2019 / 11 / 15
約5週間にわたって上野の地で繰り広げられるクラシック音楽の祭典「東京・春・音楽祭 2020」の概要が発表!

写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:林喜代種
毎年、桜の開花と同時に音楽が東京に春を運んでくる。16回目の開催を迎える「東京・春・音楽祭2020」。その開催概要の発表会見が開かれた(10月28日・東京文化会館)。
取材・文:宮本明(音楽ライター)
公演数200本超という過去最大規模で行われる「東京春祭」
「東京・春・音楽祭2020」の開催期間は3月13日(金)~4月18日(土)。例年よりも長い約5週間にわたって繰り広げられる。夏の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて東京を華やかに盛り立てていこうという意味もこめられているようだ。しかも、2019年から新たに加わった「リッカルド・ムーティのイタリア・オペラ・アカデミー in 東京」は、五輪開会式前のサッカー競技よろしく、会期より早い3月6日に開幕するので、実質的には約6週間におよぶ大音楽祭ということになる。前年同様、公演数も200本を超える過去最大規模。
規模や形だけではない。海外からの参加アーティストたちから、「仲間に再会できた」「思わぬアーティストの公演が聴けた」などの喜びの声が多数聞かれるというように、どんどん国際的なフェスティバルとしてスケールアップしてきた「東京春祭」。たとえば2019年から始まった、バイロイト音楽祭との提携による「子どものためのワーグナー」には、同音楽祭総裁の演出家カタリーナ・ワーグナーが自ら来日して監修を務めるなど、「東京春祭」の価値はすでに国際的に認知されている。
会見冒頭で鈴木幸一実行委員長が「毎年新しい企画を加えながら発展していきたい」と語ったように、2020年もまた新たなシリーズ・コンテンツが加わってパワーアップする。たとえば音楽祭のフィナーレ(4/18)を飾る読売日本交響楽団の出演によるプッチーニ・シリーズ。『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』の三部作上演でスタートする新企画だ。円熟のベテランのロベルト・フロンターリ(バリトン)や2019年オペラリア第1位の新星アドリアナ・ゴンザレス(ソプラノ)ら多彩なキャストに加え、注目の女性オペラ指揮者スペランツァ・スカップッチが登場する。
これで、「東京春祭」の代名詞のひとつとも言えるNHK交響楽団による「ワーグナー・シリーズ」に加え、ヴェルディを中心に据えたムーティの「イタリア・オペラ・アカデミー」とともに、堂々たるオペラ・ラインナップを形成することになる(いずれも演奏会形式上演)。
その恒例のワーグナー・シリーズでは、主要作で唯一残っていた『トリスタンとイゾルデ』がいよいよ(4/2、5)。題名役にはアンドレアス・シャーガー(トリスタン/テノール)とぺトラ・ラング(イゾルデ/ソプラノ)。とびきりのワーグナー歌手二人が並んだ。しかも現代屈指のドイツ・オペラ指揮者マレク・ヤノフスキが帰ってくるのだから期待はいや増し。
昨年好評だった2つのオペラ企画は今年も開催
上で少し触れた「子どものためのワーグナー」も、今年同様に大人とおそろいの『トリスタンとイゾルデ』で。「子どものための」といっても、内容はけっして子ども向け、ましてや子どもだましなどではない。ワーグナーのひ孫でバイロイト音楽祭総裁のカタリーナ・ワーグナーの肝いり企画だけあって、じつにハイクォリティ。オーケストラの顔ぶれも、じつはすごい。お子さんのいる人は大手を振って入場できるけれど、残念ながら大人だけの入場は残席がある場合のみ。直前に確認が必要ではあるが、その価値はある。
