2019 / 08 / 16
8月23日(金)より全国公開が始まる『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2018/19』ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』からロミオ役、マシュー・ボールのインタビューです!

『ロミオとジュリエット』よりバルコニーシーン ©ROH, 2015. Photographed by Alice Pennefather
2017/2018シーズンに英国ロイヤル・バレエのプリンシパルに昇進したマシュー・ボール。まだ26歳という若さで、ロイヤル・バレエスクール仕込みのエレガンスとダイナミックなテクニックを持ち合わせ、演技力にも定評がある。今年のロイヤル・バレエの来日公演では『ドン・キホーテ』に主演して喝采を浴びたほか、同じく夏に来日公演を行ったマシュー・ボーンの大人気作品『白鳥の湖』でザ・スワン/ザ・ストレンジャー役を演じ、その美しくセクシーな演技とパワフルな踊りで人気が急上昇した。
来日公演でのファンの興奮も冷めやらぬ間に、マシューと映画館で会えるチャンスがやってくる。8月23日より劇場公開される、「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」の『ロミオとジュリエット』ロミオ役で主演するのだ。まだ彼がソリストの時にロミオ役に抜擢されたことがブレイクのきっかけになっただけあり、まさにはまり役。モデルとしても活躍するほどの美しい容姿とロマンティックな雰囲気を持つマシューはロミオそのもの。来日したマシューに、この作品について語ってもらった。
取材・文:森 菜穂美(舞踊ライター)
『ロミオとジュリエット』のロミオ役について

ロミオ役を演じるマシュー・ボール ©2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks
ロミオ役は、たくさんのリハーサルを必要としており、肉体的にもハードなのでベストの状態であることが要求されます。ロイヤル・バレエのレパートリーの中でも、もっともきつい役の1つです。優れたテクニック、全編を通しての演技、複雑なソードファイト、パートナーリングとたくさんの要素を必要としていますが、それだけにやりがいのある役です。探求すべきいくつものレイヤーがあり、やればやるほど役に深くのめり込みます。今回はロイヤル・バレエで6公演に主演したのですが、2人のジュリエットを相手にしてこれはかなり回数としても多い方です。普通は3回くらいしか主演しませんから。演じて行くうちに僕のパフォーマンスも変化を遂げて行き、映画館中継は最後の6公演目でした。最後にすべてがパーフェクトにいき、特別な舞台となりました。
──このバレエでのお気に入りの場面はどこでしょうか。
『ロミオとジュリエット』ではガラ公演でバルコニーシーンを踊ることが多く、確かにここはとても美しい場面です。と同時に、全幕の中では寝室のパ・ド・ドゥを演じるのが僕は大好きです。 とても感情豊かであり、とてもピュアで無垢でナイーブな若い恋を描いたバルコニーとは対照的に、もっと物語を語っている場面です。ロミオはティボルトを殺してしまったばかりで、彼の従姉妹であるジュリエットに対しての贖罪の気持ちもあり、また追放もされてしまったところで、さらにさまざまな想いがこめられています。ここでの音楽がまたとても美しく感動的で、結婚式と初夜を終えたジュリエットとのケミストリーも深いものとなっています。

『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ ©ROH, 2015. Photographed by Alice Pennefather
『ロミオとジュリエット』のロミオ以外の役について

ロミオ役だけでなく、マシュー・ボールはティボルト役にも挑戦した(写真はギャリー・エイヴィス) ©ROH, 2015. Ph. Alice Pennefather.
ロミオ役を踊った時、マキューシオ役、ベンヴォーリオ役もバレエ団のいろんなダンサーと共演しました。バレエ団の男性の同僚ダンサーたちとは皆とても仲良しで、彼らと一緒に踊ることができたのは美しい体験でした。この3人の踊りも、明るく楽しい面が多いけど素晴らしいドラマも悲劇もあって、この作品の持つ力を加速させます。この3人のキャラクターは、本題とは別の側面であり、ロマンティックと言うよりは楽しくコミカルで、物語を先に進めていく力を持っています。いつかロミオ以外の、これらの役も踊ってみたいなと思います。ティボルト役は今回演じることができて、これも興味深い体験でした。同じバレエで対照的な別の役を演じることができるのは、違った角度から作品を見て、本来の役を演じる時にも役立ちます。
演じることについて

