2018 / 11 / 05
「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」 第8回【得がたいパッション、強じんなカンタービレを紡ぐ──1987年ヴェローナ出身のアンドレア・バッティストーニ】

©上野隆文
昨年30歳になった。まだそんな歳だったか。
今月は、何かと熱いアンドレア・バッティストーニを推す。
東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者(2016年秋就任)として、あるいは<アレーナ・ディ・ヴェローナ>音楽祭のゲスト指揮者として、すっかりおなじみだ。10月には札幌文化芸術劇場hitaruのオープニング、神奈川県民ホール、西宮の兵庫県立芸術文化センター、それに大分のiichikoグランシアタ―で《アイーダ》に腕を揮い、日本での知名度を一段と高めた。《アイーダ》はこの夏、ヴェローナとシドニーでも指揮している。
ここへきて、東京フィルとのドヴォルザークの《新世界より》に伊福部昭の《シンフォニア・タプカーラ》、交響ファンタジー《ゴジラVSキングギドラ》から第7曲「ゴジラ」。それにチャイコフスキーの《悲愴》に武満徹の《系図~若い人たちのための音楽詩》と、2枚のディスクがリリースされた。《系図》の語りは、のん。話題満載だ。まさにBEYOND THE STANDARDな活動が続く。
1987年ヴェローナ!生れ。本人もいろいろなところで語っているように、この指揮者は、ローマ帝国時代の野外円形闘技場<アレーナ・ディ・ヴェローナ>でのヴェルディの響きとともに育った。作曲、チェロ、指揮を学び、2008年にスイス・バーゼル歌劇場で《ボエーム》を指揮し正式にデビュー。トリエステ、ヴェネツィア、パレルモ、ナポリなどに客演後、2011年から2013年にかけてファナティックなオペラ好きが多いパルマ、言わずと知れたミラノ、それにベルリン・ドイツ・オペラでヴェルディやモーツァルトを指揮し、喝采を博す。20歳代半ばだった。
日本への登場も早かった。2012年2月に東京二期会で《ナブッコ》を指揮。その後《リゴレット》《トロヴァトーレ》を任された。東京フィル定期での《トゥーランドット》、マスカーニの《イリス(あやめ)》もファンを大いに喜ばせた。
まさにイタリア・オペラの申し子。快進撃を喜びつつ、あの得難いパッションが、強じんなカンタービレが、さらに美しい弧を描き、幾重にも絡まる場面を味わってみたい──そんな欲も出てきた。
11月の東京フィル定期で披露するボーイトの歌劇《メフィストーフェレ》(主役はバス)、同じく1月定期でのリッカルド・ザンドナーイのメルヘン《白雪姫》への期待は増すばかりだ。熱き歌が、調べが、もうどうにも我慢できなくなって溢れ出るのか。それともリリックな味わいが際立つのか。知られざるメルヘンを彩るオーケストレーションは、さて!?
劇的なシンフォニーを愛してやまないバッティストーニは1月、新宿文化センターでマーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》にも挑む。
コーラスを高みに導く手腕もファンの喜びとなる。
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奥田佳道 Yoshimichi Okuda
1962年東京生れ。ヴァイオリン、ドイツ文学、西洋音楽史を学ぶ。ウィーンに留学。現在、放送出演、執筆、レクチャー、公演のプレコンサートトークで活躍。アサヒグループ芸術財団音楽部門選考委員、朝日カルチャーセンター新宿、北九州講師。中日文化センター講師。フッぺル鳥栖ピアノコンクール審査員。エリザベト音楽大学パフォーマンスフォーラム講師。著書に「これがヴァイオリンの銘器だ」「おもしろバイオリン事典」他。
<公演情報>
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:アンドレア・バッティストーニ
第121回東京オペラシティ定期シリーズ
2018年11月12日(月)19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール
第912回サントリー定期シリーズ
2018年11月16日(金)19:00開演(18:30開場)
サントリーホール 大ホール
第913回オーチャード定期演奏会
2018年11月18日(日)15:00開演(14:30開場)
Bunkamura オーチャードホール
第914回サントリー定期シリーズ
2019年1月23日(水)19:00開演(18:30開場)
サントリーホール 大ホール
第122回東京オペラシティ定期シリーズ
2019年1月25日(金)19:00開演(18:30開場)
東京オペラシティ コンサートホール
第915回オーチャード定期演奏会
2019年1月27日(日)15:00開演(14:30開場)
Bunkamura オーチャードホール