2018 / 07 / 07
「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」 第4回【ロレンツォの時代がやってきた】

ロレンツォ・ヴィオッティ ©GM Márcia Lessa
オペラもシンフォニーもお任せあれの俊英。ロレンツォ・ヴィオッティの時代がやってきたようである。
1990年スイス・ローザンヌ生れ。オペラ好きやマニア様の間では数年前から人気急上昇中だった鬼才ロレンツォ・ヴィオッティ。この夏、新国立劇場とびわ湖ホールで「椿姫」を、東京フィルハーモニー交響楽団の定期でラヴェルとドビュッシーに腕を揮い、知名度をぐっと高めるはずだ。
2005年2月に50歳の若さで急逝したイタリアのマエストロ、マルチェロ・ヴィオッティのジュニアである。ウィーン国立歌劇場で愛され、バート・イシュルでのレハール・ガラコンサート(あの奇蹟の祝祭から早20年の歳月が流れた……)でもロスト、リント、カレーラス、ドミンゴ、ハンプソンらと共演したマルチェロ。素晴らしい指揮者だった。
しかしロレンツォは父マルチェロのエピゴーネンではない。イタリア・オペラ、フランスのグランド・オペラ、ウィンナ・オペレッタの世界を嬉々として行き来した、あのマルチェロの息子という紹介は、ときに誤解を招く。父の名を枕詞にするのは、そろそろ止めたほうがいい。この人、とても妖しい音楽観の持ち主なのだ。
今年28歳。年齢的には駆け出しも駆け出しだが、先月もチューリヒ・オペラとウィーン交響楽団で喝采を博した。歩みを記す。
ウィーン私立音楽大学(旧市立コンセルヴァトリウム)やワイマールのフランツ・リスト音楽院で学ぶ。
2013年、バルセロナのカダケス国際指揮者コンクールとライプツィヒのMDR中部ドイツ放送協会コンクールに優勝。2015年にはネスレ&ザルツブルク音楽祭ヤング・コンダクターズ・アワーズにも輝いた。
2016年、フランツ・ウェルザー=メストのピンチヒッターとしてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の、チョン・ミョンフンのピンチヒッターとしてウィーン交響楽団の指揮台に招かれる。後者のメインはマーラーの交響曲第1番だった。同年秋には東京交響楽団でベートーヴェンの交響曲第4番、リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」組曲、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」を披露。東京オペラシティコンサートホールの客席を大いに喜ばせたのだった。
実は東響には2014年夏にデビューし、チャイコフスキーの交響曲第4番を指揮している。ウルバンスキのピンチヒッターだった。先月も記したが、ロレンツォ・ヴィオッティも日本のオーケストラから羽ばたいた若きマエストロなのだ。
大胆な語り口、歌い回しが決して嫌みにならない新世代。いっぽう職人芸も併せ持つ。聴き続けたい指揮者である。
第3回【俊英は日本のオーケストラから羽ばたく】
第2回【クルレンツィスとカリディス、二人のギリシャ人指揮者】
第1回【パーヴォ・ヤルヴィ、ドイツ語圏のオーケストラをめぐって】
奥田佳道 Yoshimichi Okuda
1962年東京生れ。ヴァイオリン、ドイツ文学、西洋音楽史を学ぶ。ウィーンに留学。現在、放送出演、執筆、レクチャー、公演のプレコンサートトークで活躍。アサヒグループ芸術財団音楽部門選考委員、朝日カルチャーセンター新宿、北九州講師。中日文化センター講師。フッぺル鳥栖ピアノコンクール審査員。エリザベト音楽大学パフォーマンスフォーラム講師。著書に「これがヴァイオリンの銘器だ」「おもしろバイオリン事典」他。
<公演情報>
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
ピアノ:小山実稚恵
第119回東京オペラシティ定期シリーズ
2018年7月18日(水)19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール
http://www.tpo.or.jp/concert/20180718-01.php
第910回サントリー定期シリーズ
2018年7月19日(木)19:00開演(18:30開場)
サントリーホール 大ホール
http://www.tpo.or.jp/concert/20180719-01.php
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2018 絶品フレンチⅠ~ラヴェル&ドビュッシー~
2018年7月24日(火)19:00開演(18:00開場)
ミューザ川崎シンフォニーホール
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/calendar/detail.php?id=2284