2019 / 09 / 04
バレエ・アム・ライン初来日公演記念!今最も旬なバレエ振付家、マーティン・シュレプファーがアム・ラインと『白鳥の湖』を語る【前編】

バレエ・アム・ラインの芸術監督を務めるマーティン・シュレプファー ©Gert Weigelt
スイス出身のマーティン・シュレプファーは、今最も熱い視線が注がれている振付家だ。2009年にドイツ・ライン歌劇場のバレエ・カンパニーであるバレエ・アム・ラインの芸術監督兼首席振付家に就任後、同団の実力向上とレパートリーの拡充を大胆に推し進め、ヨーロッパ屈指の名門バレエ団に育て上げた。2018年には、マニュエル・ルグリの後任として2020/21年シーズンからウィーン国立バレエ芸術監督を任されることが発表され、鬼才のさらなる躍進が期待される。
クラシカ・ジャパンでは、9月に行われるバレエ・アム・ラインの初来日公演を記念して、特別番組を放送。公演に先駆け、シュレプファーのインタビュー記事をお届けする。
バレエ・アム・ラインについて

©Gert Weigelt
私がアム・ラインに来る前は、ライン・ドイツ・オペラのバレエ団という名前ですでに大きな成功を収めていました。劇場も変わらず、デュッセルドルフとデュースブルクで行うこと、デュッセルドルフ・フィルハーモニーとデュースブルク・シンフォニカという2つのオーケストラでやることも変わりません。
私が来てから変わったことは、アーティスティックな状況の変化です。新しくバレエハウス(5つのスタジオ、3000平方メートルの大きな建物)を作ったこと、そしてカンパニーの名前が変わりました。美徳の部分を変えたと言えるのではないでしょうか。純粋なダンスに目を向けたというのは、決してストーリー性があるバレエをしないとか、嫌いというわけではありません。アーティスティックな観点からの変革を続けてきたことで、我々のカンパニーに対する外からの評判や印象が変わったのではないでしょうか。
──バレエハウスが出来て、具体的に変わったことはありますか?
大きなバレエスタジオが5つありますので、複数の作品を平行して稽古することができます。ダンサーのためだけでなく、事務局チームのためのオフィススペースもたくさん作ることができました。リラックスできるキッチンも作り、静かに過ごせるリラックスルームやサウナもあります。マッサージや治療を受けられる部屋もあります。トレーニングジムもあり、ダンサーたちをきちんと受け入れられる準備が整っています。
バレエは精神と身体の距離感が近いので、それを開放できるようなスペースを作ることができて、精神的に良い結果をもたらしています。また、本番と同じサイズの舞台でリハーサルが出来ますので、それもとても良い条件です。オペラハウスの中には、私たちのためのスペースがなかったので、これは必要なことでした。
2018年に作られた新作『白鳥の湖』について

©Gert Weigelt
私個人として大型の古典的な作品を取り扱うということをずっとテーマにしていたのですが、その準備に3、4年は必要だと思っていました。『白鳥の湖』にするか『眠れる森の美女』にするか迷っていて、初めは『眠れる森の美女』の方がストーリーを抽象的に表現できるので、その方が自分に合っていると思ったのです。ですが、私は抽象的なものが好きなのと同時に、人間関係を心理的に見ていく作業がとても好きなので、やるならば『白鳥の湖』かなと思っている時に、小澤征爾が指揮するチャイコフスキー原典版の録音を聴き、倒れてしまうぐらいの衝撃を受け、それが最後の決め手になりました。
小澤征爾の『白鳥の湖』はとても不思議で、ダンスにフォーカスしていないのに、彼の録音を聴いた時、ものすごくドラマを感じるダイナミックな音だと感じました。これまでの『白鳥の湖』の音楽のように幅広くどっしりとした感じではなく、テンポがスピーディな感じで、この(小澤征爾のテンポ)方向でいこうということになりました。リブレット(台本)はオリジナルを使っているので、プティパ・イワノフ版とは違うのですが、オリジナルは登場人物が多いんですね。なので、新しく演出していくにはこの音楽がいいのではないかと確信しましたし、私の場合、まず音楽が一番なので、そこからインスピレーション受けました。

バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』より ©Gert Weigelt
私が書いたものという意味ではなく、改編される前の初版台本のことです。オリジナルは登場人物が多いのですが、最初に作られたモスクワの1つ目と2つ目の作品は、チャイコフスキーの音楽を彼の意図に反して切り貼りをしてしまったため失敗に終わりました。その後徐々に変化が加えられ、1895年サンクトペテルブルクでプティパとイワーノフによって成功を収めますが、これも黒鳥の音楽をチャイコフスキーは元々1幕で書いていたものを3幕で使ったりして変えています。
私はオリジナルを大切にしたかったので、チャイコフスキーが求めた、創造したストーリーと音楽を使って、演出もオリジナルを忠実に再現したかったのです。オリジナルでは登場人物にオデットのお祖父さんが出てきたり、オデットの継母が悪役で登場します。オリジナル以外ではロットバルトは悪役として描かれていますが、本当は悪い魔女なのはオデットの継母であって、ロットバルトは継母の言うとおり魔法を遂行するだけの人であったりします。私にとって大事だったのは、新しく作るのであれば、今まで成功しているプティパとイワーノフのコピーだけは避けたかった。それは意味のない演出になってしまうと思ったので、やるのであれば一から新しくしたかったのです。

祖父とオデット ©Gert Weigelt
役割はわりとクリアになっていると思います。お祖父さんの役柄だからお祖父さんらしい衣装を着せて、お祖父さんらしく動かすということはしません。モダンダンスの作品を作る私としては、ダンサーはダンサーであって、そのダンサーが役を踊るという基本的な考えがあります。もちろん物語を描くのですが、クリアに心理的に見せようとしています。日本語で言う“行間”でしょうか。“間にある空間”を大事にしています。お客さんにも想像してもらいたいので想像できる“空間”を残しています。ですので、あまり具体的に表現していないというところもあります。
例えば、『白鳥の湖』は日中は白鳥で夜になると女性になるという設定ですが、私の演出では裸足であることで彼女たちが自然体であることと同時に魔女のもとにさらされる無防備な女性たちだということを表現しています。1幕と3幕の王宮のシーンではトウシューズで踊るダンサーが登場しますが、それは靴を履くということで伝統的な王宮での暮らしやルールを表現しています。また、白鳥の中で唯一オデットがトウシューズで踊ります。オデットは祖父に守られているため、(ほかの白鳥とは)違うステータスを持つ、いわば冠の代わりとなるシンボルとしてトウシューズを使用しているのです。
~インタビュー【後編】へ続く~

バレエ・アム・ライン《白鳥の湖》より ©Gert Weigelt
バレエ・アム・ライン初来日公演
マーティン・シュレップァー演出『白鳥の湖』
東京公演:2019年9月20日(金)18:30、21 日(土)11:30、18:30 Bunkamura オーチャードホール
兵庫公演:2019年9月28日(土)15:00 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
出演:バレエ・アム・ライン(ライン・ドイツ・オペラ バレエカンパニー)
演出:マーティン・シュレップァー(バレエ・アム・ライン芸術監督/振付家)
指揮:小林資典(ドルトムント市立オペラ 第一指揮者)
演奏:シアターオーケストラトーキョー(東京公演)/大阪交響楽団(兵庫公演)
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
東京公演チケットに関するお問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00~18:00)
公式HP https://ballettamrhein.jp/
~放送情報~
■ポートレート「振付家マーティン・シュレプファー」
【放送日時】 9月16日(月・祝)21:00~22:35、ほか
■シュレプファー&バレエ・アム・ライン『白鳥の湖』
【放送日時】 9月23日(月・祝)21:00~23:30、ほか
https://www.classica-jp.com/feature/201909/06.html
~コラム&インタビュー~
もうひとつの『白鳥の湖』~バレエダンサーにしか踊れないコンテンポラリーダンス~海野 敏(東洋大学教授・舞踊評論家)