2019 / 04 / 25
「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」第14回【パッションもトラディションもお任せあれ 11月、ウィーン・フィルと来日 アンドレス・オロスコ=エストラーダ】

オロスコ=エストラーダ&ウィーン・フィル2018「バーンスタインとブラームス」©Werner Kmetitsch
今月はこの人。晴れ舞台を行き来する新時代の旗手、南米コロンビア出身のアンドレス・オロスコ=エストラーダを、あらためて推す。
昨今語られなくなったプロフィールを少し細かく。
1977年、コロンビア西部の都市メデジンの出身。同国第二の都市であるメデジン、そして首都ボゴタでヴァイオリンをしっかりと学んだ(本人談)後、10代半ばの頃から指揮者を目指したという。
筆者はヴァイオリニストとしてのオロスコ=エストラーダを知らないが、室内楽の担い手としてもコンサートマスターとしても優秀だったらしい。
19歳のとき、楽都ウィーンに留学。国立音楽演劇大学の指揮科で名伯楽ウロシュ・ラヨヴィチ(1944年リュブリャーナ出身、スロヴェニアの指揮者)から教えを受ける。ちなみにハンス・スワロフスキーの後継者として同大学指揮科のレヴェルを高めたラヨヴィチ教授は、キリル・ペトレンコ(1972年ロシア・オムスク出身)の先生でもある。
良き時代の技法を会得したアンドレス・オロスコ=エストラーダは2003年、指揮科を優秀な成績で修了した者だけが出演出来るウィーン放送交響楽団恒例の楽友協会コンサートに出演。大手の音楽マネジメントもついた。
2004年には、急な代役でニーダーエーステライヒ州立トーンキュンストラー管弦楽団(日本ではウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団)の指揮台に立つ。楽友協会での芸術祭コンサートのひとつだった。
これが日刊紙から「ウィーンの奇蹟」と賞賛され、道が決まった。オロスコ=エストラーダは南米コロンビア出身だが、ウィーン訛りのドイツ語を母国語のように話す。出自や流儀に「こだわる」(失礼)ウィーン音楽界からみれば「私たちが育てた逸材」となるのだ。歴史的にみれば、メータ、アバド、ヤンソンスもウィーン組だった。
その後スペインのサン・セバスチャンのオーケストラ、さらにグラーツのアンサンブルと契約。相前後してミュンヘン、ウィーンの宮殿や近郊、マドリード、コロンビアの首都ボゴタなどで、バロックからヴェルディまで、たくさんのオペラを指揮する。
ただその多くは国立歌劇場や州立歌劇場での仕事ではなかった。ゆえに国際的にはほとんど知られていない。近年グラインドボーン音楽祭で指揮した「ラ・トラヴィアータ」、ベルリン国立歌劇場への客演、あるいはhr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)との「サロメ」「エレクトラ」(コンサート形式上演)には関心が寄せられたけれども。
10年ほど前からの活躍は、皆さまご存じの通り。2009年から2015年まで前述のトーンキュンストラー管の首席指揮者を務め、オーケストラともども新時代到来を鮮やかに印象づけた。
今、hr響の首席指揮者、ヒューストン交響楽団の音楽監督を兼任。ロンドン・フィルの首席客演指揮者も務めている。
昨年4月にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演を二種類、指揮した。ひとつはメータの代役だった。オロスコ=エストラーダは2010年、2012年にも代役で同フィル定期に手を差し伸べている。
ウィーンの日刊紙の「お家芸」で最近は手厳しい評も目につくが、ウィーン・フィルとは相愛だ。今年11月来日公演での「春の祭典」を楽しみにしているファンも多いことだろう。
2018年は、ウィーン交響楽団恒例の大晦日「第9」も任された。実はこれ、近未来のウィーン響首席指揮者を紹介するコンサートだった。
リズムと音彩の変幻を愛でるアンドレス・オロスコ=エストラーダ、2021年/22年からウィーン響の首席指揮者に就任!
フィリップ・ジョルダンの後任だ。そのジョルダンは2020年/21年からウィーン国立歌劇場の音楽監督に「移籍」する。
来年秋以降、ウィーンの音楽シーンが、変わる!
【関連記事】
第13回【オーケストラ芸術の地平を拓く、34歳の川瀬賢太郎】
第12回【人を呼ぶマエストロ 山田和樹】
第11回【劇場を、新たな創造を愛してやまない鬼才マキシム・パスカル】
第10回【今をときめく鬼才 ウラディーミル・ユロフスキー】
第9回【ウィーン・フィル定期デビューも控えたオペラの匠―アラン・アルティノグリュ】
奥田佳道 Yoshimichi Okuda
1962年東京生れ。ヴァイオリン、ドイツ文学、西洋音楽史を学ぶ。ウィーンに留学。現在、放送出演、執筆、レクチャー、公演のプレコンサートトークで活躍。アサヒグループ芸術財団音楽部門選考委員、朝日カルチャーセンター新宿、北九州講師。中日文化センター講師。フッぺル鳥栖ピアノコンクール審査員。エリザベト音楽大学パフォーマンスフォーラム講師。著書に「これがヴァイオリンの銘器だ」「おもしろバイオリン事典」他。