2019 / 05 / 30
【公演直前】森山開次の話題作『NINJA』がついに上演!新国立劇場の「こどもと大人向け」シリーズ上演を目前に控えた森山開次さんが見どころを語る
2015年に大人も子どもも楽しめるダンス作品『サーカス』を発表し、新国立劇場・ダンス公演における観客動員数の記録を打ち立てた森山開次が、『サーカス』に続く第二弾公演として忍者をテーマにした新作『NINJA』を上演する。今作では、出演はもちろん、演出、振付、アートディレクションに至るまで担ったという森山に、劇場での仕込みの間を縫って新作について話を聞いた。
取材・文:井手朋子(クラシカ・ジャパン編成部)

2015年に行われた『サーカス』の模様©Takashi Shikama
──今回、忍者を題材にした理由を教えてください。
新国立劇場から提案されたのがきっかけです。ただ、ちょうど僕の中でも「サーカスの第二弾をやるなら、和を感じさせるユーモアのあるものかな」と漠然と考えていて。小学生の頃にやっていた忍者ごっこを思い出しながら、そういうのも面白いかなと思っていたので、その提案には自然と頷きました。
でもいざ作ろうとすると、シンプルではあるけれど深い部分のある難しいテーマでもあって、子どもにも大人にも見せていくという視点の中で、どんな切り口にすべきかというのは相当悩みました。忍者屋敷や映画、漫画など、日本人はみんな忍者が好きですよね。そういういわゆる直球の忍者像を期待する部分もあるだろうし、一方でそうではない部分も作っていきたい。僕たちはダンサーなので身体能力は高いかもしれませんが、忍者のようにクルクルと宙返りができるかというとそうではないし。アクション系の人たちが演じる忍者とは違う忍者像を作りたくて、全体の構成についてはかなり熟考を重ねましたね。

森山が描いた『NINJA』のイラスト
絵を描く時に何となくのイメージは生まれていました。ただ、絵は簡単なんですよね。絵は自由に何でも出来てしまいますが、実際に具現化して踊りにしようとすると難しさがたくさんある。でも絵を描きながら、昔やっていた忍者ごっこが、植物や自然、昆虫や動物との出会いの場でもあった体験を思い出したんです。
当時、空き地に基地を作ったり修行の真似事をしていたときは、多くの動植物が目の前にいた。だから、自分の中では「忍び」というものが忍者屋敷というより「自然の中に潜んでいるもの」という感覚が強くて。『NINJA』も、人間だけでなくいろいろなものが自然の中に忍びながら生きている、そういう大きな枠組みの中で作っていきたいと思い、昆虫や植物を登場させることにしました。
ただ、動植物を取り上げながらも、最終的には人間を描きたいという想いがあり、その2つのビジョンをどう組み合わせるかが大きなテーマでした。実は今回、演出という立場ながら、共演するダンサーたちに結構悩みを打ち明けていたんです。ダンサーからしたら、演出家は自信満々に方向性を示してくれた方がいいとは思いますが、先が見えていないのに強がって引っ張っていくより、相談して共有した方がいいかなと。
──どんなことを相談し合ったんですか?
創作する時は、新しい表現を求めるじゃないですか。でも持っているものは実はそれほど多くなかったりもする。そういう意味で、全体の構成だけでなく、ちょっとしたことが『サーカス』と同じになっているんじゃないかというやり取りは何度もありました。新体操出身のダンサーに対しては、「前回もリボンを多用したよね」「またリボンを使ってもいいかな?」というようにね。第二弾だから新しくしていきたいと思う一方で、第一弾と重なってしまう要素があるという葛藤がありました。ただ、途中からは同じ要素でも違う表現を届けられればいいという方向になっていきました。そういう意味では、2カ月という稽古期間はとてもいい時間を過ごせたと思っています。

