2020 / 02 / 28
巨匠ケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』が待望の映画化!~ロミオ役のウィリアム・ブレイスウェルにインタビュー
英国ロイヤル・バレエを代表する名作中の名作、巨匠ケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』が初めて映画館で鑑賞できる作品として映画化された。舞台を飛び出し、ヴェローナの町を再現したセットでロケーション撮影された本作では、フレッシュな若手ダンサーたちを起用して、永遠の恋人たちのラブストーリーをドラマティックに描いている。映画『キャッツ』で主演したフランチェスカ・ヘイワード演じるジュリエットと恋に落ちるロミオを演じたのは、英国ウェールズ出身の新星ウィリアム・ブレイスウェル。少年の面影を残した、長身でノーブルな若手ダンサーだ。『輝く英国ロイヤル・バレエのスター達』の公演で来日したウィリアムに、『ロミオとジュリエット』について語ってもらった。
取材・文:森 菜穂美(舞踊ライター)
これは特別な作品になるだろうと思った
──映画版『ロミオとジュリエット』のロミオ役に決まった時、どう思いましたか?

ロミオ役を演じるウィリアム・ブレイスウェル
キャスティングのためにスクリーンテストを行いました。その途中で、女性ダンサーたちがジュリエット役のスクリーンテストを受けているのを見ていて、フランキー(フランチェスカ・ヘイワード)のための役だと確信しました。彼女が演技を見せているのを見て、彼女が選ばれないということはあり得ない、と。それで彼女とぴったりだと思われた人がロミオ役に選ばれるのだろうなと思いました。最後に残された3人が、僕とフランキーとマシュー・ボールでした。その時点では、僕はベンヴォーリオ役かな、とキャスティングがどうなるか確信を持てずにいました。だから結果が発表された時には、スクリーンテストを受けた後だったのにちょっとショックを受けたほどです。どんな作品になるのか分からなかったけど、最初からこれは特別なものになるだろうということだけは分かっていました。
──マクミランの『ロミオとジュリエット』のロミオ役は、バーミンガム・ロイヤル・バレエに在籍していた時にすでに踊っていましたね。
はい。バーミンガムではデリア・マシューズとヤオシャン・シャンと共演していて、素晴らしい経験でした。踊るのが特に好きな作品の1つです。だからこの作品が長編映画になるということを知って、誰もが興奮していました。でもキャスティングはどうなるかは分からなかったし、正直、有名なプリンシパルが主演するのだろうなと思っていました。僕がロミオ役に選ばれて本当に驚きました。
──この作品はすでに400回以上も上演されていて、観客にも愛されています。この作品の何がそんなに特別なのでしょうか。
登場人物と創り上げる関係性が素晴らしいと思います。マクミランは天才で、踊りや動きを通して細かく複雑な感情を表現することができるように作られています。それもクラシック・バレエの舞踊語彙を使って。だけど時々は古典的ではない部分もあって、絶妙なバランスなのです。また、作品の中で登場人物を成長させる手腕も素晴らしい。とても明確で、音楽と見事に融合して盛り上げていくので、本当に不朽の名作だと思います。とにかく短い間、わずかひと晩の間に主人公たちが成熟していき、その様子を細かく見ることができて凄い!と思います。
──フランチェスカ・ヘイワードとの共演はいかがでしたか?
フランキーは夢のようなパートナーです。重要なことですが本当に表現力が豊かで、彼女に見つめられると、持てるすべてを捧げられているような気持ちになります。彼女はステップが完全にできているので技術的なことについては考えていなくて、2人の間のつながりを重視しているのですが、パートナーとして踊るにはそれがとても大切です。そのことでパートナーリングもとても楽になるし、素晴らしい経験の積み重ねになりました。フランキーはもうすでにスターですし、そんな彼女と映画で共演できたなんて、なんて幸運なことだったのだろうと思います。
──映画版ではクローズアップなども多いのですが、舞台で踊るのと演技や踊りはどんな違いがありましたか?
半分近く撮影した時に撮影済みの映像を少し観て、どれほどのクローズアップがされていたのかを知って驚きました。こんなに細かいところまで映っていたとは予想していませんでした。それ以来、もっと演技も表現も抑え目にすることを心がけました。舞台で演じる時のように、100メートルも離れた観客に届くような演技をしなくて済むので、とても自然で本当に起きているような表現ができるのだと思います。
出来上がってみて、どんな結果が得られるかも分からないでこの作品に挑んだ自分たちを誇りに思いました。全く新しい経験でしたが、さらにほかのバレエ作品も映画化することを考えていると聞いて、素晴らしいことだと思いました。他のダンサーたちにも、ぜひこの映画作りを経験してほしいと思ったのです。
また、共演者たちが皆素晴らしかったおかげでこのやり方で力を発揮することができました。僕は最近になってバーミンガム・ロイヤル・バレエからロイヤル・バレエに移ってきた新参者ですが、この経験を通して本当にロイヤル・バレエに受け入れられたと感じました。この撮影グループは連帯感がとっても強かったのです。
──共演者たちはどんな人たちですか?
