2015 / 11 / 21
【特別インタビュー】「ウィーン気質」公演を通して~指揮者 阪哲朗が語るオペレッタの魅力 Vol.3
【阪さんご自身について】
〈オペレッタに惹かれた理由〉
好きなんですよ、オペレッタがね。
高校生のとき、合唱部と野球部で、ちょうど怪我して野球部を休んでいた頃、先生から「指揮やって」と声をかけられて、そのとき初めて挑戦しました。声が好きなんですよ。
大学は佐渡裕さんの7つ下なんですけど、佐渡さんの頃始まっていたミュージカルに参加して。そういう団体に参加するうちに、舞台もの、劇場ものがすごく好きになってしまった。開演前のざわざわざわ…っていう、何か始まるぞ、という雰囲気ね。芝居ってものがまず好きになりました。
そんな折、当時関西にあったオペレッタ専門の団体が、練習ピアノ、副指揮者の募集をしていました。僕は指揮者になりたいということで応募して、初見、流し弾きが好きだったので、すぐ採用してもらえました。おかげで日本にいながらにしてヨーロッパでやっているように、まずは練習ピアノからスタートする、という経験ができた。ミュージカルの曲を弾くにしても、当時の私はスウィングということすらわからなかったんですけど、周りは音があっているということで評価してくれました。
〈ヨーロッパで就職して〉
そして、ウィーンには旅行で行ったつもりがすっかり魅了されてそのまま居ついてしまって。いつもオペレッタに囲まれていました。
就職してからも、若手の勉強ということで最初はオペレッタやミュージカルからスタート。実はワーグナーのほうがよっぽど簡単なんですよ。オペレッタって、突拍子なく人が走ってきたりとかしますよね。ワーグナーでどこかから突然人が走ってくることなんてまずない。次に何が起こるのかわからない、テンポもキャラクターもすぐに変わるオペレッタには劇場の指揮者に必要なものがみんな詰まっている。だから若手の登竜門に使われるんです。いまは音楽監督という立場になって、若手を育成する責任がありますから、若手にばかりオペレッタを振らせていて。振りたくても自分ではなかなか振れないですね。
とは言いつつ、そんな中でもオペレッタを突然振ることもあります、それも練習もゲネプロもなしで。団員は戦々恐々としていますよ、練習に一度もいなかったのに、って。実際本番で何ができるの?っていう一発勝負が面白さでもある。本番は綱渡りですよ。まあもっとも演目がこうもりなんかだと、ストーリーからして綱渡りなんですけど(笑)
指揮者っていうのは何かある前に危険を察知して、その前に手をうたなければなりません。若手の試験でも一発勝負ですし、そこで合わなければすべて指揮者の責任なんです。
〈小劇場ならではの魅力〉
小劇場っていうのは、決して恵まれた環境ではないです。指揮者は自分のためだけでなく、他人のために動く必要がありますから、突然15分前に歌手が具合悪くなったから代理の歌手を連れてくるとかね。ステージに行ってみたらオーボエの楽譜だけがない、という事態も起こりました。そのときは仕方がないのでオーボエ奏者にスコアを貸して、自分は暗譜で振りましたね。
大劇場はそういったハプニングは起こりえません。鞄を持ってもらったりだとか、お客さんをたくさん収容できたりとか、いい点もたくさんあるでしょう。そんな大劇場で経験できるようなことは小劇場では全然ないですよ。練習時間だって違う。大劇場が有名歌手を呼んだりした際に2、3日で終わるところを、僕らだと6週間練習したりね。
あと、みんながデビューで、いつも初物ばかり。全然違う指揮者やテンポでも基本ができてさえいれば、いくらでも対応できるのです。そのようないい点、悪い点どちらも含めて、小劇場の面白さ、魅力だなあと感じています。
〈最後に〉
僕はそんな小劇場の音楽監督として音楽に関わることが大好きですし、ヨーロッパでしてきた経験を余すことなく今回の公演で出していきたいなと思っています。日本語で上演することで、日本の皆さんにも大好きなオペレッタの魅力が伝わるよう頑張りますので、どうぞ何も考えずにリラックスして楽しみにいらしてください。
公演の詳細は東京二期会ホームページをご覧ください。
阪哲朗は欧米での客演が数多く、これまで主にドイツ、オーストリア、スイス、フランス、イタリアなどで約40に及ぶオーケストラ、歌劇場に招かれ成功を収めている。
2008/09年年末年始に、ウィーン・フォルクスオーパーで、同劇場の年間のハイライトとも言うべき公演である「こうもり」を指揮し、大変な話題となった。
これまでに、ビール市立歌劇場(スイス・ベルン州)専属指揮者、ブランデンブルグ歌劇場専属第一指揮者、ベルリン・コーミッシェ・オーパー専属指揮者、アイゼナハ歌劇場(ドイツ・テューリンゲン州)音楽総監督、山形交響楽団首席客演指揮者を歴任。
現在、レーゲンスブルク歌劇場(ドイツ・バイエルン州)の音楽総監督(GMD)を務める。
1995年「第44回ブザンソン国際指揮者コンクール」優勝。
96年京都府文化賞奨励賞、97年度ABC国際音楽賞、00年京都市芸術新人賞、00年第2回ホテルオークラ音楽賞、04年度第12回渡邉暁雄音楽基金音楽賞、06年度第26回藤堂顕一郎音楽賞受賞。
阪哲朗 公式ホームページはコチラ