となっていますが、ユダヤの伝統的なクレズマー音楽の要素も盛り込まれているなど、興味深い作品です。冒頭オーケストラの序奏の後にクレーメルが弾く独奏ヴァイオリンが静かに第1主題を奏でます。この交響曲では独奏ヴァイオリンが重要な役割を持っているので、クレーメルによる演奏が全体をリードしています。
終結部には女声による歌詞のないヴォカリーズが挿入されており、通常であればソプラノ歌手を起用するところなのですが、この録音では指揮者のミルガ自身がその歌声を披露しています。音楽家としてのキャリアを父親と同じ合唱指揮者としてスタートさせたミルガが歌うことは決して特異なことではなかったと言えるでしょう。昨年夏に長男を出産したというミルガの歌声はどこか慈愛に満ち、ホロコーストと戦争という悲劇をテーマにした作品において、歌詞のない歌声に様々な意味をそこから聴きとることができます。
ヴァインベルクの作品の大きな特徴に他作品の引用があげられます。この21番においても冒頭部と終結部にショパンのバラード第1番が引用されています。安っぽいパロディに決して陥ることなく、メインテーマの一部をさりげなく挿入しています。ポーランドを離れて間もないころに作曲されたバラード1番を取り入れたことには、単なる祖国への想いの他にもショパンの人生にも重ね合わせたヴァインベルク自身の心情が映し出されていると思われます。いろいろな感じ方が聴き手の想像力に委ねられていて、それがこの作品を鑑賞する醍醐味と言えます。
指揮のミルガ・グラジニーテ=ティーラはドイツ・グラモフォン(DG)が今回初めて専属契約をした女性指揮者で、2017年発売のクレーメルのヴァインベルクのCD(ECMレーベルから発売中)で室内交響曲第4番を指揮しています。また2016年よりサイモン・ラトル、サカリ・オラモ、アンドリス・ネルソンスの後を継いでバーミンガム市響の首席指揮者に就いている今最も注目を浴びている指揮者です。
ヴァインベルクの作品と、指揮者ミルガ・グラジニーテ=ティーラの活躍にこれからも注目していきたいと思います。

©ユニバーサル ミュージック
指揮:ミルガ・グラジニーテ=ティーラ
管弦楽:バーミンガム市交響楽団
演奏団体:クレメラータ・バルティカ
ヴァイオリン:ギドン・クレーメル
他
録音:2018年12月7-9日、リトアニア、ヴィリニュス[CD1]
2018年11月24-26日、バーミンガム[CD2]
規格品番:UCCG-1852
レーベル:DG Deutsche Grammophon(ユニバーサル・ミュージック)
発売日:2019年07月10日
https://tower.jp/item/4904286/
~クラシカ・ジャパンで9月14日から放送
ポートレート「ミルガ・グラジニーテ=ティーラ」~
彼女を称えるギドン・クレーメルのコメントや、二人の共演によるヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲の演奏シーンは必見。CDとあわせてお楽しみください。詳しくはこちらから
https://www.classica-jp.com/program/detail.php?classica_id=CE1802
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。