2020 / 06 / 03
第19回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
みなさまこんにちは。タワーレコード渋谷店の松下です。今月の当欄コラムは「バッハ:マタイ受難曲」のCDを取り上げたいと思います。マインツ・バッハ合唱団とマインツ・バッハ管弦楽団について予備知識のないまま、単にNAXOSからリリースされたマタイ受難曲というだけで聴いたところ、予想をはるかに超える素晴らしさに感動して、今月ご紹介することとしました。リリースから1年以上経過しているので、すでにお聴きになられている方も少なからずいらっしゃると思いますが、この合唱団とオーケストラの素晴らしさを1人でも多くの方にご紹介できたら幸いです。
マインツ・バッハ合唱団のこれまでの録音を調べてみますと、同じNAXOSからはクリスマス・オラトリオとヨハネ受難曲、そして別レーベルからはヘンデルのテオドーラ、W.F.バッハのカンタータなどがリリースされています。中でも、DHMからリリースされたサン=サーンスのクリスマス・オラトリオなどを収録したクリスマス・アルバムは、特に記憶に残ります。また意外なところでは、エリアフ・インバル指揮の『ベルリオーズ:テ・デウム』のアルバムにも参加していました。
ホームページやディスク表記を見る限り、どうやら合唱団の方がメインのようです。確かに指揮者のラルフ・オットーは合唱をメインに指揮活動を行っており、この「マタイ」を聴くだけでも、作品に対する深い理解、フレーズひとつひとつを丁寧に扱うきめ細やかな配慮など、音楽家としての卓越した素養を持ち合わせたマエストロであることを強く実感できます。合唱団のレパートリーは決してバッハだけではなく、むしろルネサンスから現代音楽まで幅広く、オーケストラは作品によって古楽器、モダン楽器を使い分けています。
そんなマインツ・バッハ合唱団とマインツ・バッハ管弦楽団が演奏するこの「マタイ受難曲」。オーケストラは本格的な古楽器オーケストラの演奏そのもので、ヴィオラ・ダ・ガンバのヒッレ・パールなど、ヨーロッパ中の名手たちが参加しています。通奏低音にリュートが加わり音響的な大きな特徴になっているのと、通奏低音がしっかりしているので音楽自体がとても安定しています。
合唱は本当に素晴らしく、コラールはとても丁寧に歌われているのがよくわかります。「イエスの捕縛」の場面では、ソプラノとアルトの二重唱は縦の線を意識して比較的ゆっくりとしたテンポですが、続く「稲妻と雷」の合唱では一変、畳みかけるように一気に歌われます。しかし決して乱れることなく、テクストも明確に聴き取れるほどで、その力量には驚かされます。冒頭合唱の複雑な声部の重なりでも個々の旋律が明確で、見事な音の大伽藍を聴かせています。これもマエストロ、ラルフ・オットーの見事な音楽作りの証左と言えるでしょう。
活版印刷の発明者であるヨハネス・グーテンベルク生誕の地、マインツにこれほど素晴らしい合唱団とオーケストラが活動をしているのを知ることができたことは、私にとって大きな喜びであると同時に、歴史あるマインツという街に強く興味を抱くようになりました。
ブックレットも必要な情報がきめ細かに掲載されており、アルバム制作にも大変に好感が持てます。収録された音楽、そしてブックレットに決して妥協せず、しかもリーズナブルな価格で市場に提供するNAXOSに改めて敬意を表したいと思います。
『J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244』
指揮:ラルフ・オットー
管弦楽:マインツ・バッハ管弦楽団
演奏者:ゲオルク・ポプルッツ、マティアス・ヴィンクラーほか
合唱:マインツ・バッハ合唱団
レーベル:NAXOS
品番:8574036
https://tower.jp/item/4869584/
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。