『ロミオとジュリエット』よりバルコニーシーン ©ROH, 2015. Photographed by Alice Pennefather
ロミオ役は、踊り手個人の個性やそれぞれの解釈をすることが必要とされていますが、マクミランは天才的で、心理面を動きへと変換する能力を持っていたので、あまりにもいじってしまってはいけないのです。同時に、過去にこの役を演じていた人と同じように演じていないことも大事だと思っています。僕自身の表現で演じたいと思いました。なぜなら舞台上で起きていることは今ここで起きていることなので、現代のダンサーは常に新しくエキサイティングなことを見せなければならないと思っているからです。そのためには自信を持つことが必要ですし、いつも新鮮な表現をしたい。
演じるにあたってはシェイクスピアのセリフも思い浮かべながら演じますし、音楽も大切にしています。プロコフィエフの音楽はとてもエモーショナルで、物語を語ってくれて、キャラクターを膨らませようとしている時に『ロミオとジュリエット』の旅路をたどる道しるべになってくれます。
ロイヤル・バレエでは上演している作品が多く同時にたくさんの作品を抱えていますが、本当はもっと時間をかけて役を掘り下げて、徹底的に役になりきりたいと思っています。どんなにやっても満足することはありません。自分とは違う1人のキャラクターとして生きるということはとても難しいことです。でもこのプロセスはとても面白くて、もっともっとやりたいと思っています。

『ロミオとジュリエット』より ©2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks
──ロミオ役の他にも、今年はさまざまな役にチャレンジされましたね。
多くの人は、ぼくはロミオ役がはまり役だと感じてくれていると思いますが、踊っていて一番楽しい役ではありません。『ロミオとジュリエット』というバレエ作品は偉大ですし、ロミオ役はお気に入りの役ではありますが、『うたかたの恋(マイヤリング)』のルドルフ役は、大きな成長の機会を僕に与えてくれました。バレエ作品で女性の主役よりも男性が重要な役を果たす数少ない作品です。
同様に男性主人公が重要なマシュー・ボーンの『白鳥の湖』のザ・スワン/ザ・ストレンジャー役も大好きです。ボーンの『白鳥の湖』は僕がまだ小さな子どもだった時に母親に連れられて観に行ってから、いつか踊りたいと願っていた作品です。この『白鳥の湖』を踊るのは、コンテンポラリー・ダンス的な要素もあって本当に楽しかったです。でもやはりルドルフ役が、バレエ作品の中での心理描写やドラマ要素の強さに惹きつけられ、最も好きな役です。こんな役は他にはありませんし、踊っている時、今度いつこの作品を踊ることができるのだろう、早くまた踊りたいと思っていました。
ルドルフ役にしても、ボーン『白鳥の湖』も、とても詩的な美しい舞踊言語で構成されていて、これらの作品もまるでシェイクスピア劇のようです。いずれの作品の役も努力が報われる役で、終演後に観客から拍手を送られることは特別な思いがしますし、舞台にあまりに多くの感情を注ぎ込み自分のすべてを尽くすので、舞台が終わったら燃え尽きてしまうほどです。
──ロイヤル・バレエをしばらく離れて、昨年の年末から年始までマシュー・ボーンの『白鳥の湖』を踊り、日本公演でも踊りました。ロイヤル・バレエでのマシューさんの踊りにはどんな影響がありましたか。
マシュー・ボーンの『白鳥の湖』を踊ったことは、その後のパフォーマンスにも影響はあったと思います。マシュー・ボーンはクラシック・バレエとは違ったバックグラウンド出身の振付家でダンスのスタイルが違います。そして幸運にも、なんと21公演も主演することができたのです。今まで踊った主役で、こんなにたくさんの回数を踊ったことはありませんでした。僕の体の一部分がこの作品にとてもマッチしていて、大きな自信を与えてくれました。舞台の上で気持ちよく踊ることができたので、自分自身でどんな表現をするのかという勇気を与えてくれ、自由を感じ、そして表情豊かでちょっとクレイジーな表現をすることもできたのです。
プリンシパルになって
──昨年ロイヤル・バレエのプリンシパルに昇進されました。プリンシパルになって、何か変わったことはありましたか?
プリンシパルに昇進したことで、自分の踊りはもっと多くの人の目に触れるようになりますが、そんなに大きな変化は感じていません。毎日リハーサルに励み長時間一生懸命稽古していますが、それはもう長年続けていることです。これからも、同じように地道な努力を続けて向上していきたいと思っています。ダンサーとしては単に高く跳んだり多く回ったりするのではなく、自分の感情に正直に、個性を大切にしながら観客の目を引きたいと思っています。 自分で自分を評価することは難しいですが、正直で誠実なダンサーであることは大切なことであり、そう心掛けたいと思います。
来シーズンについて
──来シーズンはどのような作品を楽しみにしていますか?日本でも、ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズンでマシューさんの踊りをたくさん観られることを期待しています。
来シーズンは『マノン』のデ・グリュー役を演じるのを楽しみにしています。まだこの役は踊ったことがありませんが、マクミランの全幕作品の中でも傑作です。まだ8歳か9歳の時に、映画館でタマラ・ロホとカルロス・アコスタが主演した舞台を観ました。これもまたとても美しい作品で、男性の主役がドラマティックに演じることができる数少ない役です。
ほかにも、来シーズン楽しみな作品はたくさんあって、1つに絞り込むのは難しいのですが、新作は特に楽しみです。僕はアーティストとして、新作のクリエーションに携わること、古い作品を再演するだけでなく、将来のためのレガシーを作り上げることはとても大事だと感じています。ロイヤル・バレエのレパートリーはとてもユニークであり、僕たちダンサーにとっては大変でもあります。年間を通して非常にたくさんのバレエを踊り、多くの場合それぞれスタイルが異なっています。さまざまな別の方向へと押し込まれているような感じで、挑戦を受けて立っているようであり、決して退屈することはありません。ぜひご期待ください!

