2018 / 09 / 19
日本人ダンサーが観客を魅了したキエフ・クラシック・バレエ『眠れる森の美女』(2018年7月25日 新宿文化センター)
毎年のように日本を訪れ、全国をツアーしている人気のカンパニー、キエフ・クラシック・バレエの新宿文化センターでの公演を観た(7月25日)。演目は、今年生誕200年を迎える振付家マリウス・プティパの名作『眠れる森の美女』。この日の主役二人はともに日本人キャストで、オーロラ姫はキエフ・クラシック・バレエのプリンシパル・ダンサー長澤美絵、デジレ王子は2014年ローザンヌ国際バレエコンクール第1位を獲得し、現在パリ・オペラ座バレエ団で活躍する二山治雄がゲストで参加した。平日マチネ公演だが、客席はバレエ学習者と思われるティーンエイジャーが多く、ほぼ満席だった。
ダンサーは粒ぞろいで、全員キャラクターが立っていて、プロローグではリラの精を踊ったマルガリータ・クズネスツォーワの薫るような気品とプロポーションの美しさに魅了された。リラの精と見事なコントラストをなす魔女カラボスを、素晴らしいオーラのカテリーナ・シチェベトフスカが演じ、モダンダンサーのようなバネと表現力で観客の心を鷲掴みにしていた。二人とも大変な美人である。
オーロラ姫の長澤美絵は安定したテクニックとチャーミングなルックスの持ち主で、チャイコフスキーの音楽にふさわしいエレガントな主役を演じた。話題の二山治雄を観るのは初めてだったが、登場した瞬間に特別な踊り手であることを理解した。全身のすみずみまで美意識がゆきわたり、指先からも爪先からも優しさと柔らかさが感じられる。跳躍が特別高いわけでもないのに、すべての動きが優美で魅了されてしまうのだ。バレエ芸術とはそもそも何なのか…という答えを握っているダンサーだと思った。サポート面では男性ダンサーにとって過酷なパートでもあり、二山も大変そうなところがあったが、誠実に取り組んでいた。ディヴェルティスマンでは青い鳥を踊った中尾太亮が高い跳躍で客席を魅了し、このカンパニーでの日本人ダンサーの健闘ぶりを見せた。
舞台も衣装もラブリーで、どこか「昔ながらのバレエ」を思い出させてくれるのもよい。キエフ・クラシック・バレエは9月上旬まで日本全国をツアーする。
小田島久恵(音楽・舞踊ライター)

長澤美絵

二山治雄
小田島久恵 Hisae Odashima
音楽・舞踊ライター。岩手県出身。クラシック、オペラ、バレエ、コンテンポラリー・ダンス等についての公演評、アーティスト・インタビューを執筆。2010年からボリショイ・バレエ、マリインスキー・バレエを4度にわたり取材。2018年はプティパ生誕200周年を祝うマリインスキー・バレエの公演をサンクトペテルブルクで鑑賞。著作に『オペラティック!』(フィルムアート社)