2020 / 09 / 02
第22回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
みなさまこんにちは。タワーレコード渋谷店の松下です。今月の当欄コラムはクララ・ハスキルのCD『ベートーヴェン、ショパン、モーツァルト:ピアノ協奏曲集 他(旧PHILIPS協奏曲録音集成)』を取り上げたいと思います。ハスキルは1960年に惜しくもこの世を去ってしまいましたが、その直前に巨匠マルケヴィチが指揮するコンセール・ラムルー管弦楽団と共演した協奏的作品5曲が、ここに収録されています。
かつて吉田秀和氏は、ハスキルの演奏について「そのピアノには“詩”がある」と論じておられました。確かにハスキルの演奏に派手さはなく、ピアノの音色もとてもデリケートなものであると感じられます。静かな曲想においてもピアノの音には芯が通っていて、単なる“弱い音”では決してありません。
モーツァルトの第20番コンチェルトの第2楽章では、オーケストラの伴奏の上を右手の単音のみで演奏されるフレーズなど、この上なくシンプルな中にも豊かな詩情があふれているのです。ショパンのピアノ協奏曲の細かな装飾音においても極めて流麗に、旋律を飾り立てるものだけにとどまらないものとして聴かせるところなど、ハスキルの特徴がよく表れています。今回高音質盤としてリリースされたこのCDにより、とても綺麗なピアノの音で実感することができます。第24番第2楽章の何と美しいこと!
ソリストとしての活躍の他に、イザイ、エネスク、カザルス、そしてグリュミオーという弦楽器の巨匠たちとの共演を重ねてきたハスキルの演奏は、何よりアンサンブルにおいてその魅力が発揮されると言えるでしょう。ここに収められている作品においても、オーケストラとのアンサンブルの妙技をたっぷりと聴くことができるのです。先に挙げた第20番の第2楽章の中間部では、木管楽器との絶妙なやり取りがほどよい緊張感を聴き手に与えています。
生来病弱であったハスキルの演奏は、余計な力が抜けて作品の本質に迫ることに全精力が集められていることに気づかされます。それがアンサンブルにおいては共演者の力を巧みに引き出し、自分が発する音楽と有機的な化学反応を起こさせているに違いない。ハスキルの演奏を改めて聴いて、そんな風に思うようになりました。
2020年はちょうど、ハスキル生誕125年、そして没後60年にあたります。このメモリアルな時に改めてハスキルの至芸を堪能したいと思いました。
『ベートーヴェン、ショパン、モーツァルト:ピアノ協奏曲集 他(旧PHILIPS協奏曲録音集成)<タワーレコード限定>』
<DISC1>
1. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番
2. ショパン:ピアノ協奏曲 第2番
<DISC2>
3. マヌエル・デ・ファリャ:スペインの庭の夜(ピアノと管弦楽のための交響的印象)
4. モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番
5. モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番
演奏:クララ・ハスキル(ピアノ)、コンセール・ラムルー管弦楽団、イーゴリ・マルケヴィチ(指揮)
録音:1959年11月30日、12月1日(1)、1960年10月3日、4日(2,3)、11月14-18日(4,5)パリ
原盤:Phjilips
https://tower.jp/item/5047163/
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。