2019 / 12 / 03
東京バレエ団の『くるみ割り人形』が37年ぶりに新制作!12月13日の初演を前に公開リハーサル&記者懇親会が開催

photo Shoko Matsuhashi
東京バレエ団の『くるみ割り人形』が37年ぶりに新制作されることになり、12月13日より3キャストで上演される。同作は東京バレエ団にとってゆかりのある作品。母体であるチャイコフスキー記念東京バレエ学校が開校2年目に上演した演目が『くるみ割り人形』だった。そのバレエ学校は来年開校60周年、東京バレエ団は今年が創立55周年という大事な節目の年にあたり、メモリアル・イヤーの最後を飾る作品として新制作の『くるみ割り人形』を披露するという。
これまで東京バレエ団が上演してきた版は、当初はワイノーネン版だったようだが、長い年月を経て振付や演出も変わってきてしまったという。そのため、作品のクレジットの問題を解決する必要があるとともに、「現行の版の良い部分を残しつつ、より良い『くるみ割り人形』にしなければならないと思い、今回の新制作に踏み切った」(斎藤友佳理)
新制作では衣裳も舞台装置も一新。初演もまだだが、すでに来年の12月に再演することも決まっている。公演に先立ち、公開リハーサルと記者懇親会が行われた。
取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)

左より、記者懇親会に登壇した柄本弾、川島麻実子、斎藤友佳理芸術監督 photo Shoko Matsuhashi
新演出のキーワードはクリスマスツリー
公開リハーサルでは、第2幕のディヴェルティスマンが披露された。続いて行われた記者懇親会には、斎藤友佳理芸術監督、初日の主役を務める川島麻実子、柄本弾が登壇。まず斎藤監督が新制作の大変さについて語った。
「時間が経つのは早くて、初日が近づくにつれ苦しいです。いいところは残しつつ、自分が踊っていた時に“こうだったらいいな”“こうやったらもっと分かりやすいだろう”と考えていたことを思い出しながらアレンジしています」
「言い訳ですが」と前置きして斎藤監督が話すバレエ団の活動は、大変な過密スケジュールだった。秋からだけでも、10月に勅使川原三郎に振り付けてもらった新作を含むトリプル・ビル公演、11月に子どものための『ドン・キホーテの夢』公演を6回4キャストで上演、札幌で中学生に向けて『白鳥の湖 第2幕』と『ボレロ』を上演し、そしてようやく『くるみ割り人形』に集中できるようになった状況だという。そもそも舞台や衣裳を新しく作るグランド・バレエの新制作に、実質1年しか時間がない中で取り組むのは驚異的だ。

photo Shoko Matsuhashi

photo Shoko Matsuhashi
これが新演出のコンセプトが生まれるきっかけとなった。キーワードはクリスマスツリー。第2幕はツリーの頂点の少し手前でみんながツリーの中に入っていき、ディヴェルティスマンが繰り広げられる。最後のグラン・パ・ド・ドゥは一番上にあるお菓子の国に登っていって踊られる。このグラン・パ・ド・ドゥは斎藤芸術監督曰く「これ以外の振付は考えられない、というくらい好き」だそうで、他にも花のワルツの主だった部分に手は加えていないそうだ。

photo Shoko Matsuhashi
主役の2人は、不安はあると言いつつも新制作の初演を務めるワクワク感がじんわり伝わってきた。
マーシャ役の川島は「楽しみな気持ちが大きいです。マーシャ役は今回が2回目。前回は、マーシャの年齢が幼い少女からグラン・パ・ド・ドゥの時はいきなり大人になっていましたので、演じる上で戸惑いもありました。友佳理さんはいつも一緒に解決方法を考えてくれています。そのため、今回はすんなり心の成長の段階を踏んでいけました。各国の踊りも舞台上にいて見ることができるので、私のために踊ってくれているという感覚がありますし、友人役の人形たちが一緒にいて心の変化に寄り添ってくれます。ドロッセルマイヤーは影で守ってくれています。このようなマーシャの成長の様子を見守るあたたかい雰囲気が、舞台からみなさんに伝われば」と語った。
王子役の柄本は「初演ならではのことですが、自分たちが表現しやすいことを取り入れてもらったり、とりあえずやってみるなど、みんなで創っている感じが好きです。3組の主役ペアの振付は、それぞれ違いが出ています。今まで以上に思い入れの強い『くるみ割り人形』になると思いますし、いいものができあがると確信しています」とのこと。
新制作を舞台にかけるにはさまざまな困難が伴うもの。観客にはその苦労は計り知れないが、“新制作”という言葉には心躍るものがある。これから長く踊り継がれていくであろう新版の初演を大いに期待したい。

左より、柄本弾、斎藤友佳理芸術監督、川島麻実子 photo Shoko Matsuhashi
東京バレエ団 新制作 「くるみ割り人形」
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/nuts/
日時:2019年12月13日(金)19:00、14日(土)14:00、15日(日)14:00
会場:東京文化会館
出演:
12月13日(金)マーシャ:川島 麻実子/くるみ割り王子:柄本 弾
12月14日(土)マーシャ:沖 香菜子/くるみ割り王子:秋元 康臣
12月15日(日)マーシャ:秋山 瑛/くるみ割り王子:宮川 新大
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
台本:マリウス・プティパ(E.T.Aホフマンの童話に基づく)
改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
舞台美術 :アンドレイ・ボイテンコ
装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ
指揮:井田勝大
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。