演出・振付・アートディレクションを手掛ける森山開次©Sadato Ishizuka
浅沼(圭)さんと引間(文佳)さんは新体操出身で、小さい頃からお互い知り合い。体育会系で、浅沼さんの方が先輩。でも、今はダンサーというフラットな立場で付き合っていて、新体操から見たダンスという表現にそれぞれがチャレンジしています。この2人との出会いは僕にとっても大きく、とても信頼している2人です。
中村里彩さんは僕が演出を手掛けた東京芸術劇場の歌劇『ドン・ジョヴァンニ』でもご一緒していて、今回は直感で抜擢しました。今回は新しい風を入れたくて、若い世代が中心メンバーになっています。
藤村港平くんは『サーカス』の時にアンダースタディで入ってもらっていて、当時は筑波大学の学生でした。今は大学院生ですが、とても真面目でクレバーで、野心がありながら俯瞰する能力も持ち合わせたダンサーです。今後ダンス界で期待される逸材だと思っているので、ぜひ一緒にやりたいとお誘いしました。
宝満(直也)くんは元新国立劇場バレエ団ダンサーで、僕が演出した『小金井薪能』の作品でご一緒させていただいたので以前から知っていて、今回題材が「忍者」ということもあり、ぜひ出演いただきたいなと。寡黙ながら内に熱いものを持っていて、しかもユーモアセンスもあるという、日本の武士のようなところがピッタリだと思いました。踊りに関してはとにかくプロフェッショナルで、ダンサーとしてやることをしっかりやっていく。多くは語らずに助けてくれますし、「例えばこういうのもあります」とボソっと提案してくれます。創作に対する興味もとても強いので、頼れる存在です。
美木マサオくんはダンスもしますが、どちらかと言うと彼だけ演劇畑の人間で、演出助手として助けてもらうことが多いんです。彼自身が演出家でもあるので、いつも客観視しながら僕のフォローをしてくれます。今回はダンサーとは違う見方ができる人を入れたくてお願いしました。視点が広がるので、とても助けられています。
水島晃太郎くんはマイペースなモダンダンサー。彼も静かなタイプですが、身体の柔軟性が高くユーモアもある子です。僕がこういう性格なので稽古場の空気はだいたい暗いんですけど(笑)、そんな中でもいつもニュートラルにいて馴染んでくれています。
──観客の皆さんにはどういう楽しみ方をしてもらいたいですか?
お子さんたちには特に自由に思いを巡らせてもらえると嬉しいですね。ダンスは観る人の感覚に委ねていいものなので「なぜ?」「どうして?」ということがたくさんあった方がいいと思うんです。一部は楽しく割と分かりやすい構成ですが、二部になると「何をやっているんだろう、このお兄さんは」と思う瞬間があるかもしれません。でも「何をやっているんだろう」というところがダンスに興味を持つきっかけになればいいと思うので、ぜひ多くの疑問を持ってみてください。
それから、この作品は忍者が題材ではありますが、人間の性(さが)、死についても描いています。忍者が忍術をするように、動植物の世界にも身を守るための能力を持った生き物がたくさんいて、それはつまり死と隣り合わせで生きているということ。ですからダンサーたちはその動植物の生き様を表現することで、最終的にはダンサーたちの生き様、踊るという生き様を見せられたらと思っています。忍者の踊りざまを、ぜひ劇場に見にいらしてください。来てくださった皆さんがどう捉えてくださるか、自分たちも楽しみです。
『森山開次/NINJA』
演出・振付・アートディレクション:森山開次
音楽:川瀬浩介
照明:櫛田晃代
映像:ムーチョ村松
衣裳:武田久美子
音響:黒野 尚
キャスト:森山開次、浅沼 圭、中村里彩、引間文佳、藤村港平、宝満直也、美木マサオ、水島晃太郎
■新国立劇場公演
日時:5月31日(金)19:00/6月1日(土)14:00/6月2日(日)12:00、16:00/6月5日(水)19:00/6月7日(金)19:00/6月8日(土)14:00/6月9日(日)12:00、16:00
会場:新国立劇場 小劇場 https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/
問い合わせ:新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999(10:00~18:00)
●いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場(福島県)
6月15日(土)14:00 http://iwaki-alios.jp/
●北上市文化交流センターさくらホール 中ホール(岩手県)
6月22日(土)15:00 http://www.sakurahall.jp/
●水戸芸術館 ACM劇場(茨城県)
6月29日(土)13:00、17:00/6月30日(日)14:00 http://www.arttowermito.or.jp/index.html
●びわ湖ホール 中ホール(滋賀県)
7月6日(土)14:00 https://www.biwako-hall.or.jp/
●鳥取市民会館 大ホール(鳥取県)
7月9日(火)18:00 http://www.tottori-shinkoukai.or.jp/shimin.html
●北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)
7月13日(土)14:00 http://q-geki.jp/
●まつもと市民芸術館 小ホール(長野県)
7月20日(土)18:00/7月21日(日)13:00 https://www.mpac.jp/