2019 / 10 / 25
2020年に第18回フリデリク・ショパン国際ピアノコンクールが開催!~開催概要記者会見レポート
映画『蜜蜂と遠雷』の公開や、TVアニメ版『ピアノの森』第2シリーズのオンエアによって、「ピアノ・コンクール」に対する世間の注目が集まった2019年。とくに『ピアノの森』では、主人公・一ノ瀬海が出場(優勝)するワルシャワのショパン国際ピアノ・コンクールの様子を細かくリアルに描いて大きな話題となった。そして2020年。現実世界でも、5年に一度のショパン・コンクールがいよいよ開催される。東京・目黒のポーランド共和国大使館で、開催概要についての記者会見が行なわれた(10月9日)。
取材・文:宮本明(音楽ライター)
※新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、ショパン・コンクール本大会は1年後の2021年10月に延期が決定しました(2020/05/07追記)
わずか3時間で完売した本選入場券
会見は、日本・ポーランド国交樹立100周年記念「ショパン―200年の肖像」展(2019年10月~2020年9月/神戸、久留米、練馬、静岡を巡回)の開幕に、国立フリデリク・ショパン研究所のスタッフらが来日したのに合わせて開かれた。登壇者は、ショパン研究所から、アルトゥル・シュクレネル所長、コンクール・プロデューサーのヨアンナ・ボクシュチャニンさん、広報責任者のアデリナ・クモルさん。そして2020年のコンクール審査員でもある第11回コンクール第3位のピアニスト、クシシュトフ・ヤブウォンスキら。会場は多くの報道陣で埋め尽くされた。

左より、ダニエル・チヒ(ポーランド音楽出版会社(PWM) 社長)、アルトゥル・シュクレネル(国立ショパン研究所 所長)、ヨアンナ・ボクシュチャニン(国立ショパン研究所)、クシシュトフ・ヤブウォンスキ(第18回フリデリク・ショパン国際ピアノコンクール審査員)
2020年の第18回フリデリク・ショパン国際ピアノ・コンクールは、4月の予備予選からスタート。半年をおいて、本大会は10月2日のオープニング・コンサートで開幕する。第1次~第3次の予選を経て、3日間にわたる本選の最終日10月20日に、世界が注目する新たな優勝者が決定される。
すでに今年10月1日に発売された入場券は、わずか3時間で全日完売。なんと購入者の半数は日本人だったというから、日本のファンの注目度の高さにはあらためて舌を巻く。しかしご安心を。前回同様、今回もまたインターネットの生中継が行なわれるので、世界のどこからでも、自宅にいながらにしてコンテスタントたちの熱演を楽しむことができるのだ。前回は世界176か国で3,000万人がインターネット中継を視聴したという。時差のある日本のファンは、また今度も寝不足に悩まされそうだ。
4KやVR中継、専用のスマホ・アプリも準備中
この生中継、今回はさらにパワーアップする。新たに4K中継が行なわれるほか、ステージ上からピアニストたちを間近にとらえた視点で楽しめるVR中継も行なわれる。家にVRゴーグがない人も、世界の複数の会場でVR体験付きのパブリック・ビューイングの開催も準備中というから、ぜひ味わってみたいもの。
情報技術を活用した新たなサービスはほかにも用意されている。コンクールに関連するさまざまな情報を集約するポータルサイト(chopin2020.pl)や、専用のスマホ・アプリ、スマートTVアプリが準備中とのこと。揺らぐことのない権威を持った伝統的コンクールであるにもかかわらず、つねに新たな可能性を探る姿勢はなんとも頼もしい。
いっぽう、見る、聴くではなく、コンクールに参加しようという人の応募締め切りは12月1日。若きピアニストたちはぜひ!

会見の最後に演奏を披露したクシシュトフ・ヤブウォンスキ
会見の最後には、コンクール審査員でもあるポーランド人ピアニストのクシシュトフ・ヤブウォンスキの演奏があった。演奏に先立ってヤブウォンスキが話してくれた、コンクールと日本にまつわる素敵なエピソード。
ヤブウォンスキが第3位に入賞した1985年の第11回大会は、ソ連(当時)のスタニスラフ・ブーニンが優勝した年。日本では一躍ブーニン・ブームが巻き起こり、音楽界を超えて社会現象にまでなった。コンクールの前年、日本のNHKがポーランドにやってきて、有力な出場者としてヤブウォンスキを番組で紹介したのだが、当時のポーランドは「東側」の一国で、庶民の暮らしは非常に慎ましやかだった。彼が1923年のスタインウェイのボロボロのピアノで練習している様子が放送されると、日本の800人の有志たちが資金を出し合ってカワイのピアノを贈ってくれたのだそう。いまもそのピアノを大事に使っているという。優勝こそできなかったけれど、自分にとっては幸せなコンクールだったとヤブウォンスキ。1989年の初来日以来、毎年4~5回ずつ訪日を繰り返し、すでにのべ3年ほどは愛すべき日本で過ごしている計算になると静かに語った。いい話だ。
前回2015年大会のインターネット検索の分析からは、世界で50億人がこのコンクールに興味を持ってなんらかのアクセスを試みたことが判明しているという。世界で最も注目されているコンクールのひとつであるのは間違いない。前回の優勝者は韓国のチョ・ソンジン。日本の小林愛実も本選に残った。今度もまた、若いピアニストたちのフレッシュで熱い競い合いから目が離せない、長い3週間がやってくる。
第18回フリデリク・ショパン国際ピアノコンクール
2020年4月17日~28日 予選
2020年10月2日~23日 コンクール本大会
https://chopin2020.pl/
※新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、ショパン・コンクール本大会は1年後の2021年10月に延期が決定しました。開催は2021年10月2日から23日で、すでに発表されている予備予選参加者164名は変更されません(2020/05/07追記)
宮本明 Akira Miyamoto
東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。『レコード芸術』『音楽の友』『GRAND OPERA』など音楽雑誌の編集部勤務を経て、2004年からフリーランスの音楽ライター、編集者として活動。雑誌、インターネット媒体への寄稿、音楽書籍の編集、CD録音の監修・制作など、形態を問わず音楽関連の仕事を手がけている。