2019 / 11 / 11
神奈川県立音楽堂でアルディッティ弦楽四重奏団とダンサー小㞍健太がコラボレーション!小㞍健太にその意気込みを聞いた

小㞍健太 photo by momoko japan
世界に誇る名手が登場し至高の音楽を紹介する、神奈川県立音楽堂の「音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ」。このシリーズに、アルディッティ弦楽四重奏団と小㞍健太が登場するということで注目が集まっている。今年で開館65周年を迎える日本初の音楽専用ホールである神奈川県立音楽堂に、ダンサーが登場することは大変珍しい。
アルディッティ弦楽四重奏団は、難解と思われている20世紀以降の作品を類まれなテクニックと深い作品解釈で演奏し、聴く者にスリリングな体験と新たな発見をもたらしてくれるカルテットとして絶大な人気を誇る。結成から40年あまり、彼らのために作られた作品も多数ある。そんな他の追随を許さない孤高のカルテットと、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)で活躍し、現在はソロとして活動しているダンサー・振付家の小㞍健太がどのようなコラボレーションを展開するのか、小㞍健太に話をうかがった。
取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)
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小㞍健太とコレボレーションを行うアルディッティ弦楽四重奏団 ©青柳聡(提供:世田谷文化財団)
衝撃を受けた、現代作曲家リームの楽曲

小㞍健太 photo by momoko japan
「アルディッティ弦楽四重奏団は、以前白井剛さんが共演されていたこともあり知っていましたが、交流はありません。生演奏でのソロの共演は機会が少ないので、是非にとお受けしました。候補曲の中からリームの作品を選びました。一番引っかかったんです。踊るとなるとどうなるかということを考える以前に、すごい衝撃を受けました。向き合いたくないほど難題だけれど気になってしまって」
コンサートでの上演予定4作品のうち、小㞍が登場するのは後半の2曲。ヴォルフガング・リームの『Geste zu Vedova ~ヴェドヴァを讃えて~』(2016年)と『弦楽四重奏曲第3番〈胸裡〉』(1976年)。リームは1952年、ドイツのカールスーエ生まれ、多作で録音も多く、現在も活動を続けるまさに現代作曲家だ。2作品は作曲年代が離れていることもあるが作風が異なる。これらを関連づけた構成にするとのこと。

小㞍健太 photo by momoko japan
「リームの作品はこれまで聴いたことはありませんでした。音楽学者の沼野雄司さんにリームは後期ロマン主義に続く新ロマン主義の作曲家であり、なぜそう言われているのか、ということと、さらに楽譜を見ながらリームの音楽の特徴を教えてもらいました。『ユニゾンがバラバラになってここで第1、第2ヴァイオリンに引き継がれまた一緒になる』、とか『不協和から透き通った音に変わるここの部分は重要』というように。音楽を聴いているだけでは限界があると感じたので、教えを受けることで創造の材料となる情報を得ることができました。最初は楽譜を目で追っていくのすら大変だったのですが、アドヴァイスをいただきながら楽譜を読み解いていくことで違う視点を得ることができ、音楽の印象や解釈が変わってきました」
舞台外のパフォーマンスがポイントに

©momoko japan
「最初の『Geste zu Vedova~ヴェドヴァを讃えて~』は、近年の楽曲ということもあり、プログラマーと組んで現代的な手法で振付アイディアを取り入れたインスタレーションにするつもりです。また観客はコンサートホールでダンスに触れるわけですから、初めてダンスを見る方もいらっしゃるかもしれない。二部で僕が踊る前に是非ダンスに触れていただけたらと思い、観客のみなさんに近いところで動いて、私たちの存在を共有したいと考えています。後半の『第3番<胸裡>』は、 人が胸に秘めている感情をテーマに舞台上で展開するので、そうすることで、舞台にいる僕の表現を身近に感じていただけるかなと思っています」
「アルディッティのメンバーとは同じ空間に響く音楽でコラボレーションを目指します。彼らの呼吸で僕は音を予感できるし、もしかしたら彼らは本番でリハーサルとは違うことをしているかもしれない。その場で起きたことに対応する余地は残してあります。そういう予定調和でないことは大好きです」

小㞍健太 photo by momoko japan
コンテンポラリー・ダンスを教える機会も多い小㞍。自身はクラシック・バレエの基礎を身につけ、キャリアの最初はクラシック・バレエのダンサーとして活動していた。その後、コンテンポラリー・ダンスの作品のみを上演する、20世紀を代表する振付家、イリ・キリアンが芸術監督を務めるNDTへと飛び込み、コンテンポラリー・ダンスを踊るようになった。
「コンテンポラリー・ダンスを踊るダンサーは、身につけた何かしらのメソッドやバックグラウンドに反発してコンテンポラリーへとやってきます。ヨーロッパでは、コンテンポラリー・ダンスの元は主としてバレエ・テクニックと捉えられています。コンテンポラリー・ダンスは、自身が持つ下地(僕の場合はクラシック・バレエ)とは異なる身体性や表現を求めて枝分かれして新たなメソッドを生み、それを確立したり壊したりして探求している過程の姿だと僕は思います」
現代音楽とコンテンポラリー・ダンスは、それぞれクラシック音楽とクラシック・バレエが辿りついた現在の姿、ということになる。それぞれのジャンルの最先端に立つ生身のアーティストの邂逅という貴重な瞬間、そこで何が生まれるのか期待せずにはいられない。
アルディッティ弦楽四重奏団×小㞍健太(ダンス)
出演:アルディッティ弦楽四重奏団、小㞍健太
音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ25
日時:2019年11月30日(土)15:00
会場:神奈川県立音楽堂
https://www.kanagawa-ongakudo.com/detail?id=35999
他都市公演
日時:2019年12月1日(日) 17:00
会場:愛知県芸術劇場 小ホール
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000172.html
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。