2020 / 01 / 30
【公演中止】バットシェバ舞踊団が3年ぶりに来日し、彩の国さいたま芸術劇場でダンス公演『Venezuelaーベネズエラ』を上演

©Ascaf Avraham
オハッド・ナハリンが芸術監督在任中、最後に創作した話題作

©Ascaf Avraham
バットシェバ舞踊団が3年ぶりに来日し、彩の国さいたま芸術劇場で公演を行う。30年にもわたり芸術監督を務め、カンパニーを牽引してきた稀代の振付家、オハッド・ナハリンが2018年に芸術監督を退任した。現在はハウス・コレオグラファーとなり創作のみに集中できる立場になっているが、彼が監督在任中、最後に創作したのが今回上演する『Venezuelaーベネズエラ』だった。2017年に初演されて以来、大変な反響で日本での上演が待ち望まれていた。「ベネズエラ」というタイトルの由来は、「地球儀を回してたまたま触れた場所だった」ので特に意味はないとのこと。これは、作品のイメージやコンセプトが限定されるのを避けるためのコメントと思われる。

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ナハリンは、発表する作品すべてが革新的で、歴史に名を刻む偉大な振付家だ(ナハリンの半生を紹介する『ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス』というドキュメンタリー映画で、彼の多くの作品の断片を見ることができる)。彼はオリジナルの身体メソッド「Gaga」を編み出し、カンパニーのダンサーはみなこのメソッドを日常的なトレーニングに取り入れている。彼らが踊り出すと、そのパワー、パッションに圧倒され「一瞬で掴まれる」のである。
特に『Venezuelaーベネズエラ』では、舞台装置がなく、衣裳は全員がシンプルな黒。まさにダンスだけですさまじいエネルギーを放ちまくる。切れ味鋭い、あるいはゴツゴツした塊を投げつけられるかのような迫力に満ちている。音楽に合わせて振付を踊ることには違いないのだが、言葉ではなく身体で何か本気で表現しているということがビシビシ伝わってくる。コンテンポラリー・ダンスというアートを経験するのに、ナハリン&バットシェバ舞踊団のパフォーマンスほど力強くて洗練されたものはないだろう。

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音楽は、マキシム・ワラットなる人物が担当。これは実はナハリンの別名で、つまりナハリンが振付、演出、音楽を手掛け、綜合的に作品を創作している。優れた振付家はほぼ間違いなく音楽の感性も抜群で、実によくさまざまな音楽を聴いているし理解している。いつも彼らの選曲のセンスの良さには感心してしまう。『Venezuelaーベネズエラ』でも、グレゴリオ聖歌、ノトーリアス・B.I.G.のラップ、中近東、ボリウッドの映画音楽等、時空を超えた曲が使用されており、イメージが果てしなく広がる。
1997年の『ジーナ』で初来日して以来、日本でも絶大な人気を誇り、観る者を惹きつけてやまないナハリンの作品とバットシェバ舞踊団のパフォーマンス。彼らが投げかけるコンテンポラリー・ダンスの表現を一度経験してしまうと、強烈に心が揺さぶられ、経験前の自分には戻れない。3月に彩の国さいたま芸術劇場で行われるたった3回の公演をお見逃しなきよう。
取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)
バットシェバ舞踊団/オハッド・ナハリン
『Venezuelaーベネズエラ』
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/7011
日時:2020年3月13日(金)19:30、14日(土)15:00、15日(日)15:00
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出・振付:オハッド・ナハリン
出演:バットシェバ舞踊団(18名)
※新型コロナウイルス感染症の影響により、バットシェバ舞踊団の日本公演は中止となりました。詳しくはこちらをご覧ください(2/25追記)。https://www.saf.or.jp/information/detail/1044
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。