2020 / 03 / 25
映画『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』が6月5日より全国順次公開

『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』© Illuminations and New Adventures Limited 2019
男性が白鳥を演じる『白鳥の湖』、第二次世界大戦のロンドンが舞台の『シンデレラ』等、バレエの古典作品の新解釈で絶大な評価を得ている英国の振付家・演出家マシュー・ボーンにとっては12作目となる長編作品が『ロミオとジュリエット』。2019年に初演されたこの作品が早くも映画となり、日本では6月から上映されることとなった。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』は、ルネサンス期のイタリア、ヴェローナが舞台で、キャピュレット家とモンタギュー家という対立関係にある二大名家に生まれた若い二人が恋に落ちるが、両家の対立ゆえ悲劇に終わる。この物語にプロコフィエフの音楽を使用したバレエ『ロミオとジュリエット』は、これまでにたくさんの版が生まれた。ラブロフスキー、グリゴローヴィチ、クランコ、ノイマイヤー、ヌレエフ、ベジャール、マクミラン、プレルジョカージュ、マイヨー等、錚々たる振付家が手がけ、それぞれ完成度も高い。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019
ボーンが作り出した『ロミオとジュリエット』の舞台は、近未来の反抗的な若者を強制する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」。厳しい管理下のもと、白い服を着せられた若者たちは、男女が厳然と分けられて自由を奪われ、投薬され、さまざまな虐待も受けている。ジュリエットは残忍な看守ティボルト(大きい! 怖い!)に目をつけられ怯えている。そんな施設に政治家の両親に見捨てられて入所してきたロミオは、施設が開催するダンスパーティでジュリエットと出会い恋に落ちる。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019
ボーンの作品は、大胆に原作から遠く離れた状況設定をしていても、誰にでも、もちろん原作を知らない人にでも物語をスムーズに理解することができる。若い男女はどんな状況下でも恋に落ちる、恋人たちは純粋に恋に生き心のままに突き進む、といった普遍的な真理が真っ直ぐ胸に刺さる。青白い光の中で踊る二人はイノセントで美しい。

© Illuminations and New Adventures Limited 2019
『ロミオとジュリエット』は3日間の出来事を追っており、その短い時間で13歳のジュリエットが少女から愛に生きる大人の女性に変化するさまがよく語られる。このボーン版では、コーデリア・ブライスウェイト演じる過酷な環境のせいでどこか絶望しているジュリエット、パリス・フィッツパトリック演じる繊細な少年を感じさせるロミオは、どちらもこれまでにない新しいキャラクターで印象的だ。出演者の中には若いダンサーもたくさんいて、登場人物たちのリアルさ、ひりひりとした切実さが一層感じられる(スタッフも若手を起用しているとのこと)。
悲しい結末に向かいラストのダンスまで一気に突き進む、ボーン版『ロミオとジュリエット』の世界観をぜひ体験したい。
文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)

© Illuminations and New Adventures Limited 2019
マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット
http://mb-romeo-juliet.com/
6月5日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
演出・振付:マシュー・ボーン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ロミオ:パリス・フィッツパトリック
ジュリエット:コーデリア・ブライスウェイト
ティボルト:ダン・ライト
マキューシオ:ベン・ブラウン
バルサザー:ジャクソン・フィッシュ
2019年製作/91分/イギリス
原題:Matthew Bourne’s Romeo and Juliet Cinema
配給:ミモザフィルムズ
配給・宣伝協力:dbi inc
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。