2021 / 03 / 15
東京バレエ団が2021年11月に金森穣振付による新作『かぐや姫』を世界初演

左より、金森穣、斎藤友佳理 ©Yuji Namba
東京バレエ団が、11月6、7日に新作を世界初演すると発表した。新作は『かぐや姫』で、振付は金森穣。この作品をメインに、ミックスプロの構成で上演される。金森穣と斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)が登壇する記者会見が3月8日に行われた。
文:結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)
世界に持っていける日本人振付家による作品を
斎藤芸術監督は2015年に芸術監督就任後、古典バレエをきちんと踊れるダンサーを育てることと、創設者である故・佐々木忠次がモーリス・ベジャール、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアンというトップの振付家にオリジナル作品を委嘱していたことから、それをどのように継いでいけば良いのかを考えていたという。東京バレエ団が海外公演でヨーロッパに行った際に、日本人の作品はないのかとよく尋ねられた経験から、日本人の振付家に依頼することにし、一昨年、第一弾として勅使川原三郎の作品『雲のなごり』を発表した。そして今回、金森に新作を委嘱し、11月に世界初演することとなった。金森のアシスタントとして、Noism Company Niigata副芸術監督の井関佐和子も制作に参加する。
金森は日本を代表する演出振付家/舞踊家で、現在りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館の舞踊部門芸術監督を務めており、自ら設立したNoism Company Niigataというダンス・カンパニーの芸術監督でもある。17歳で渡欧し、モーリス・ベジャールが創設したルードラ・ベジャール・ローザンヌで学び、10年間ヨーロッパで活躍したのちに帰国。Noismを立ち上げた。以後、サイトウ・キネン・フェスティバル松本において演出振付を行う(小澤征爾指揮、バルトーク『青ひげ公の城』『中国の不思議な役人』)など、コンテンポラリー・ダンスの枠にとどまらず広く活動している。
斎藤は、金森のことをNoism立ち上げ時から注目していたそうで、Noismが日本で初めて公共の劇場専属のプロのダンス・カンパニーとなった時には、行政の理解を得られたことに「すごい才能」と感心し、勇気をもらったという。2人は新作を制作するにあたり、長い時間をかけてきた。そして『かぐや姫』が題材として選ばれた。奇しくも東京バレエ団は、前身である東京バレエ学校で指導していたアレクセイ・ワルラーモフ振付による『かぐや姫』を1978年に初演、これはロシアでも上演された。斎藤にとってワルラーモフは大事な恩師で「大きなつながりを感じた」そうだ。

斎藤友佳理 ©Yuji Namba
金森と東京バレエ団
一方、金森にとって東京バレエ団は、ベジャール作品を上演するカンパニーという認識で、ベジャールの学校ルードラで学んだ日本人として心理的に近しいものを感じていたそう。まだルードラの学生だった1993年に、ベジャールが東京バレエ団のために創った『M』の初演を東京文化会館で観ている。日本に戻り、Noismでの活動を始めてからは時間が取れないこともあり、17年間ほかのカンパニーに振り付ける機会は一度もなかった。金森は会見で「初めてNoism以外で作品を創ることになったのが東京バレエ団であることに縁を感じ、リハーサルの初日を迎え夢見心地、ようやく辿り着いたという思いです」と語った。
新作は物語バレエ、音楽は全編ドビュッシー作品
新作は日本最古の物語である『かぐや姫』を取り上げ、物語バレエとなる。「女性のポワント(トウシューズ)の群舞、男性のダイナミックな群舞など東京バレエ団ならではのものを活かせる物語」で、台本は金森があらゆる『竹取物語』を調べて書き上げたオリジナル。全3幕構成で、もう完成しているという。ただし今回は第1幕のみの上演となる。
金森は「振付家として作品の変遷を遂げてきて“和”的なものに惹かれており、『かぐや姫』も無関係ではないと思います。私にとってこの作品は初チャレンジとなりますが、バレエ団とバレエに対する最大限のリスペクトをもって創っていて、今までの作品の中で一番バレエ的かもしれません。クラシック・バレエの系譜として歴史に残る作品にしたいです」と話す。
また、斎藤が「この作品をヨーロッパに持っていったときに理解してもらえ、評価され、愛される作品になってほしい」と語ったことを受け、「普遍性が大事。ビジュアルや世界観である程度“和”の要素はあると思うが、語られること、届けられるメッセージは普遍的にしたい。それは女性と男性、親と子、嫉妬、死、苦悩、さらに現代社会の問題──環境問題など。人の心に訴えかけるものになると思う」と語った。
音楽はビジュアル的なイメージを喚起させ、聴き込むほどに『かぐや姫』のあらゆるシーンにはまっていったということで、ドビュッシー作品を使用する。『亜麻色の髪の乙女』といったピアノ曲から、『海』のような管弦楽作品、さらにピアノ曲を管弦楽に編曲した作品まで使用し、全編ドビュッシーの音楽に乗せて物語が綴られる。
金森がイメージしているかぐや姫像は「やんちゃ、繊細、ものすごく美しい、儚くて、すごく芯が強い。矛盾するあらゆる要素を持っている女性」で、未知の世界から来た彼女の成長を通して周りの男性たちが翻弄されていくさまを描く。

金森穣 ©Yuji Namba
新制作ということ
ゼロから作品を作るということがどれほど大変なことなのか──。今回の会見で2人が語るオーディションの様子、スケジュール調整の困難さなどからその一端を感じ取れた。実は12月半ばにキャスティングをしたかったものの、叶わず3月になってしまったとのこと。会見のあった日に初めて金森はダンサーと顔合わせをし、オーディションを行ったが、古典バレエ作品のオーディションとは異なるスリリングなものだったようだ。
「物語ものなので、想定しているキャラクターに合うかどうかが大事。キャラクターを備えつつ技術的にも優れている子をどう選ぶか、です。今回は(キャラクターに合う子が)みんないました。私は特にオーディションの準備は何もせず、その場で音楽から受けたインスピレーションで振りを構成しました。(振りが)その場で生まれる瞬間に立ち会い、覚えて、動く。覚えの早い子、遅い子、なんとか食らいついている子、すでに何か醸し出している子、そういうのが見たいんです」(金森)。
ダンサーは、階級は関係なく、フラットな状態で臨んだという。
斎藤は「形になっていないゼロからの作品作りは、信頼関係だけしか頼れるものがない。上演時期は以前から決まっていたものの、今この時期に日本人振付家の作品を日本人スタッフのみで一丸となって創り上げることに大きな意味があるのではと思っている」と語った。新制作という果敢な取り組みのお披露目を、11月まで楽しみに待ちたい。

©Yuji Namba
東京バレエ団×金森穣 新作「かぐや姫」ほか
日時:2021年11月6日(土)、7日(日)
会場:東京文化会館
振付:金森穣
出演:東京バレエ団
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。