2019 / 12 / 24
【公演中止】「チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲」に振付を施した『WIND GAMES』東京シティ・バレエ団が2020年7月に上演~気鋭の振付家、パトリック・ド・バナにインタビュー

『WIND GAMES』の振付を行い、リハーサルのために来日したパトリック・ド・バナ 撮影:鹿摩隆司
事実上世界初演となる『WIND GAMES』

撮影:鹿摩隆司
東京シティ・バレエ団は、2020年7月にチャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』に振り付けた作品を上演する。気鋭の振付家、パトリック・ド・バナによる振付で、すでに第1楽章は2013年2月にウィーン国立バレエ団、第2楽章は2017年5月に上海国立バレエ団により上演されているが、第3楽章を新たに東京シティ・バレエ団のために振り付け、全楽章を上演するという。ゲストにはボリショイ・バレエ団のプリンシパル、オルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンを迎え、ヴァイオリニストの三浦文彰、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が演奏する。この公演では他に、『レ・シルフィード』、『バレエ・コンサート』も上演される。
東京シティ・バレエ団のリハーサルのために来日していたバナからコメントをもらうことができた。

撮影:鹿摩隆司
「東京シティ・バレエ団のパフォーマンスをこれまで見たことはありませんでした。けれども今回、オーディションをして出演ダンサーが決まり彼らと共に作っていく中で、非常に満足感を得ることができました。一緒に仕事ができて幸せですし光栄だと思っています。このバレエ団をとても愛しています。規模の大きいプロジェクトですが、やりきることができると確信しています」

撮影:鹿摩隆司
作品タイトルは『Wind Games』という。この『ヴァイオリン協奏曲』を聴いて感じたイメージからつけたのだそう。
「チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』からは、チャイコフスキーの祖国、ロシアの広大な大地を吹き抜けていく風を感じました。そこには遊牧生活をしている騎馬民族が勇壮に駆け巡っていて、馬がいて狩をするための鷹がいる。鷹は、空を飛んでいる時に風を使って翼を大きく広げたり滑降したりしている。そういう鷹の目を通して大地を見ているような感じがしたのです。ロシアの国章に描かれている双頭の鷲も思い浮かびましたね。そんな崇高な鳥が風とともに舞っているイメージから『Wind Games』とタイトルをつけたのです。すでに第2楽章までは上演してはいるのですが、第2楽章は、オルガとセミョーンのソリスト2人によるパ・ド・ドゥにするなど、今回ほぼすべて作り直しより良い内容にしました。ですから、全曲通して上演する東京シティ・バレエ団による公演が、事実上『Wind Games』の世界初演となります」

撮影:鹿摩隆司
東京シティ・バレエ団は、音楽を大切に考えるカンパニーであり、それはウヴェ・ショルツ振付の『ベートーヴェン交響曲第7番』や同じくショルツ振付でメンデルスゾーンの『弦楽八重奏曲変ホ長調作品20』を使用した『オクテット』を日本初演し、大成功を収め大事なレパートリーとしていることからもわかる。さらに2018年の創立50周年記念『白鳥の湖』(藤田嗣治の美術)公演では、指揮に大野和士、オーケストラに東京都交響楽団を迎えて3日間上演した実績もある。ちなみにこれまたビッグ・ニュースだが、今回のソリストであるスミルノワ&チュージンのペアで、この創立記念で上演した藤田嗣治の美術による『白鳥の湖』が同じく2020年7月に上演されることが決定している。

撮影:鹿摩隆司
2020年はベートーヴェン生誕250年であると同時に、チャイコフスキー生誕180年というメモリアル・イヤーでもある。バレエ・カンパニーとしてはむしろチャイコフスキーの記念の年であることを意識したいところ。偶然かもしれないがメモリアル・イヤーにチャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』が使われていることも話題性が高い。小品ではなく、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾを存分に堪能できる「ヴァイオリン・コンチェルト」に挑むのだから、しかも三浦文彰がソリストを務めるのだから、音楽ファンとしても非常に気になるところだ。
シンフォニック・バレエのレパートリーをこうして増やしていく東京シティ・バレエ団のチャレンジ精神がどのようなパフォーマンスとして結実するのか、まだ見たことのない新しいバレエ、新しいチャイコフスキーがとても楽しみだ。
取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)

撮影:鹿摩隆司
「トリプル・ビル2020」
『WIND GAMES』/『レ・シルフィード』『バレエ・コンサート』
※新型コロナウイルス感染症の影響により、本公演は中止となりました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000558.html
日時:2020年7月11日(土)17:00/12日(日)14:00
会場:ティアラこうとう大ホール
上演演目:
『WIND GAMES』振付:パトリック・ド・バナ
『レ・シルフィード』演出:石井清子(ミハイル・フォーキン振付による)
『バレエ・コンサート』
出演:
オルガ・スミルノワ(ボリショイ・バレエ団プリンシパル)
セミヨン・チュージン(ボリショイ・バレエ団プリンシパル)
三浦文彰(ヴァイオリニスト ※『WIND GAMES』のみ)
芸術監督:安逹悦子
指揮:井田勝大
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。