2020 / 08 / 04
第21回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
みなさまこんにちは。タワーレコードの松下です。今月の当欄コラムでは、今年生誕100年のアニヴァーサリー・イヤーを迎えるチェリスト、モーリス・ジャンドロンの名盤「バッハ:無伴奏チェロ組曲」のCDを取り上げたいと思います。
この録音は、LPレコードとして発売されてからフランスのACCディスク大賞やオランダのエジソン賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けた名盤として知られています。個人的には輸入の廉価盤のイメージが強かったのですが、今こうして国内盤として、しかも高音質のCDとして登場して大きな興味を抱くようになり、その演奏に改めて耳を傾けてその素晴らしさに深い感銘を受けました。
ジャンドロンはバッハの「無伴奏チェロ組曲」の校訂を行っていて、全音楽譜出版社より日本語訳付きの楽譜が出版されています。その序文には、ジャンドロンの作品に対する基本的な解釈が記されており、そこで彼はこの作品を演奏するにあたり、「弓を正しく使うことによってのみ表現できる正しいフレージング」の重要性を主張しています。その楽譜には、スラーやボウイング(弓使い)が書き込まれています。楽譜を読みながらその演奏を聴くと、フレーズのひとつ1つが明確に扱われていることが解ります。それと同時に、作品に対してきわめて真摯に向き合う姿勢と、ジャンドロンの特性とも言うべき上品で、歌に満ちた、とても音楽的なメロディの紡ぎ方を認識できます。
ご存知の通り、バッハの無伴奏チェロ組曲の自筆楽譜は現在失われてしまっていて、ジャンドロンは校訂するにあたり、バッハの手助けを実際に行っていた妻、アンナ・マグダレーナ・バッハの手稿譜等をベースにしています。それにフレージングを適切に扱うためのボウイングと強弱記号が付されていますが、あくまでも必要最小限のものであり、作品のオリジナリティをゆがめるものでは決してありません。その証拠に、自身が出版するものを決して最良のものではないと断りをつけたり、強弱記号の多くは()がついているなど、作曲家の描いた作品像をゆがめることがないようにする姿勢をうかがうことができます。
ジャンドロンの演奏を聴いていると、全体的にとても上品な音楽作りが印象的で、フレーズの歌わせ方に好印象を持つことができます。適切なフレージングの結果、作品の本質とも言うべき立体的な構造も、聴き手にはっきりと伝わってきます。つまり楽譜の上では1本の旋律線でも、そこに複数のメロディラインを聴き分けることができ、音の構造物として立体的に作品を聴くことができるのです。例えば第4番のジーグは完全に単音で演奏される曲なのですが、複数のメロディ・ラインをはっきりと聴き分けることができます。
1969年の初来日以来、チェリストとして、また指揮者として日本での演奏や録音活動を行うなど日本のリスナーにとってはとても身近な存在である名匠の演奏を、これからも聴き続けたいと思いました。
『J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 全曲<タワーレコード限定>』
<DISC1>
1. 第1番 ト長調 BWV1007
2. 第4番 変ホ長調 BWV1010
3. 第6番 ニ長調 BWV1012
<DISC2>
4. 第2番 ニ短調 BWV1008
5. 第3番 ハ長調 BWV1009
6. 第5番 ハ短調 BWV1011
演奏:モーリス・ジャンドロン(チェロ)
録音:1964年2月8日-12日 フランス
規格品番:PROC-2294
レーベル:TOWER RECORDS UNIVERSAL VINTAGE SA-CD COLLECTION
原盤:Phjilips
https://tower.jp/item/5064075/
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。