2020 / 12 / 08
世界各地で称賛を浴びた話題作『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』が12月に日本初上陸

©Nino Laisne
コロナ禍で海外のアーティストを招聘することが困難な中、フランソワ・シェニョー&ニノ・レネの共同演出による『不確かなロマンス─もう一人のオーランドー』の公演が決定した。2017年に世界初演され、アヴィニョン国際演劇祭、シャイヨー劇場をはじめ、各地の公演で大成功を収めたこの作品、彩の国さいたま芸術劇場、ロームシアター京都、北九州芸術劇場で上演される。

フランソワ・シェニョー ©Laurent Poleo Garnier
フランソワ・シェニョーはダンサー、振付家で、今回が3度目の来日。クラブ・カルチャーやジェンダーレスといった刺激的なテーマを取り上げ、斬新な作品を発表し続ける唯一無二の存在だ。彼が、映像作家であり音楽、演出も手がけるニノ・レネと組んでスペインを舞台に不確かなジェンダーを巡るロマンス(ロマンセ)=物語詩を視覚化したような作品を作り上げた。
この作品、たくさんの注目ポイントがある。まずはオペラ=バレを意識したかのような三場の構成をとっていること。オペラ=バレは18世紀フランスで流行したジャンルで、歌唱だけでなくダンスも等しく重視され、個々の場面はゆるく結び付いている。

©Jose Caldeira
三場それぞれにジェンダーの曖昧な人物が登場する。男装の少女戦士、ロルカの詩で知られる両性具有のサン・ミゲル(聖ミカエル)、そしてアンダルシアのジプシー、ラ・タララ。彼らをつなぐ存在として作品タイトルにあるヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』の主人公、オーランドーが象徴的に浮かび上がる。シェニョーは、登場人物を歌い分け、踊り分ける。数百年の時を超えて存在するキャラクターたちの演じ分けが最大の見どころだろう。歌唱とダンスはそれぞれ別の人物が担当するのではなく、シェニョーがひとりでやってのけるところがすごい。

©Nino Laisne

©Nino Laisne
そして音楽。作品タイトルにある「ロマンス(ロマンセ)」とは中世スペインの詩の形式のこと。それはロマンセという独特の韻律に基づいて作られ、同時に歌のジャンルでもあり物語詩として吟遊詩人によって歌い継がれてきた。ロマンス(ロマンセ)を意識した音楽は、バロック期の楽器によって奏される。バロック音楽の風合いが加味され、サルスエラやスペインの民族音楽(ホタやフラメンコなど)の様相も呈する。さらに演奏には、テオルボやヴィオラ・ダ・ガンバ、パーカッションの他にバンドネオンが加わる。バンドネオンは19世紀に発明された比較的新しい楽器。バンドネオンが入ることで、音楽はいつの時代のものか定まらなくなり、舞台全体に独特の世界観が生まれる。

©Nino Laisne
歴史研究家という肩書きも持つシェニョー、レネと共に新しい作品を生み出すまでに4年という時間をかけて調査・研究を行ったそうだ。その過程でカウンター・テナーの唱法やフラメンコ・ダンスといった必要なテクニックを身に付け、シェニョー自身も進化していった。そうして確かな裏付けを持つさまざまなパーツから、彼とレネは新たな芸術作品『不確かなロマンス─もう一人のオーランドー』を誕生させた。音楽、ダンス、美術、衣裳、ジェンダー、時空間──ありとあらゆる既成概念、様式を超越したシェニョーとレネにしか作れない作品の本当に貴重な日本初演を見逃したくない。
文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)
フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ『不確かなロマンス—もう一人のオーランドー』
日本ツアー公演特設サイト
https://rohmtheatrekyoto.jp/lp/romances_saitama_kyoto_kitakyushu/
日時:2020年12月19日(土)19:00
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
【他都市公演】
日時:2020年12月21日(月)19:00
会場:ロームシアター京都 サウスホール
日時:2020年12月23日(水)19:00
会場:北九州芸術劇場 中劇場
ダンス・歌唱:フランソワ・シェニョー
バンドネオン:ジャン=バティスト・アンリ
ヴィオラ・ダ・ガンバ:フランソワ・ジュベール=カイエ
テオルボ・バロックギター:ダニエル・ザピコ
パーカッション:ペレ・オリヴェ
コンセプト・音楽監督・演出:ニノ・レネ
コンセプト・振付:フランソワ・シェニョー

©Jose Caldeira
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。