2019 / 01 / 31
舞台が鮮やかに甦るミュージカル・ナンバーの数々~ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2019
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『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート 2019』より「シーズンズ・オブ・ラブ」(『レント』より)©下坂敦俊
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アリス・リプリー&トニー・ヤズベック「シャル・ウィ・ダンス」(『王様と私』より)©下坂敦俊
東急シアターオーブの「ニューイヤー・ミュージカル・コンサート」も2019年で4回目。新春の恒例行事としてすっかり定着したと言っていいだろう。
いわばウィーン・フィル新春コンサートのミュージカル版だが、今回、歌手陣の豪華さが印象的だった。4回連続出演のロベール・マリアン、初来日した、ブロードウェイの大スターであるアリス・リプリーとトニー・ヤズベック。このベテラン3人に加えて、若手のアダム・カプラン(二度目)とダニエル・ウィリアムソン。いずれ劣らぬ芸達者たちだ。
個人的には、リプリーがトニー賞の最優秀主演女優賞を受賞した『ネクスト・トゥ・ノーマル』がスタートしたときにすぐにブロードウェイで見たので、同ミュージカルからの「アイ・ミス・ザ・マウンテンズ」その他で、リプリーの歌がたっぷり聴けたことは、私にとってお年玉だった。

「雨に唄えば」でタップを披露したトニー・ヤズベック©下坂敦俊
ステージはきわめてシンプル。楽団がいて、ちょっとした階段があるだけ。曲ごとに何かが変わったりもしない。歌で直球勝負という感じ。とはいえ、「雨に唄えば」ではトニー・ヤズベックが見事なタップを披露し、さすがブロードウェイのスターだと感心した。
一般的なポップス歌手のコンサートと、ミュージカル・コンサート、つまりミュージカル・ナンバーによるコンサートと、何が違うかといえば、前者の場合は何よりもその歌手を聞きに行く、というより見に行くことに重きがある。かつ、持ち歌を歌うわけだから、どの歌もその歌手とは切り離せない。その意味で、コンサートはその歌手の世界として完結している。それに対してミュージカル・コンサートの場合は、歌手よりも歌のほうが重要だ。通常のミュージカルでもダブル・キャスト、トリプル・キャストが普通だから、別の人が歌うことには抵抗がない。

初来日となったダニエル・ウィリアムソン©下坂敦俊
しかも、ミュージカル・ナンバーは、ミュージカルそのものから引き離されても、それを聞くと舞台が彷彿としてくる。序曲に続いて全員がいきなり「Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes」と歌い始めた瞬間、ウェスト・エンドで見た『レント』(1998)の、あの工事現場みたいな舞台が鮮やかに思い出された。「夢やぶれて」(『レ・ミゼラブル』)を聞くと、ブロードウェイ、ウェスト・エンド、東京で見た舞台だけでなく、映画のアン・ハサウェイの顔まで彷彿とさせる。
「魅惑の宵」「シャル・ウィ・ダンス」「雨に唄えば」「アイ・ガット・リズム」「夢やぶれて」といった超有名ナンバーはともかく、ジュークボックス・ミュージカルは別として、ミュージカル・ナンバーはそのミュージカルとは切っても切れない関係にあるから、歌だけ聴いただけでも、ミュージカル全体がわっと甦ってくるのだ。
これは歌われたすべてのナンバーについて言える。「シーズンズ・オブ・ラブ」からラストナンバー「愛した日々に悔いはない」(『コーラスライン』)、そしてアンコールまで含めると全27曲が歌われたが、終わった後に満足感だけでなく、心地良い疲労感を覚えたのはそのせいだろう。ミュージカルを一度に10作品くらい見てしまったかのような。
鈴木晶(舞踊評論家)
![]() アリス・リプリー©下坂敦俊 |
![]() ロベール・マリアン©下坂敦俊 |
![]() アダム・カプラン©下坂敦俊 |
鈴木 晶 Sho Suzuki
法政大学名誉教授、早稲田大学大学院客員教授。舞踊史家。著書に『オペラ座の迷宮』『バレエ誕生』他多数。訳書にスヘイエン『ディアギレフ 芸術に捧げた生涯』、ゲイ『フロイト』、フロム『愛するということ』他多数。現在、「ミュージカル映画の黄金時代」を執筆中。「ダンスマガジン」他に舞踊評を寄稿。