2018 / 07 / 09
セバスティアン・ヴァイグレ 読売日本交響楽団次期常任指揮者就任記者会見
2019年4月からセバスティアン・ヴァイグレが第10代常任指揮者に就任する読売日本交響楽団。5月下旬に都内で、ヴァイグレ本人が出席して就任発表会見が開かれました。
ヴァイグレは1961年ベルリン生まれ。ベルリン国立歌劇場の首席ホルン奏者を務めながら、1990年代から、同劇場の音楽総監督ダニエル・バレンボイムの勧めで、最初は彼のアシスタントから、徐々に指揮者としての基盤を築いて来た、やや異色のキャリアの持ち主です。
会見は「オハヨーゴザイマス!」と日本語の挨拶から始まりました。まだホルン奏者だった80年代から来日を重ねており、今回が21度目の来日という日本通。来日の一番の楽しみは、「世界一の料理」と語る和食だそうです。でも今回は思うように美味しい食事を味わえなかったかもしれません。というのは実はこの会見、ヴァイグレの緊急入院で一度延期となっていたのです。しかし病気は虫垂炎(盲腸炎)だったそうで、大事に至らずひと安心。「楽員のみなさんもくれぐれも健康に気をつけて、一緒に良い音楽を作ってほしい」と笑っていました。
「これまでオペラを多く指揮してきました。フランクフルト歌劇場の音楽総監督を10年。もう少しコンサートも指揮したいと思っていたところ。だからたいへん名誉なオファーで、仕事ではあるけれども、楽しみであり喜びです」と語っているように、彼が音楽総監督を務めるフランクフルト歌劇場がドイツのオペラ専門誌『オーパンヴェルト』の「年間最優秀歌劇場」に選ばれるなど、オペラ指揮者としての手腕が高く評価されている中堅指揮者。レパートリーはワーグナーやR・シュトラウスなどが中心で、ドイツ・ロマン派音楽を得意としています。
「目指しているのは、オーケストラから作品に合った響きを引き出すこと」というヴァイグレ。読売日本交響楽団には2016年8月に初登場して4公演を指揮。昨年は東京二期会《ばらの騎士》で一緒にピットにも入った楽団の印象を、「メンバーがいつも100パーセントの力を出して向かってくる。こちらの言うことも、ひと言も洩らさずにスポンジのように吸収してくれるオーケストラ」「サウンドのポテンシャルも高い」と語りました。
気になる就任初シーズンのプログラムについては、この日は一部曲目の発表だけでしたが、やはりベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブルックナー、ブラームス、マーラー、R・シュトラウスなどのドイツ音楽が並びます。なかには「彼を紹介することが自分の使命」という夭折の作曲家ハンス・ロットの名前も。今後10月上旬の詳細発表までに、協奏曲のソリストや曲目を決定してゆくこともあり、また2シーズン目以降も視野に入れつつ、「もう少し時間がほしい。ドイツ音楽以外も含めて、さらに色とりどりになる可能性もある」と発言していました。いずれにしても、現・常任指揮者のシルヴァン・カンブルランが、昨年のメシアンの大作オペラ《アッシジの聖フランチェスコ》全曲日本初演に象徴されるような、フランス音楽や近現代音楽で成果をあげていた最近の読売日本交響楽団だけに、ドイツ人指揮者ヴァイグレを迎えて、これまでとは少し異なる方向に舵をとることが予想されます。
一方でヴァイグレは、新作の委嘱や、将来的にはフランクフルト歌劇場との提携によるオペラ・プロダクションの共用や出演歌手の派遣などにも含みを持たせています。
楽員たちに聞くと、新常任指揮者の評判は上々の様子。この日記者たちの質問に丁寧に答える姿勢に垣間見える誠実な人柄からも、その信頼の理由の一端がうかがえます。最後は「ドーモアリガトー!」とまた日本語。
最初の任期は2022年までの3シーズン。新体制の読売日本交響楽団が、はたしてどんなプログラムを、どんなサウンドで聴かせてくれるのか。オーケストラの新たな旅立ちを見守りましょう。
宮本明(音楽ライター)
記者会見の模様はこちらの動画よりご覧ください。
【Part1】「セバスティアン・ヴァイグレご挨拶」
【Part2】「質疑応答」