2020 / 09 / 03
9月4日より再上映されるロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンの『眠れる森の美女』、オーロラ役で出演する金子扶生さんにインタビュー

©HM2019-SleepingBeauty
9月4日(金)より全国公開の英国ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』。怪我をしてしまったローレン・カスバートソンに代わり、映画館中継の当日に急遽主役のオーロラ役を務めた金子扶生さん。見事に代役を務め、ひときわ華やかな存在感、エレガントで美しい踊りで観客を魅了しました。コロナ禍で沈んでいた私たちに大きな感動をもたらしてくれた新ヒロインの金子さんに、電話インタビューをしました。
取材・文:森菜穂美(舞踊ライター)
急な代役での主演は初めてでプレッシャーの中踊った
──今回、映画館中継の当日に急遽オーロラ役に抜擢され見事な演技を披露されましたが、当初はリラの精を踊る予定だったところ、当日の午後に変更を伝えられた際のお気持ちはいかがでしたか?不安などはありませんでしたか?

オーロラ役を務めた金子扶生 ©2020 ROH. Photograph by Lara Cappelli
こんな急な代役での主演は初めての経験でした。ここまでのプレッシャーを感じたのも初めてでした。火曜日の公演だったのですが、その前の土曜日にローレン・カスバートソンさんが一度『眠れる森の美女』のオーロラ役を踊っていて、その時も私はリラの精を踊っていました。1幕が終わってからローレンがあまり調子良くないと言っていて、それでも2幕を踊っていました。
この眠りでは2幕と3幕の間の休憩がないのですが、もう彼女が踊れないということになり、私はまだリラの精の衣装を着ていたのですが、ケヴィン・オヘア監督がオーロラを踊ってくださいと言って、その日は3幕だけオーロラ役を踊りました。その時もびっくりだったのですが、月曜日にはローレンさんは大丈夫ということで火曜日は踊る予定と監督からも聞いていたので、私はリラの精役に集中していました。
映画館中継公演の当日の午後2時くらいに、この日もローレンさんが踊れないとなったので、急遽パートナーと振りを確認することになり、振りを合わせてそのまま舞台に出ることになりました。普段は1カ月以上かけて練習して役の準備をするのですが、その時はもう1カ月以上オーロラ役を踊っていない状態だったので、不安で泣いてしまったりもしたのです。映画館中継もあったので、怖かったのです。でも出るからには気持ちを切り替えて思い切って舞台に立ちました。
──王子役のフェデリコ・ボネッリとの共演はいかがでしたか?
フェデリコ・ボネッリさんとは、一度クリストファー・ウィールドンの『冬物語』で踊らせていただいたきりです。でも彼は本当に素晴らしいパートナーなので、安心して踊ることができました。

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カンパニーのみんなの応援で頑張れた本番
──今回の「眠れる森の美女」の映像を拝見すると、周りの共演者の皆さん、そして司会のダーシー・バッセルが扶生さんに対して見守る気持ちを込めていて、とても応援されているのを感じて、こちらもとても感動しました。舞台に立っておられた扶生さんも、同僚の皆さんからのサポートは感じられましたか?
カンパニーのすべて、みんながとても応援してくれました。いつもそうなのですが、皆さんいい人ばかりで、本当にそこに救われました。この舞台の前も皆さんはとても応援してくださって、急なことだったのに手紙やプレゼントも贈ってくれたり楽屋で応援してくれたり。これがないと踊り切れなかったと思います。
ダーシー・バッセルさんは面白い方なのですが、とても私を応援してくださっています。私が11月にオーロラ役のデビューをしたときにずっとコーチングをしてくださいました。役デビューが終わって一度バイバイ、という感じだったのですが、当日はいきなり私がオーロラ役になって驚かれていました。が、この当日もとても応援してくださいました。経験を積んでこられたバレリーナの方たちがこうしてコーチングしてくださるのはとても貴重だと思います。

©HM2019-SleepingBeauty
最も印象的なシーンはローズ・アダージオ
──『眠れる森の美女』のオーロラ姫を演じて、ご自身で最も印象に残っているシーンなどはありますか?
『眠れる森の美女』の中では、やはりローズ・アダージオが一番印象的なシーンですね。登場するところからローズ・アダージオまでが一番大事というか、緊張します。いきなり舞台に出てきて、とても緊張するバランスがあり、体力的にも大変です。これを最初にしなければなりません。ここを踊るのを楽しめたら、嬉しいです。ローズ・アダージオは音楽が素晴らしくて、音楽を聴くだけで体が震えて、音楽に助けられました。

©HM2019-SleepingBeauty
主役を演じる時、ずっと舞台に立っていたらだんだん体も慣れてくるのですが、オーロラ役は最初が見せ場なので、難しいですね。1幕は若々しい16歳の姫で、私のお誕生日パーティにようこそ、という感じです。友達と言っていたのが、「私の16歳のバースデーパーティーだ♡」、それくらいの楽しい気持ちで踊ります。
2幕はもっと繊細な感じで。舞台でははっきり見えづらいと思うのですが、この幕での衣装が大好きなのです。3幕は結婚式でかなりクラシックな踊りをします。体力的にも大変なバレエですが、特に1幕が一番体力的にきつい作品です。私も今回のこの中継の時には頭が真っ白になりました。だからお客様に応援していただくのが力になります。

