2019 / 08 / 23
8月29日と9月1日にBunkamuraオーチャードホールで行われるオペラ『フィデリオ』(演奏会形式)の指揮者パーヴォ・ヤルヴィにインタビュー!

©CLASSICA JAPAN / Rikimaru HOTTA
現在、NHK交響楽団首席指揮者、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団芸術監督、エストニア・フェスティバル管弦楽団の創設者・音楽監督として活躍し、2019年9月よりチューリヒ・トーンハレ管弦楽団音楽監督兼首席指揮者も務める世界的指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。
2019年8月29日と9月1日にBunkamuraオーチャードホールで行われるオペラ『フィデリオ』(演奏会形式)を指揮する彼は、ベートーヴェン唯一のオペラをコンサートの中でどのように解釈するのか。また、2013年ドイツ・カンマーフィルとの来日演目でもある『フィデリオ』を、今回はN響と一緒にどんな音楽を創り出そうとしているのか。
ヤルヴィの現在の音楽観を知るとともに、『フィデリオ』の予習としてもお薦めだ。
取材:石川了(クラシカ・ジャパン編成部)/文:井手朋子(クラシカ・ジャパン編成部)
※この記事は、クラシカ・ジャパン8月放送のクラシカ・音楽人<びと>「パーヴォ・ヤルヴィ~『フィデリオ』に寄せて」より一部抜粋した記事です。番組では、バーンスタインとの出会いや若い時の打楽器の勉強が現在に与えている影響、ライブ配信やSNSといったテクノロジーの変化に対応するクラシック音楽の未来についても語っています。番組は8月いっぱい放送しておりますので、ぜひご覧ください。
NHK交響楽団と『フィデリオ』を演奏するということ
私が芸術監督を務めるドイツ・カンマーフィルでは、ベートーヴェンの交響曲ツィクルスを10年かけて行いました。だから『フィデリオ』に到達した頃には明確な構想がありました。自分のベートーヴェンはこのように鳴らしたいという考えです。
ドイツ・カンマーフィルは、ベートーヴェンの時代の歴史的奏法に精通しています。さらに、バロック音楽やロマン派音楽以前のさまざまなスタイルにも対応できるので、私たちは当時のサウンドや考え方を『フィデリオ』にも反映させました。
一方、NHK交響楽団はドイツ音楽の伝統があり、ベートーヴェンをはじめとするドイツ系の作曲家はお手のものです。そして、この楽団の強みは抜群の適応能力であり、コンセプトの理解の速さ。今回の『フィデリオ』では、ベートーヴェンのパワーと晩年のサウンドを体感できるはずです。まさにそこはN響が得意とするところでもあります。
ベートーヴェンにおける『フィデリオ』の存在
『フィデリオ』は、私にとっても重要な作品です。なぜなら、『フィデリオ』はベートーヴェンの音楽を興味深い形で集約しているからです。
彼の音楽の中心は器楽です。ピアノ・ソナタもそうですし、弦楽四重奏や協奏曲、もちろん交響曲もそう。そこに声楽を加えることで、ベートーヴェンの音楽の全体像が完成します。偉大な交響曲作家の声楽が付いた作品だからこそ、『フィデリオ』は極めて重要なのです。
『レオノーレ』序曲第3番について
『レオノーレ』序曲第3番は、通常第2幕の中で演奏されます。長い曲なので、オペラ上演では時として省略されることもあります。しかし、私が思うに、この曲は特に演奏会形式で抜群の存在感を放ちます。シンフォニックな部分が強調されるからです。
演奏会形式の1つの良さは、オーケストラがステージ上にいるため、音楽自体が際立つこと。オペラ上演で、実際に彼らがオーケストラ・ピットの中でどんなことをしているのか、観客が直接見ることができるのです。だから今回は、『レオノーレ』序曲第3番と『フィデリオ』序曲の両方を演奏します。
ヤルヴィが考える演奏会形式の『フィデリオ』

©CLASSICA JAPAN / Rikimaru HOTTA
イタリアでは、オペラに多くのアリアやドラマ、動きが求められるため、演奏会形式というものがほとんど存在しません。演奏会形式は、オペラとオラトリオの間というかコンサートのようなものだから、オペラとみなされていないのでしょう。
私は、『フィデリオ』はオペラ上演より演奏会形式の方が合っていると思っています。台詞が長いこともありますが、ベートーヴェンはオーケストラが醍醐味だからです。
そして、そのオーケストラに集中できるのが演奏会形式と言えます。演出であちこち動き回らなければならない歌手たちを、観客が目で追う必要がありませんからね。
指揮者の中には台詞をすべてカットする人もいますが、それは少し行きすぎだと思います。『フィデリオ』は番号オペラなので、楽曲と楽曲を自然につなげる何かがなくてはなりません。
『フィデリオ』の魅力はアンサンブル
この作品の魅力は、何と言ってもアンサンブルです。それは、とても深淵で美しい。しかし、この美しいアンサンブルが、オペラ上演では迷走することもあります。歌手が客席に背を向けたり、指揮者が見えない位置で歌わなければならなかったり。演出が原因ですよね。
今回は、誰もが距離が近く、全員が指揮を見ることができるので、歌手たちも一体感を感じながら親密なアンサンブルが可能です。それはコンチェルタンテにおける大きなメリットです。
また、この作品では、登場人物と彼らの関係がアンサンブルで紹介されていきます。最初に多くの人が登場しますが、1人ずつ紹介する必要がない。人物を紹介するのにアンサンブルは効果的です。
『フィデリオ』に出演する歌手について
私の記憶が正しければ、今回すべての歌手が、プロダクションは違っても一度は『フィデリオ』に出ています。彼らはとてもレベルが高い。今回の歌手たちは望みうる最高のキャストでしょう。
彼らは間違いなく、各々の解釈で公演に臨んできます。役柄のキャラクターについても意見があると思います。ですから、私はまず歌手たちの話を聞きます。彼らの役に対する学習やひらめきを信頼したいのです。それが、リハーサルや本番で指揮者ができる最大の貢献であることを、これまでの経験で分かっているから。会ったその場であれこれ指示を出していたら、歌手たちの実力を最大限に引き出すことはできませんよね。
オペラ『フィデリオ』(演奏会形式)
日時:2019年8月29日(木)19:00、9月1日(日)14:00
会場:Bunkamuraオーチャードホール
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ(N響首席指揮者)
ドン・ピツァロ:ヴォルフガング・コッホ
フロレスタン:ミヒャエル・シャーデ
レオノーレ(男装時 フィデリオ):アドリアンヌ・ピエチョンカ
ロッコ:フランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒ
マルツェリーネ:モイツァ・エルトマン
ジャキーノ:鈴木 准
ドン・フェルナンド:大西宇宙
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平
管弦楽:NHK交響楽団
公演に関するお問合せ:Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(10:00~17:30)
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/19_fidelio/