2018 / 08 / 24
横浜バレエフェスティバル2018(2018年7月21日 神奈川県民ホール)

オープニングの様子
今最も見たいダンサー、演目が集結。4年目を迎えたユニークなガラ公演

<第1部>「スーブニール・ドゥ・チャイコフスキー」(振付:遠藤康行)川本真寧-縄田花怜-中村りず-竹内渚夏-丸山萌※ジュンヌバレエ
早くも4回目となった横浜バレエフェスティバル、今年も充実した内容で大成功だった。公演は3部に分かれており、第1部のフレッシャーズガラは、オーディションを勝ち抜いたダンサーと、過去のオーディションにより出演を果たしたジュニアたちのユニット「ジュンヌバレエYOKOHAMA」の発表の場。この第1部には、今年のヤング・アメリカ・グランプリ・コンクール(YAGP)のシニア男子部門で第1位となった松浦祐磨が登場した。2015年のYAGPシニア女子第1位の栗原ゆうとともに弾けるような『ドン・キホーテ』のパ・ド・ドゥを披露し、大いに会場を沸かせた。

<第1部>「エスメラルダ」よりアクティオンのヴァリエーション 森春陽

<第1部>「眠れる森の美女」第3幕よりオーロラ姫のヴァリエーション(振付:マリウス・プティパ)升本果歩

<第1部>「SOLO(二乗の表記)」(振付:遠藤康行)橋本杏梨&生方隆之介※ジュンヌバレエ

<第1部>『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ)栗原ゆう&松浦祐磨

<第2部>『Dido and Aeneas』(振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ)オステアー紗良&加藤三希央
第2部のワールドプレミアムは、世界に飛び出して活躍している若手ダンサーたち、第3部は世界のトップダンサーが登場。彼らはプロとしてのキャリアを海外でスタートさせた人が多く、活躍すればするほど日本の観客は見る機会が限られる、という悩ましい存在。今回も旬なダンサー、しかも彼らの本領を最大に発揮できる振付家の作品を踊り、どのパフォーマンスも満足度は高かった。例えば菅井円加&ニコラス・グラスマン(ハンブルク・バレエ団)によるジョン・ノイマイヤー振付『シルヴィア』。力強く、ノイマイヤー作品を踊る喜びにあふれ、たくましい生命力を感じさせた。オステアー紗良&加藤三希央(ロイヤル・フランダース・バレエ団)は貴重な日本初演となる、シディ・ラルビ・シェルカウイ振付『Dido and Aeneas』を披露。津川友利江(元バレエ・プレルジョカージュ)&バティスト・コワシュー(バレエ・プレルジョカージュ)は、過去のこのガラでアンジェラン・プレルジョカージュ振付『ロミオとジュリエット』の死のパ・ド・ドゥを踊り大好評で、今回は同作品のバルコニーのパ・ド・ドゥを踊った。小池ミモザ(モンテカルロ・バレエ団)と横浜バレエフェスティバル芸術監督遠藤康行のペアは、2015年に上演された遠藤振付『半獣』を再び上演。肩の力が抜け息の合ったこのペアはとても洗練され、世界基準で活躍しているダンサーの底力を見せつけた。

<第2部>『What We Did for Love』(振付:柳本雅寛)柳本雅寛&八瀬顕光

<第2部>『グラン・パ・クラシック』(振付:ヴィクトル・グゾフスキー)金原里奈&二山治雄

<第2部>『シルヴィア』よりパ・ド・ドゥ(振付:ジョン・ノイマイヤー)菅井円加&ニコラス・グラスマン

<第3部>『半獣』(振付:遠藤康行)小池ミモザ&遠藤康行
そしてトリを務めたのは、オーストラリア・バレエ団のプリンシパルの二人、近藤亜香&チェンウ・グオによる圧巻のワシリー・ワイノーネン版『パリの炎』のグラン・パ・ド・ドゥ。今年のブノワ賞候補となり時の人である近藤は、一段と自信に満ち輝いて見えた。
さらに付け加えると、こういう世界のバレエシーンの最新事情が垣間見えるエキサイティングなプログラムの中で、柳本雅寛&八幡顕光のコミカルな脱力系『What We Did for Love』はスパイス的な役割を果たし、計算された巧みさを感じさせた。

<第3部>「ロメオとジュリエット」よりバルコニーのパ・ド・ドゥ(振付:アンジェラン・プレルジョカージュ)津川友利江&バティスト・コワシェー

<第3部>『パリの炎』よりグラン・パ・ド・ドゥ(ワシリー・ワイノーネン振付)近藤亜香&チェンウ・グォ
このガラには「次世代の教育」がコンセプトに挙げられている。スターとジュニアが同じ舞台に立つガラ公演というのは世界にも類を見ないのではないか。この公演のために何ヵ月も前にオーディションをして準備してきたジュニアを、スターと同じステージ立たせ経験を積ませる。また加藤三希央、二山治雄は第1回から出演しており、これまでのところ、このガラを見ていれば彼らの成長を定点観測できることになる。才能を見出し育て、海外へ送り出してその成長を見守る、そういう長い目でダンサーを育成する配慮がこのガラには息づいている。
オープニングとエンディングは毎年遠藤が演出を施し、1つの公演として楽しめる工夫がされており、手作り感を失っていない。他では見ることのできないユニークな特徴があるこのガラ公演。継続する困難さは多々あるだろうけれども、これからも変わらずに続くことを願う。
結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)

フィナーレの様子
ライタープロフィール
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。