『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ ©ROH, 2015. Photographed by Alice Pennefather
ロイヤル・バレエが誇る名作『ロミオとジュリエット』で、情熱的で瑞々しいロミオを演じるマシュー・ボールをスクリーンで観て、ジュリエットのように彼との熱い恋に落ちてほしい。バレエを愛する熱い心が言葉の端々から伝わってきて、これからの活躍から目が離せない存在だ。
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2018/19』
ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』
2019年8月23日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか、全国公開!
運命に翻弄され、短い生を熱く駆け抜けた恋人たちを描いたウィリアム・シェイクスピアの不朽の名作「ロミオとジュリエット」。運命の恋人たちが情熱的に短い生を駆け抜ける本作は英国ドラマティックバレエの最高峰。ロイヤル・バレエの演劇性と、あまりにも美しく儚くロマンティックなバルコニーシーンの二人に心奪われる。
上映情報、作品解説などはこちらよりご覧ください。
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=romeo-and-juliet
※本作の公開を記念して、英国ロイヤル・バレエ オリジナルレターセットとマグネット4個をセットでプレゼント!応募締切は 9月1日(日)です。
https://www.classica-jp.com/members/present/
森 菜穂美 Naomi Mori
舞踊ライター、翻訳。9歳までロンドンで過ごす。早稲田大学法学部卒業。企業広報、PR会社勤務、映画配給・宣伝、リサーチャーを経て、フリーランスに。おもにダンス・バレエを中心に取材、執筆および翻訳。新聞、雑誌や海外・国内のWEBサイト、バレエ公演や映画のパンフレットに日本語/英語で寄稿。映画字幕や書籍の翻訳監修も。監修した書籍に「バレエ語辞典」(誠文堂新光社)など。大人バレエを習いつつ、国内外で幅広く舞台鑑賞をしている。