リハーサルのプロセスでもお互い平等で仲良くて、ものすごく楽しかったです。撮影の時の空気もとてもハッピーで、ちょっと実験的なこともやりました。映画の撮影の最中で予定していたことを少し変えるといったことも多々あり、それに適応していきました。こんな風に変えてみよう、これを反対向きにしてみよう、といったことはよくあったけど、それがわくわくさせてくれたのです。どうなるかやってみよう、という感じでした。監督だけじゃなくて僕たちも話し合って、特にマルセリーノ・サンベ(マキューシオ役)とジェームズ・ヘイ(ベンヴォーリオ役)とはお互い現地で段取りを決めました。こっちを向けばこうやって刺すことができるという風に。監督も僕たちの意見を尊重してくれたし、それが楽しかったのです。
フランキーもジェームズもマシューも同世代でジェームズは少しだけ年上でしたが、同時にロイヤル・バレエ・スクールに在籍していたのです。(ロウワースクールの)ホワイト・ロッジから一緒です。長年の友達なので、家族みたいなものですよ。
撮影はとても和やかなムードで進んできましたが、他のキャストとも仲良くなりました。乳母役のロマニー・パイダクと親しくなれたのも嬉しいことです。彼女は本当に素晴らしいアーティストなのですよ。
──マルセリーノ・サンベ、マシュー・ボールはどんなダンサーですか?
マルセリーノは、僕が今まで会った中で最もエネルギッシュなダンサーだと思います。クラスレッスンでも、彼にはこんなすごいことができるんだ!といつも驚かされています。舞台の上に立つとさらに際立ちます。簡単にはできないことをたやすく舞台上でできてしまうのです。本当に美しいダンサーです。マシューはとても強靭なダンサーですね。そして本当によく稽古をしていて、僕はひたすら彼を尊敬しています。全てのことにものすごく時間をかけ、努力を惜しまないのです。さらにどんなことでもとてもよく考えていて、称賛に値します。彼は常にすべてにおいてベストを尽くしている人なのです。
──あなた自身はロミオに似ていますか?
ある意味似ているかもしれませんね。最初のうち彼は呑気で夢見がちで、そこはちょっと僕に似ています(笑)。でも突然大きな出来事を経験するわけです。本当に大変なことが彼に起きてしまうわけですが、幸いなことに僕にはまだそのような経験はありません(笑)。でも演じるにあたって、恋に落ちて、そこから本当に愛する人を失ってしまうという自分の経験も引き出しながら演じました。だから、ロミオより僕はもう少しロジカルな人だと思います。
実年齢よりもさらに若く見え初々しいウィリアム・ブレイスウェル。『輝く英国ロイヤル・バレエのスター達』では『ロミオとジュリエット』のバルコニーシーンを踊った。優れた音楽性、長く伸びやかな手脚、エレガントで正確なテクニックと愛にあふれたパートナーリングで理想的なロミオを体現した。親しみやすいキャラクターの持ち主で、英国人らしいユーモアもはさみつつ、真剣に答えてくれたウィリアム。彼のロミオをぜひスクリーンで体験してほしい。
映画『ロミオとジュリエット(原題:ROMEO AND JULIET: Beyond Words)』
https://romeo-juliet.jp/
2020年3月6日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか、全国ロードショー
■制作:マイケル・ナン、ウィリアム・トレヴィット
■監督:マイケル・ナン
■撮影監督:ウィリアム・トレヴィット
■エグゼクティブ・プロデューサー:ケヴィン・オヘア
■振付:ケネス・マクミラン
■音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
■美術:ニコラス・ジョージアディス
■指揮:クン・ケセルス
■管弦楽:英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
■キャスト:
ジュリエット:フランチェスカ・ヘイワード
ロミオ:ウィリアム・ブレイスウェル
ティボルト:マシュー・ボール
マキューシオ:マルセリーノ・サンベ
ベンヴォーリオ:ジェームズ・ヘイ
パリス:トーマス・モック
キャピュレット卿:クリストファー・サンダース
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー
乳母:ロマニー・パイダク
ロレンス神父:ベネット・ガートサイド
ロザライン:金子扶生
森 菜穂美 Naomi Mori
舞踊ライター、翻訳。9歳までロンドンで過ごす。早稲田大学法学部卒業。企業広報、PR会社勤務、映画配給・宣伝、リサーチャーを経て、フリーランスに。おもにダンス・バレエを中心に取材、執筆および翻訳。新聞、雑誌や海外・国内のWEBサイト、バレエ公演や映画のパンフレットに日本語/英語で寄稿。映画字幕や書籍の翻訳監修も。監修した書籍に「バレエ語辞典」(誠文堂新光社)、「バレエ大図鑑」(河出書房新社)など。大人バレエを習いつつ、国内外で幅広く舞台鑑賞をしている。