2020 / 07 / 16
フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020が7月23日から8月10日まで開催
開催決定!の朗報が届いた。
首都圏のプロ・オーケストラが一堂に会する真夏の都市型音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI」(主催:川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール)。新型コロナウイルス感染症拡大の影響でチケットの発売開始を延期していたが、ほぼ予定どおりの規模・日程での開催が決定。すでにチケット販売も始まった。7月10日、ミューザ川崎シンフォニーホール客席内で記者発表会が開かれ、同ホール・チーフアドバイザーの指揮者・秋山和慶や川崎市の福田紀彦市長らが出席した。
会見冒頭、ホールアドバイザーの松居直美のオルガン演奏が響く。「生で音楽を聴くっていいなと、心の底から感じています」と福田市長。
ここミューザ川崎でも、2月下旬から次々に公演が中止・延期され、政府の緊急事態宣言を受けて4月からは臨時休館。6月下旬から、感染防止策を講じながら、ようやくコンサートが再開し始めたところだ。19日間に全17本のコンサートで構成される「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020」は、コロナ禍で開催される初めての大規模なクラシック音楽祭。新たなコンサートのあり方を探るチャレンジの場となりそうだ。
大きな特色は、客席に聴衆を入れたうえで、本格的な有料映像配信との両立を模索する、いわば「ハイブリッド開催」となったこと。チケットは、通常と同様にホールで鑑賞する「ホール座席券」と、パソコンやスマートフォンなどからインターネットで配信映像を見るための「オンライン鑑賞券」の2通りが販売される(https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/ticket/)。
ホール座席券は、通常1,997人収容の座席数を約600席に限定しての販売。1公演につき1人2枚までの購入制限がある。原則として前後左右を空けた1席おきの座席配置だが、2席連番のペア席も用意されている。料金は全席指定4,000円で、一部の公演ではより安価に設定。すでに7月10~12日にサポーター組織「ミューザ川崎シンフォニーホール・友の会」向けに先行販売され、7月17日から一般販売が始まる。

会場となるミューザ川崎シンフォニーホール ©青柳聡
新たな試みとなるのがオンライン鑑賞券。「おうちでサマーミューザ」というわけだ。バックステージの様子や演奏者へのインタビューなども交えた本格的なコンサート中継を、複数台のフルHDカメラを用いた多彩なアングルで構成。チャット機能による視聴者コメント投稿など、オンラインならではの楽しみ方も広がる。動画配信サービス「TIGET LIVE」のシステムを利用した配信で、TIGETのサイトで視聴券を購入してアクセスする。生中継のライヴはもちろん、翌日以降8月末までアーカイヴとしても配信されるので、たとえばホールで聴いて帰宅後に配信チケットを購入し、夏のあいだ繰り返し感動を噛み締めるというような使い方も可能だ。料金は1公演1,000円。全17公演をまとめて9,000円で観ることができるお得なセット券も。
ほとんどの公演で、既報からは内容が一部あるいは全面的に変更されている。海外からの渡航制限による出演者の交代と、それに伴う曲目変更や、ステージ上のソーシャル・ディスタンスを保つために、当初より編成の小さな作品に変更して演奏者数を減らしたり、観客の接触機会を考慮して、休憩なしのプログラムにした公演もある。それによって新たな見どころ・聴きどころも生まれているから、良いほうに考えたい。
音楽祭初日(7月23日)の東京交響楽団によるオープニング・コンサートでは、おそらくは過去に例のない、音楽史上初の「リモート指揮」が実現する。英国から来日できなくなった音楽監督ジョナサン・ノットが、ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』を、ステージ上のモニターで指揮する(あらかじめ撮影した録画映像を使用)。客席から見える位置にもモニターが設置されるから、演奏者になった気分で、より演奏に集中して聴けるかもしれない。

オープニング・コンサートでリモート指揮を行うジョナサン・ノット ©K.Nakamura
曲目の変更により新たに注目されるのが、今年生誕250年のベートーヴェンの交響曲。当初の予定でも第5番『運命』以降の5曲がプログラムされていたのだが、結果的にそれが拡充された。感染予防のために合唱の入る『第九』がなくなってしまったのは残念だけれど、その代わりに第1番から第4番が加わったので、『第九』以外の8曲を聴けることになった。ベートーヴェンは2管編成で演奏できるので、ステージ上の演奏者数を一定数におさえられるというのも大きな理由になったようだ。
NHK交響楽団(7月25日)はまさに、このサマーミューザが再開後初の聴衆の前での演奏となるのだが、どのオーケストラも、かつて経験したことのない長い休止期間を経て活動を再開したばかり。現場のオーケストラの声には期待や決意がこもる。
「活動を再開して2週間。演奏後のお客様の拍手に『圧』を感じる。非常に感動的。サマーミューザもきっと大勢のお客様がみえる。どのオーケストラも熱のこもった魂を揺さぶるような演奏をするので、力添えをお願いしたい」(指揮者・秋山和慶)
「演奏する場を奪われ、あらためて自分たちを深く考えることになった。自分たちはどうあるべきなのか。どういう演奏をするのが自分たちのオーケストラなのか。それぞれの団体が非常に個性を豊かにして新しいスタートを切ってくれると思う」(日本オーケストラ連盟・桑原浩専務理事)
演奏者もわたしたち聴き手も、これまでとは異なる新しいコンサートのあり方を探っていかなければならない。しばらくは大小の不自由もあるだろう。しかしそれを新たな可能性に結びつけなければならないはず。たとえば活動自粛中に無観客で行なわれた、あるコンサートの有料映像配信には、ホールの客席数を超える購入者があったという。時間や場所にしばられない鑑賞スタイルが、演奏者にもわたしたち聴き手にも有益な手段として定着すれば、音楽の世界もいっそう広がる。もちろんコンサートホールでの生音の体験は並行して継続されなければならない。今年のサマーミューザはそれを両立するチャレンジでもある。
フェスタサマーミューザKAWASAKIは、7月23日(木祝)から8月10日(月祝)まで全17公演。JR川崎駅前のミューザ川崎シンフォニーホールで。
取材・文:宮本明(音楽ライター)
フェスタサマーミューザKAWASAKI 2020
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
会期:2020年7月23日(木・祝)~8月10日(月・祝)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
公演数:全17公演
宮本明 Akira Miyamoto
東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。『レコード芸術』『音楽の友』『GRAND OPERA』など音楽雑誌の編集部勤務を経て、2004年からフリーランスの音楽ライター、編集者として活動。雑誌、インターネット媒体への寄稿、音楽書籍の編集、CD録音の監修・制作など、形態を問わず音楽関連の仕事を手がけている。