©HM2019-SleepingBeauty
自分の体に向き合った自粛期間
──ロイヤル・バレエでは3月半ばに急に公演がキャンセルされて、ダンサーの皆さんは自粛期間に入っておられました。その間はどのように過ごされていましたか?
ロイヤル・バレエの舞台は3月にキャンセルされてしまったのですが、2週間後に『白鳥の湖』のオデット、オディール役のデビューの予定でした。ずっとこのオデット、オディール役を練習し続けていたのですが、急に劇場が止まってしまったのでかなりショックで落ち込んでしまいました。でもここでも立ち直って、狭い家の中でできる限りのことをしていました。
ピラティスといった家でできるいろんなことを見つけ、自分の体に向き合うようになりました。今までは踊って疲れてまた次の日になるという繰り返しの毎日だったので、この自粛期間で自分の体に向き合う時間ができましたね。いくつかの映像プロジェクトにも参加しました。
──6月27日には、有料配信されたロイヤル・オペラハウスの無観客公演に出演されて、リース・クラークさんと踊られましたね。どのような気持ちで踊られましたか?
この公演ではマクミランの『コンチェルト』に出演しましたが、これも急に出演してほしいと電話がかかってきたのです。1週間ほど練習しました。3カ月間は家でだけで踊っていたので、かなりチャレンジングでしたが、楽しく踊ることができました。
ケネス・マクミランの『コンチェルト』はマスターピースで素晴らしい作品なので、正直なところを言うともう少し時間をかけて練習して、指導もしっかり受けてから出演したかったのですが、1週間でできることをやりました。でも本当に舞台に戻ってこられるだけで嬉しかったです。『コンチェルト』は、ジャンプや回転がたくさん入ったとてもハードな第3楽章は踊ったことがあったのですが、ガラっと違う美しい第2楽章は今回が踊るのがほとんど初めてでした。6年位前に日本で平野亮一さんと踊ったので久しぶりということになります。
──ロイヤル・バレエでも徐々に稽古場に復帰することになるという報道を読みましたが、どのような予定になっていますか?
計画では、2週間後くらいに一度オペラハウスに戻ってこられることになっているのですが、まだクラス・レッスンが始まるだけの予定です。グループに分かれて少人数で練習をする計画になっています。
──本作で劇場へ久々に足を運ぶ方も多いと思いますが、そんな日本のファンの方へ、金子さんからのメッセージをお願い致します。
コロナ禍などこのような暗いニュースがある中、そして劇場にも足を運べない中、少しでも映画館で劇場にいるような気持になっていただけたら嬉しいです。こうして応援していただけることでパワーをもらえます。本当に日本の皆さんにはいつも応援していただきありがとうございます。

©HM2019-SleepingBeauty
おっとりとした上品な口調の中に、愛らしさと意志の強さが伝わってきた金子さん、今後ますますの活躍が期待されます。
英国ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』は、第二次世界大戦後の1946年に、ロイヤル・オペラハウスの再オープニングを飾った作品です。戦争で傷ついた人々の心を美しいバレエが癒し、英国の復興を後押ししました。コロナ禍で傷ついた私たちの心も、この素晴らしい『眠れる森の美女』で輝いた新しいヒロイン、金子扶生で癒されました。事態が落ち着いて、バレエが観られる平和な毎日となることが待ち遠しいです。
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20
『眠れる森の美女』
http://tohotowa.co.jp/roh/
2020年9月4日(金)〜9月10日(木)
北海道 札幌シネマフロンティア
宮城 フォーラム仙台
東京 TOHOシネマズシャンテ
東京 TOHOシネマズ日本橋
東京 イオンシネマ シアタス調布
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜
愛知 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ
京都 イオンシネマ京都桂川
大阪 大阪ステーションシティシネマ
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS
福岡 中洲大洋映画劇場
振付:マリウス・プティパ
追加振付:フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
プロダクション:モニカ・メイソン(ニネット・ド・ヴァロワとニコライ・セルゲイエフに基づく)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
指揮:サイモン・ヒューイット
オーロラ姫:金子扶生
フロリムント王子:フェデリコ・ボネッリ
国王フロレスタン24世:クリストファー・サウンダース
お妃:エリザベス・マクゴリアン
カタラビュット:トーマス・ホワイトヘッド
カラボス:クリステン・マクナリー
フロリナ姫:ヤスミン・ナグディ
青い鳥:マシュー・ボール
~プロローグ~
魔法の庭の精:マヤラ・マグリ
森の草地の精:クレア・カルヴァート
歌鳥の精:アナ・ローズ・オサリヴァン
黄金のつる草の精:崔由姫
リラの精:ジーナ・ストーム=ジェンセン
森 菜穂美 Naomi Mori
舞踊ライター、翻訳。9歳までロンドンで過ごす。早稲田大学法学部卒業。企業広報、PR会社勤務、映画配給・宣伝、リサーチャーを経て、フリーランスに。おもにダンス・バレエを中心に取材、執筆および翻訳。新聞、雑誌や海外・国内のWEBサイト、バレエ公演や映画のパンフレットに日本語/英語で寄稿。映画字幕や書籍の翻訳監修も。監修した書籍に「バレエ語辞典」(誠文堂新光社)など。大人バレエを習いつつ、国内外で幅広く舞台鑑賞をしている。