2020 / 10 / 28
新国立劇場バレエ団2020/2021 シーズン開幕公演『ドン・キホーテ』〜吉田都舞踊芸術監督、開幕直前会見レポート

撮影:阿部章仁
いよいよ新国立劇場バレエ団が、吉田都・新芸術監督を迎え、新シーズンをスタートさせる。翌日に初日を控えた10月22日に行われた開幕直前会見のレポートをお届けする。
9月より、シーズン開幕作品『ドン・キホーテ』のリハーサルが始まった。
「歴代の芸術監督に対して感謝の気持ちでいっぱいです。二十数年間でここまでバレエ団を作り上げてくださったんだなとすごく実感しています。『白鳥の湖』を断念したのは残念ですが、今思えば明るく華やかな『ドン・キホーテ』が開幕にふさわしい作品だとつくづく感じています。なにより、大原永子前監督の思いのこもったキャスティングだということです。日替わりでゲストも呼ばずにバレエ団のダンサーだけ、(主役)デビューのダンサーもいる。大原前監督が最後にこの舞台を見たいということで選ばれたと思うので、その思いを引き継ぎキャスティングはそのままです。主役は6組、久しぶりの舞台なので、公平にリハーサルするとなると6日かけて通し稽古をしなくてはなりませんでした」(吉田都芸術監督)
「リハーサルをしていると、ダンサーたちの反応が良く、みなが変化していく様子も見られ、積み重なったものがあるからだなと私も楽しかったです。島田廣先生(初代芸術監督)からバレエ団が始まって、時間をかけてここまでバレエ団を育ててくださった。私は料理でいうと最後の味付け、彩りを添えるような、一番いい仕事させていただいているのかなとありがたい気持ちでいっぱいです」
新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』はファジェーチェフ版で、1999年のバレエ団初演の際、吉田監督はゲストで主役を踊った。今回の公演のためのチラシやポスターで米沢唯が着ている衣裳は、かつて吉田都が着たものなのだそう。米沢が教えてくれたそうで「長く上演を重ねている作品はそういうこともある。私も英ロイヤル・バレエ団で、衣裳にダンサーのタグが残っているのを見るとうれしかった記憶があります」と素敵なエピソードを聞かせてくれた。
ファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』の見どころについて、吉田監督は次のように語った。「オーソドックスな演出です。無駄なくわかりやすく、そしてバレエの素敵な伝統を受け継ぐものがすべて入っており、素晴らしい演出、振付となっています」
「自粛期間中、ダンサーたちには厳しい時間だったと思いますが、稽古を欠かさず、シーズンが始まってからは毎日マスクをしてスタジオの消毒、検温もしています。新しいいろいろなことに対応していかなければならなかったけれど、一緒に頑張ってここまでたどり着いたという感じです」
今回の『ドン・キホーテ』は、バレエ団史上初、有料でオンライン配信される。NHKの「チコちゃんといっしょに課外授業 製作委員会」との共催で、すでに主役2人と吉田監督とのリハーサル風景が配信されている。配信チケット購入者は11月30日23時55分の配信終了まで何度でも視聴可能。12月の『くるみ割り人形』公演も、文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」として、配信が決定している。
「なかなか主役のリハーサル風景を見る機会はないと思います。もし自分が見ることができるのだったら、他のプリンシパルのリハーサルは見たいと思います。教える側としては公開するのは……と思ったりもしますが、好評をいただいております。リハーサルってこんな感じなんだと思い、配信を見た後に劇場に足を運ぼうかなと思っていただけたら嬉しいです」

『ドン・キホーテ』について話す吉田都舞踊芸術監督 撮影:阿部章仁
会見では、今後の公演の演目が変更になったことも発表された。来年1月の「ニューイヤー・バレエ」では『デュオ・コンチェルタント』に代わり『ソワレ・ド・バレエ』(深川秀夫振付)、『Contact』(木下嘉人振付)、『カンパネラ』(貝川鐵夫振付)が上演される。2月の「吉田都セレクション」は『眠れる森の美女』全幕となる。
変更について吉田監督は、「「ニューイヤー・バレエ」での新制作は、私は(作品指導の)先生にいらしていただき時間をかけて教えていただきたいという気持ちが強く、今の不安定な状況でどんどん時間が経っていくのが不安でした。そのため、しっかりと進む方向を早めに決めようと思ったのです。『ソワレ・ド・バレエ』は、9月に亡くなられた深川秀夫先生の作品です。1960年代、70年代に国際的なバレエコンクールで入賞され、日本のバレエ界に勇気と希望を与えてくださった先駆者です。私は直接の面識はないのですが、追悼の気持ちを込めました。以前新国立劇場バレエ団で上演した際に手直ししてくださったパ・ド・ドゥを上演します」と説明した。
会見後、ゲネプロが公開された。主役は、キトリ役・柴山紗帆とバジル役・中家正博のペア。入念にリハーサルを重ねてきた彼ら2人の丁寧な役作りに心が動かされた。舞台に立つダンサー全員も踊る喜びにあふれており、劇場中がハッピー・オーラに包まれていた。
バレエ・ファンがこよなく愛する、底抜けに明るくて楽しくて見どころ満載な『ドン・キホーテ』。閉じていた劇場の扉を再び開けるのにこれほどふさわしい作品はない。芸術鑑賞という幸せな体験をしに劇場へ出かけたい。
取材・文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)
2020/2021シーズン バレエ『ドン・キホーテ』
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/
日時2020年10月23日(金)19:00、24日(土)13:30、19:00、25日(日)14:00、31日(土)13:00、18:30、11月1日(日)14:00
会場:オペラパレス
音楽:レオン・ミンクス
振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー
改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ
キャスト
キトリ:米沢唯(23日、31日18:30開演回)、木村優里(24日13:30開演回)、小野絢子(24日19:00開演回、1日)、柴山紗帆(25日)、池田理沙子(31日13:00開演回)
バジル:井澤駿(23日)、渡邊峻郁(24日13:30開演回)、福岡雄大(24日19:00開演回、1日)、中家正博(25日)、奥村康祐(31日13:00開演回)、速水渉悟(31日18:30開演回)
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。