2020 / 10 / 05
第23回タワーレコード渋谷店 クラシック担当松下のイチオシ!
みなさまこんにちは。タワーレコードの松下です。今月の当欄のコラムは今年没後50年を迎える巨匠、サー・ジョン・バルビローリによる「R.シュトラウス:英雄の生涯」のCDを取り上げたいと思います。
バルビローリの録音と言って真っ先に思い浮かぶものとして、マーラーの交響曲第5番、シベリウスの交響曲、デュ・プレとのチェロ協奏曲やイギリスものがあります。今年は没後50年ということで各社リリースが続いていることもあり、バルビローリにとても興味が湧き、改めてその演奏を聴いてみたいと思いました。そして今回、手元にある資料を読み返すにつれ、バルビローリという指揮者の魅力を新たにしたのです。
今年になってRCA&コロンビアに録音された6枚組BOX、EMIとPYE音源を集めた109枚組BOXが相次いでリリースされました。その内容を見てみると、レパートリーはかなり選ばれている印象を持ちました。全集録音がされているのはブラームスとシベリウスの交響曲くらいで、戦前、戦中の録音は小品がかなり多く録音されています。また、オペラの重要性を認識していただけあって、オペラもバルビローリにとって重要なレパートリーでした。そうした中で、これほど多くのファンに愛されるバルビローリの魅力とは一体どこにあるのだろう、という疑問と興味が沸々と湧いてきました。
今回SACDハイブリッド盤でリリースされた「R.シュトラウス:英雄の生涯」の録音ですが、バルビローリのレパートリーの中では少数派の部類に属します。確かに各資料を読んでもバルビローリの代表盤にはほとんど顔を出しませんし、「英雄の生涯」にも数多の競合盤を押しのけて浮上する、ということはありませんが、その演奏を聴いた途端すぐにその素晴らしさに夢中になりました。一聴してまずそのどっしりとした重量感に驚かされます。第1部「英雄」のタイムは実に5分03秒に達し、カラヤン盤やベーム盤よりも30秒以上も遅いテンポです。また、各楽器の奏でる1つひとつのフレーズに込められた意思のようなものを感じ取ることができるので、音楽が決して鈍重になることがありません。
「英雄の戦場」の小太鼓もずっしりと響きます。こうした生々しいサウンドも当盤を聴く楽しみの1つと言えます。カップリングの「ばらの騎士」からのワルツ・シークェンスは、オペラの中からバルビローリ自身が約12分に編んだアンコール・ピースで、オペラ指揮者バルビローリの魅力がコンパクトに堪能できるところが粋です。
この「英雄の生涯」が録音されたのが1969年9月で、翌年には待望の来日公演を控えていたバルビローリはその目前で急逝してしまいました。当時の人々の心から惜しむ思いを今、私自身も感じずにはいられません。バルビローリの素晴らしさを改めて感じることができたことを僅かな喜びとして前向きにとらえ、これからもバルビローリの演奏を聴き続けていこうと思いました。
『R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、「ばらの騎士」 – ワルツ・シークェンス(バルビローリ編)<タワーレコード限定>』
1. リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」作品40
2. オペラ「ばらの騎士」-ワルツ・シークェンス(編:バルビローリ)
演奏:ロンドン交響楽団(1)、ジョン・ジョージアディス(ヴァイオリン・ソロ/1)、ディヴィッド・グレイ(首席ホルン/1)、ハレ管弦楽団(2)、サー・ジョン・バルビローリ(指揮)
レーベル:TOWER RECORDS DEFINITION SERIES
品番:TDSA-163
https://tower.jp/item/5085021/
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タワーレコード渋谷店 クラシカルチーフ 松下健司
佼成学園高等学校、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1998年タワーレコード入社。 渋谷店をはじめ複数の店舗でクラシック担当を歴任。大学時代はバッハ研究のゼミに所属、趣味でピアノも弾きます。好きな作曲家はバッハ、ベートーヴェン、ショパン。好きなピアニストはラザール・ベルマン。