2020 / 04 / 10
第17回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
みなさまこんにちは。タワーレコード渋谷店の松下です。今月の当欄のコラムはルドルフ・ケンペ指揮によるベートーヴェン交響曲第9番「合唱」のCDを取り上げようと思います。
1910年に生まれたケンペは2020年に生誕110年を迎えます。来日を果たすことなく惜しまれつつこの世を去ったドイツの名指揮者の演奏に耳を傾けてみたいと思い、今月のコラムに取り上げました。この「第九」の録音は個人的な思い入れも強く、小学生の時に買った最初の「第九」のレコードがケンペでした。当時の私はケンペという指揮者がどういう人物だったのかも知らずに、近所のレコード屋でたまたま選んだのがこのケンペの「第九」でした。1枚のLPに収められていたので、第3楽章の途中でB面にひっくり返すという作業も、回転するレコードに針をおろすのと同様、鑑賞のための大事な儀式の一部であったことをよく覚えています。
戦後のミュンヘン・フィルを長きにわたって支えてきた、フリッツ・リーガーの後を継いで1967年より音楽監督を務めたケンペは、オーケストラにとってまさに中興の祖とも言われるほどに、そのサウンドに磨きをかけていました。ちょうどその頃に誕生したこのベートーヴェンの録音は、色褪せることのない魅力を今日でもなお聴き手に送り続けています。
今、改めて聴き直してみますと、楽譜に忠実で実直な演奏にとても好感が持てます。音楽全体がどっしりと重心の低い造型を呈しており、ローカル色のある独自のオーケストラ・サウンドと相まって充実の演奏内容で、1975年度のレコード・アカデミー賞を受賞していることも、大きく合点のいくものとなっています。
第三楽章の木管楽器の美しさは思わず息をのむほど。4人の独唱陣も見事な歌唱を聴かせています。特にテノールのニコライ・ゲッダのソロにおいては、初めはやや声を抑えめに発しながら徐々に力強さを増していき、合唱とオーケストラが重なる最後の部分ではテノールの輝かしいを声を軽々と響かせ、録音当時八面六臂の活躍を見せていた不世出のオペラ歌手の実力が窺えます。ソプラノにウルスラ・コシュト、アルトにはブリギッテ・ファスベンダー、そしてバスのドナルド・マッキンタイアと、これほどの才能と個性を持ち合わせた歌手たちと合唱を見事にまとめているところなど、オペラからキャリアを積んでいったケンペの手腕が遺憾なく発揮されている、何よりの証左と言えるでしょう。
ケンペが亡くなったのが1976年。このLPを購入したのもこの頃であることを思うと、追悼盤のリリースがあったかもしれないし、またそれにより手にする機会が増えていたかもしれないとはいえ、「ケンペの第九」に出会えた喜びの念が、現在CDで聴き直すたびに沸き上がってきます。

提供元:ワーナーミュージック・ジャパン
ルドルフ・ケンペ 指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団、ミュンヘン・モテット合唱団
ウルスラ・コシュト(ソプラノ)、ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)、ニコライ・ゲッダ(テノール)、ドナルド・マッキンタイア(バス)
レーベル:Warner Classics
品番:WPCS-13448
https://tower.jp/item/4271263/
※タワーレコード店舗、オンラインでは『ベートーヴェン:交響曲全集』SACD-ハイブリッド盤を発売中。
https://tower.jp/item/5018550
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。