2019 / 08 / 01
第42回【ウィーン国立歌劇場150年周年に寄せて】後編
≪旅する音楽師・山本直幸の百聴百観ノート≫

ウィーン国立歌劇場
メモリアルイヤーだった昨シーズン
開場150年のメモリアルイヤーだった昨シーズンは、50のオペラ作品、16のバレエ作品などが上演されました。オペラの新演出ではR.シュトラウスの『影のない女』、ヴェルディの『オテロ』、ベルリオーズの『トロイアの人々』、ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』の他、現代作品ではトロヤーンの『オレステ」、シュタウトの『やなぎ』(世界初演)が上演されて話題になりました。特に開場150年目になる5月25日には、ちょうど100年前に世界初演された『影のない女』が、ティーレマン指揮で初日を迎え、さらに翌日にスター歌手が出演した記念コンサート(出演予定だったカウフマンがキャンセルし、アラーニャが代役を務めた)が催され、祝賀ムードが頂点に達しました。
シーズンは6月30日に終わりましたが、観客動員数、座席占有率、チケット収入などで新たに記録を塗り替えました。観客動員数は622,081人、座席占有率は99.55%、チケット収入は3,770万ユーロに達しました。立見席を除く座席の占有率では、全体で99.10%オペラ216公演では99.29%で、ほぼ毎日満席状態だったといえます。ちなみにバレエ公演の人気も高く、観客動員数が初めて17万人を超えました。
来シーズンのウィーン国立歌劇場
2019/20年は、劇場経営者として大きな実績を残している総監督メイエの最後のシーズンになります(退任後、ミラノ・スカラ座総監督に就任)。オペラは子供向けも含め58演目で223公演、バレエは21演目で54公演、コンサートは9公演、室内楽演奏会は10公演、歌曲マチネーは11公演が予定されています。
最大の注目は、2008年に『コシ・ファン・トゥッテ』を指揮して以来になるムーティが、同演目で国立歌劇場復帰を果たすことで、ムーティの娘、キアラ・ムーティが演出を担当します。新演出では他に生誕250年を迎えるベートーヴェンの『フィデリオ』の初稿『レオノーレ』が取り上げられます。指揮者では、ティーレマンが『影のない女』、ゲルギエフが『ローエングリン』、A.フィッシャーが『指輪』4部作、ハーディングが『ファルスタッフ』(シーズン最終日6月30日の公演はメータ)、歌手ではトップスターのネトレプコが歌曲マチネーに出演するだけなので、特に『ラ・ボエーム』のミミ役と『椿姫』のヴィオレッタ役のデビューを飾るガリフッリーナが最も注目されるでしょう。
2020/21年シーズンからは新体制で臨むことになります。ロシュチッチが総監督メイエ後を継ぎ、小澤征爾の後任だったヴェルザー=メストがメイエとの意見対立から2014年に辞任した後、長年空席になっていた音楽監督のポストにジョルダンが就任します。
やはりモーツァルト!
最後に、国立歌劇場が1955年に再出発して以来の上演回数ランキングを紹介しましょう。作曲家別では1)ヴェルディ作品2,913回、2)モーツァルト作品2,764回、3)プッチーニ作品1,976回、4)R.シュトラウス作品1,922回、5)ワーグナー作品1,622回の順、そして作品別では1)『フィガロの結婚」773回、2)「魔笛』726回、3)『トスカ』638回、4)「ばらの騎士』568回、5)『ラ・ボエーム』532回、6)『椿姫」463回、7)「セビリアの理髪師』441回、8)『後宮からの誘拐』424回、9)「フィデリオ』423回、10) 『ドン・ジョヴァンニ』421回の順になっています。
筆者がウィーン国立歌劇場で初めてオペラを鑑賞したのは1979年です。上演回数上位にランクされている作品も含め50以上の舞台は観ていますが、他の主要歌劇場や音楽祭と比較して感じることは、音楽面に重きを置ける安心感でしょうか。他では度肝を抜かれるような斬新な演出舞台が主流なのに対し、ウィーンでは今でも比較的オーソドックスな舞台が主流なので、音楽を優先的に楽しむことができます。そして伝統的な歌劇場だからこそ醸し出される独特な華やいだ雰囲気・・・筆者にとっては、特にオペラ慣れしていない日本人(オペラ入門者・初心者)に迷わずお勧めできる唯一の歌劇場とも言えます。
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第42回【ウィーン国立歌劇場150年周年に寄せて】前編
第41回【バーデン=バーデン・イースター音楽祭を振り返る】
第40回【トップスターの引退を惜しむ】
第39回【年末年始を振り返る】
第38回【音楽都市ドレスデン】
【クラブツーリズム テーマ旅行 音楽の旅】
旅の文化カレッジ講師 山本直幸
ベルリン留学中6年間、オペラ・コンサート通いの日を送る。特にヨーロッパの歴史や音楽・美術への造詣が深く、長年音楽旅行企画に携わり、ツアーにも同行し現地で案内役も務める。海外添乗・駐在日数は4,000日以上。音楽雑誌等に音楽旅行記事を多数寄稿。