2018 / 04 / 12
「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」記者会見~その目的と意義
ポーランドが独立したのは1918年、第一次世界大戦の終結によってである。それから今年で100周年を迎えた。その節目の年に、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールがワルシャワで開催される。コンクールに先立ち、3月13日にトッパンホールで記者会見とプレゼンテーションが開かれた。
記者会見では、駐日ポーランド共和国大使ヤツェク・イズィドルチクのあいさつに続き、国立ショパン研究所から副所長マチェイ・ヤニツキと2つのコンクールのチーフ・ディレクターであるヨアンナ・ボクシチャニン、そしてポーランド音楽出版社ディレクター・編集長のダニエル・チヒが2つのショパン国際ピアノコンクールについて語った。
国立ショパン研究所は、2010年からショパン国際コンクールを主催しており、この新しいコンクールの主催者でもある。2001年の研究所設立当初から、ショパンの曲をピリオド楽器で演奏することに重点を置いているという。ボクシチャニンは「私たちの目的は、ピリオド楽器の魅力を知らせるのではなく、ピリオド楽器での演奏を通して、ショパンのリアルな魅力を知らせることにあります」と語った。
コンクールに参加できるのは18歳から35歳までのピアニスト。DVD審査を通過した30名が、9月に開催される第1次予選へ駒を進めることができる。第2次予選の後、6名が出場する本選ではショパンのオーケストラを伴うピアノ作品を演奏する。共演するのは18世紀オーケストラだ。審査を通して、演奏はすべてピリオド楽器で行なわれ、「楽器の選択もまた評価の対象になる」とのこと。また、コンクールに先立ち、8月にはピリオド楽器によるショパン演奏によるマスタークラスも開催される。
つづいてショパン国際コンクールの優勝者、ダン・タイ・ソンが登場し、「ピリオド楽器がピアニストに与えるインスピレーション」について解説した。ダンは初めてピリオド楽器に指を触れた時、パニックになったそうで、「音の響きは短く、個々の言葉を明確に発音する詩人のようです」と述べる。「モダン楽器では全身を使って演奏しますが、ピリオド楽器では指先に集中しなければなりません。自ら(楽器を)コントロールできたと実感した時、その音は耳に届いているのです」と、研ぎ澄まされた指先の意識と聴覚の必要性を説く。また、減衰の速さやチューニング、ペダリング、バイブレーション(振動)などの違いをピリオド楽器とモダン楽器を演奏しながら説明した。ピリオド楽器を「語るピアノ」、そしてモダン楽器を「歌うピアノ」と例えたダンの言葉は興味深い。
ショパンはどのようなピアノの音を耳にして作曲し、演奏していたのかを当時の楽器の演奏を通して知ることは、モダン楽器でショパンを演奏する際に非常に意味がある。当時のピアノを弾くことでタッチはもとより、ペダルの使い方からフォルテの出し方、弱音のさまざまなグラデーションなど多くを学ぶことができよう。それをモダン楽器で演奏する場合、たんに過去のピアノの模倣であってはならない。ピアノは常に進化し続けた楽器である。ショパンの死後、19世紀後半にはそれまでの木製のフレームから鉄フレームを組み込んだピアノが登場。彼の時代とは異なるピアノで演奏が受け継がれ、現在へと至っている。モダン楽器による演奏を通して、また別の演奏や表現の可能性も生み出されることを忘れてはならない。
歴史的演奏法が再認識され、多くの名だたる演奏家がピリオド楽器の演奏を手掛けるようになった。その背景にあるのは、作品の真の表現に対する強い関心である。このコンクールの目的も、真のショパン演奏の新たなアプローチである。それに対して、この企画の真意はピリオド楽器だけが真の表現であるというのではなく、この楽器の演奏によってショパンにより深く迫り、またショパンを考えたいという点にある。ピリオド楽器によるショパン演奏は、ある意味で「真実のショパン」を私たちに示してくれるであろう。
道下京子(音楽学)
第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール公開記者会見&プレゼンテーション
<登壇者>
マチェイ・ヤニツキ(国立ショパン研究所副所長)
ヨアンナ・ボクシチャニン(国立ショパン研究所 2つのコンクールのチーフ・プロデューサー)
ダニエル・チヒ博士(ポーランド音楽出版社PWMディレクター・編集長)
ダン・タイ・ソン(ピアニスト)
小倉貴久子(フォルテピアノ奏者)
ヤツェク・イズィドルチク(駐日ポーランド共和国大使)
<動画>
【Part1】国立ショパン研究所とショパン・コンクール
【Part2】ショパンとピリオド楽器
【Part3】第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールについて
【Part4】ダン・タイ・ソンが語る「ピリオド楽器がピアニストに与えるインスピレーションについて」
【Part5】マスコミ各社からの質疑応答
【Part6】小倉貴久子の「フォルテピアノの演奏に関するアドバイス」
【Part7】一般客からの質疑応答
<第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール概要>
【開催時期】
2018年9月2日~9月14日
【開催地】
国立フィルハーモニーホール(ワルシャワ、ポーランド)
【応募資格】
18歳~35歳までのピアニスト
【審査内容】
第1次・第2次予選:ショパンの独奏曲
最終審査:ショパンのピアノとオーケストラのための作品
【審査員】
クレール・シュヴァリエ、ニコライ・デミジェンコ、ネルソン・ゲルナー、トビアス・コッホ、アレクセイ・リュビモフ、ヤヌシュ・オレイニチャク、エヴァ・ポブヴォツカ、ダン・タイ・ソン、アンドレアス・シュタイア、ヴォイチェフ・シフィタワ
【応募の流れ】
DVD書類審査(2018年5月1日締切)
※国立ショパン研究所指定のピリオド楽器を使用した演奏でのDVD審査
↓
コンクール進出者発表(2018年6月30日まで)
↓
コンクール予選・本選(2018年9月2日~9月14日)
【賞金】
第1位 15,000€
第2位 10,000€
第3位 5,000€
【主催】
国立フリデリク・ショパン研究所 www.chopin.nifc.pl
【実施要項とお問い合わせ】
実施要項 www.iccpi.eu
お問い合わせ iccpi@nifc.pl