2020 / 03 / 04
「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」第24回【伝えたいことがあるから振る、弾く、教える リッカルド・ムーティ】
©Silvia Lelli – By courtesy of RMMusic riccardomutimusic.com
イタリア・オペラ、とくにヴェルディの筆致と上演に一家言もつリッカルド・ムーティは2015年、彼にとっては音楽祭の街でもある古都ラヴェンナで、若手音楽家育成のためのプロジェクト「イタリア・オペラ・アカデミー」を立ち上げた。
次代を担う才媛、俊英に、ヴェルディを軸としたイタリア・オペラの「あり方」を伝授するムーティ流儀の講習会である。塾、道場と記したらお叱りを受けるだろうか。マエストロは、歴史的名伯楽の教えや自らの経験を次の時代に渡したいのだ。
そんなムーティの想いを、東京・春・音楽祭が受け継ぐ。2019年から「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」が始まった。2020年3月上旬に予定されていた「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2」は延期となったが、ムーティの仕事を記せば──。
ピアノを弾きながら作品解説を行なう。1週間近くにわたって若手、中堅ソリスト、このプロジェクトのために結成された東京春祭特別オーケストラ並びにイタリア・オペラ・アカデミー合唱団にリハーサルを施す。そして指揮受講生を教える──。
檜舞台に名乗りを上げた沖澤のどかもムーティから指導を受けた。
昨年の東京・春・音楽祭では、指導を受けた日欧の歌い手を交えて『リゴレット』抜粋がコンサート形式で上演された(2019年4月4日)。
今年は豪華キャストによる『マクベス』全4幕コンサート形式、それにリッカルド・ムーティintroduces若い音楽家による『マクベス』抜粋が予定されていたが、残念ながら両ステージ(都合3公演)とも延期となった。オペラ好きのためにも、指導を受けた若手、中堅の音楽家のためにも、なんとか実現して欲しい。
なお「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3」は2021年4月、ヴェルディの『仮面舞踏会』と発表されている。
巨匠ムーティは昨年、2010年から音楽監督を務めるシカゴ交響楽団と3年ぶりに東京を訪れ、ブラームスの交響曲第1番、第2番、チャイコフスキーの交響曲第5番、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」、それにヴェルディの「レクイエム」(東京オペラシンガーズ)で満場を大いに沸かせた。マエストロとシカゴ響は東京文化会館の音響を知り尽くしている。
いっぽうムーティは楽都ウィーン、ザルツブルク音楽祭とも深い絆で結ばれている。楽友協会で、祝祭大劇場で、ムーティ指揮のウィーン・フィルはいつも高揚を、祝祭を奏でる。先の話で恐縮だが、2021年のウィーン・フィルニューイヤー・コンサートへの期待も限りない。
今年5月下旬、ムーティは久しぶりにウィーン国立歌劇場に登場し、十八番のひとつ『コジ・ファン・トゥッテ』4公演に腕を揮う。女優から演出家への道を拓いた娘キアラ・ムーティの演出。ナポリのサンカルロ劇場との共同制作だ。チケットの争奪戦が繰り広げられそうである。
伝えたいことがあるから指揮台に立つ。リッカルド・ムーティ、今年7月、79歳になる。
※新型コロナウイルス感染症拡大に伴う東京都の自粛要請を受け、「東京・春・音楽祭 2020」は3月27日以降の全公演が中止となりました。詳しくは下記サイトにてご確認ください。3/26追記
https://www.tokyo-harusai.com/news_jp/20200326/
第23回【今春還暦を寿ぐ大野和士】
第22回【ニューイヤー・コンサート後もアンドリス・ネルソンス】
第21回【気宇壮大な調べと相愛 ラザレフの今】
第20回【あらためてクルレンツィスとムジカエテルナ】
第19回【「東京国際」に続き、ブザンソンでも栄誉に輝いた沖澤のどか】
第18回【9月6日に惜しまれつつ引退。ベルナルト・ハイティンク】
奥田佳道 Yoshimichi Okuda
1962年東京生れ。ヴァイオリン、ドイツ文学、西洋音楽史を学ぶ。ウィーンに留学。現在、放送出演、執筆、レクチャー、公演のプレコンサートトークで活躍。アサヒグループ芸術財団音楽部門選考委員、朝日カルチャーセンター新宿、北九州講師。中日文化センター講師。フッぺル鳥栖ピアノコンクール審査員。エリザベト音楽大学パフォーマンスフォーラム講師。著書に「これがヴァイオリンの銘器だ」「おもしろバイオリン事典」他。