そして、2回目の開催となるリッカルド・ムーティの「イタリア・オペラ・アカデミー」はヴェルディの『マクベス』。音楽祭の開幕公演を飾るのはその演奏会形式による全曲上演だ(3/13、15)。「アカデミー」全体は、巨匠ムーティが、若手指揮者へのマスタークラス形式で、ヴェルディの魂、イタリア・オペラの真髄を伝える白熱のライフワーク。2019年の受講生のひとり、沖澤のどかのブザンソン国際指揮者コンクール優勝でも注目を集めた。来年も、沖澤ら2019年と同じメンバーが引き続き受講してムーティの教えを受け、新たに、受講生たちが指揮する公演も加わる(3/14)。このアカデミーのために編成される「東京春祭特別オーケストラ」の素晴らしさも特筆に値する。
なお、マスタークラスの聴講は、当面は音楽家を志す30歳以下の若者に限定されるが、応募人数によって一般にも開放されるので、聴講を希望する人は音楽祭HPをこまめにチェックしよう。目からウロコの連続。音楽を見聴きして楽しむ目的でも、必ずプラスになること請け合い。

写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:林喜代種
オペラ以外にもオーケストラからリサイタルまで幅広いラインナップ
もちろんオペラだけではない。なにせ200公演超。オーケストラからリサイタルまで、幅広い充実のラインナップが用意されている。
2020年はベートーヴェンの生誕250年のメモリアル・イヤーだから、その関連コンサートも多い。円熟の巨匠エリーザベト・レオンスカヤの後期三大ピアノ・ソナタ(4/8)。クレメンス・ハーゲンと河村尚子のチェロ作品全集(4/9、10)。聴きながら歴史を学べる恒例のマラソン・コンサート(3/29)。
その中でイチ押しの目玉公演が、ヤノフスキ指揮のベートーヴェン『ミサ・ソレムニス』だ(4/12)。日本の誇るプロ合唱団、東京オペラシンガーズによる「合唱の芸術シリーズ」の第7弾で、オーケストラは東京都交響楽団。作品の規模や美しさ、声楽の充実度は『第九』をはるかに上回ると言っていい名曲。ヤノフスキ本人たっての選曲で実現したプログラムだというから、ものすごい本気が期待できるはず。豪華海外勢の独唱陣が保証付きの素晴らしい歌を聴かせてくれるであろうことは名前だけでも想像がつくけれど、とくにこの曲では、メゾ・ソプラノにエリーザベト・クールマンを起用しているのがかなり効いていると思う。「ベネディクトゥス」の美しいヴァイオリン・ソロを弾くのは矢部達哉か四方恭子か、はたまた山本友重か。ああ、想像するだけでも鳥肌が立つ。
ニューフェイスとしては、トルコ出身の話題の美人姉妹ピアノ・デュオ、フェルハン&フェルザン・エンダーが「東京春祭」初登場(3/18)。2台のピアノによるヴィヴァルディ『四季』や、同じトルコ出身の鬼才ファジル・サイが彼女たちのために書いた作品など、食指をそそられるプログラムだ。
国の重要文化財である旧東京音楽学校奏楽堂や、博物館、美術館でのミュージアム・コンサート、ホールを飛び出した「桜の街の音楽会」など、特別な場所での公演に訪れるのも「東京春祭」の重要な楽しみ方。当然人気公演はチケット争奪必至。計画はお早めに。
東京・春・音楽祭2020
期間:2020年3月13日(金)~4月18日(土)
会場:東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部 他
主催:東京・春・音楽祭実行委員会
共催:東京文化会館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
助成:公益社団法人企業メセナ協議会 2021 芸術・文化による社会創造ファンド
詳細はこちらをご覧ください。
宮本明 Akira Miyamoto
東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。『レコード芸術』『音楽の友』『GRAND OPERA』など音楽雑誌の編集部勤務を経て、2004年からフリーランスの音楽ライター、編集者として活動。雑誌、インターネット媒体への寄稿、音楽書籍の編集、CD録音の監修・制作など、形態を問わず音楽関連の仕事を手がけている。