2019 / 11 / 24
オランジュ音楽祭2015『カルメン』
≪おススメオペラ≫
クラシカ・ジャパンが自信をもっておすすめするオペラ公演。
2019年11月放送のラインナップから、今回は「オランジュ音楽祭2015『カルメン』 」をご紹介します。
「運命」を濃厚に描く『カルメン』。カルメン歌手アルドリッチと、スーパースター、カウフマンの21世紀の黄金コンビ!
フランスのプロヴァンス地方で開かれる夏のオランジュ音楽祭は、その歴史を1869年にまでさかのぼる、フランス最古の音楽祭です。
9,000人収容の「古代劇場」で行なわれる野外オペラはそのメイン・プログラム。会場は、世界遺産にも登録されているローマ時代の遺跡です。この伝統ある野外オペラのライヴ映像から、ケイト・アルドリッチとヨナス・カウフマンが歌った、2015年上演の歌劇『カルメン』をお届けします。
現代的なオペラ劇場のステージ機構を持たない古代遺跡に、演出のルイ・デジレは、シンプルな象徴を用いた絵画的なセットを作り上げました。ドラマは終始、大きなカード(トランプ)でできた床や壁の中で繰り広げられます。
カードが意味するのは「運命」。第3幕で、カルメンがカード占いで自分とドン・ホセに訪れる死を予感するシーン(「カルタの歌」)を、オペラ全体の象徴として拡大した格好です。
デジレはさらに、各幕前の前奏曲や間奏曲に乗せて、ストーリーを補うような演技をつけています。たとえば第2幕冒頭では、直前の間奏曲から、本来そこにいないはずのホセを舞台に登場させて、カルメンがホセを虜にしてゆく様子を描いています(ここでカルメンの「ジプシーの歌」が、通常より遅く歌われ始めるのも、まるでホセを取り込む魔性のカルメンの呪詛のよう)。
また第3幕への前奏曲では、盗賊団に加わったホセが、カルメンと(カードの上で)愛し合う様子を見せ、ホセを誘惑していたはずのカルメンが次のシーンでいきなり冷たい素振りという、割り切れないドラマツルギーを解決してくれます。二人は確かに愛し合った時間があったのです。なかなか濃厚なラブ・シーンで、美しい叙情的な間奏曲もどこか官能的に響きます。
主役のカルメンを演じているのはアメリカ出身のメゾ・ソプラノ、ケイト・アルドリッチ。世代を代表する最高のカルメン歌手と言われる彼女は1973年生まれ。2016年にシャルル・デュトワ指揮が指揮したNHK交響楽団の定期演奏会で同役を歌っていたのを記憶しているファンも多いでしょう。妖艶な姿と濃厚な表現力を備えた美声は、まさにカルメンにぴったりです。

(c)Philippe Gromelle Orange
ヨナス・カウフマンのホセが圧巻
そして21世紀のスーパー・テノール、ヨナス・カウフマンのホセが圧巻。「花の歌」(第2幕)のラストの高音を、絶叫するのではなくピアニッシモで、しかも内なる情熱を秘めた声の表情を保ったまま歌えるのは、彼ならでは。何度聴いても惚れ惚れします。
ミカエラはインヴァ・ムーラ。清純な田舎娘に、50歳を過ぎたベテランを起用するのはやや異例ですが、透明な美声で歌いきって、主役二人に負けない大きな拍手を浴びています。
フィンランド出身の中堅指揮者ミッコ・フランクは、演出上の要請なのか、上述のように、ときに大胆にテンポを緩めて、独特の『カルメン』を作り上げています。アンサンブルや合唱の扱いも丁寧で緻密。肘かけ付きのアーム・チェアに座って指揮しているのは珍しい光景です。セリフのない、グランド・オペラ版での上演。
[出演]ケイト・アルドリッチ(カルメン/メゾ・ソプラノ)ヨナス・カウフマン(ドン・ホセ/テノール)カイル・ケテルセン(エスカミーリョ/バリトン)インヴァ・ムーラ(ミカエラ/ソプラノ)エレーヌ・ギルメット(フラスキータ/ソプラノ)マリー・カラル(メルセデス/メゾ・ソプラノ)ジャン・テジャン(スニガ/バス)オリヴィエ・グラン(ダンカイロ/バリトン)フロリアン・ラコーニ(レメンダード/テノール)アルマンド・ノゲラ(モラレス/バリトン)
[演目]ジョルジュ・ビゼー:4幕のオペラ・コミック『カルメン』[台本]アンリ・メイヤック&リュドヴィク・アレヴィ[原作]プロスペル・メリメの小説『カルメン』[演出・装置・衣裳]ルイ・デジレ[照明]パトリック・メーウス[指揮]ミッコ・フランク[演奏]フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、アンジェ=ナント歌劇場合唱団、グラン・アヴィニョン歌劇場合唱団、ニース歌劇場合唱団、ブーシュ・デュ・ローヌ児童合唱団[合唱指揮]エマニュエル・トランク、ジュリオ・マニャニーニ、オロル・マルシャン、ハビエル・リベス、サムエル・コカルド[収録]2015年6月8日&11日古代劇場(オランジュ)「オランジュ音楽祭2015」[映像監督]アンディ・ゾマー
■字幕/全4幕:約2時間50分
初回放送日:11月26日