2019 / 02 / 06
シカゴ交響楽団のメンバーが、来日公演の合間を縫って目黒区の福祉施設と小学校を演奏訪問

photo:Todd Rosenberg
公演のために来日していたリッカルド・ムーティ率いるシカゴ交響楽団のメンバーが、公演とリハーサルの合間を縫って目黒区の福祉施設と小学校を演奏訪問した。今回の演奏訪問は、シカゴ響の「音楽に触れる喜びをあらゆる人に伝えたい」という趣旨のもと、社会貢献活動の一環として行われたもの。メンバーは、心身障害者センターあいアイ館(1月29日)と目黒区立東山小学校(1月31日)の2箇所を訪れた。クラシカ・ジャパンは目黒区立東山小学校の演奏訪問にお邪魔することができたので、その模様をお伝えしよう。

photo:Todd Rosenberg
この日メンバーが訪れた東山小学校は、都内でも有数の音楽活動が盛んな学校。オーケストラの課外クラブは全国トップレベルの優れた実績を持ち、過去にはピアニストのマルタ・アルゲリッチや指揮者のチョン・ミョンフン、ケント・ナガノが訪れたこともある。さらに合唱団は、創部2年目で朝日新聞社主催の東京都合唱コンクールで金賞を受賞するなど、児童たちの音楽への意欲はかなり高い。シカゴ響が訪問校を決める際には目黒区内の学校から応募が殺到したそうだが、音楽に親しむ子供たちが多いということで選ばれたのも納得だ。
児童たちは、メンバーの入場前から本番で披露する「歓喜の歌」などを練習し、パワフルな演奏で早くもシカゴ響のスタッフらを驚かせる。互いの演奏に期待が高まる中、児童による「アメリカ国家」の演奏でメンバーが入場。この日学校を訪れたのは、楽団の社会貢献活動に長く携わるミヘイラ・イオネスク(ヴァイオリン)をはじめ、ラッセル・フーシャウ(ヴァイオリン)、サンヒ―・チョイ(ヴィオラ)、オットー・カリロ(ホルン)、マイケル・ホヴナニアン(コントラバス)、ヴァディム・カーピノス(パーカッション)の6名だ。それぞれが自己紹介を行ってからシカゴ響の演奏という流れだったのだが、コントラバスのマイケルが日本語を勉強中ということで、日本語で挨拶を行うと一気に場が和む。
この日演奏されたのは、ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」やスコット・ジョプリンの「イージーウィナーズ」など、どれもユーモアに満ちた楽曲ばかり。「タイプライター」のブレイク部分でパーカッションがベルを鳴らすと会場からはクスクスと笑い声が漏れる。誰もが知っているチャイコフスキーの『くるみ割り人形(ロシアの踊り)』やモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」では、みな思い思いに演奏に聴き入り、曲に合わせて身体を揺らす姿が印象的だった。

photo:Todd Rosenberg
シカゴ響がアンコールを含めて全6曲を披露すると、次は児童の番だ。まず最初に4年生~6年生と特設管弦楽クラブの面々がベートーヴェンの「歓喜の歌」を演奏。するとシカゴ響のメンバーたちが、即興で自分のパートを奏で始める。次の全校児童合唱「フィンランディア」では、メンバーもしっかりと演奏に参加し、見事なコラボレーションを見せてくれた。
終演時の団員の挨拶では「これほど素晴らしい学校はない。まだ帰りたくない」といった声や「ぜひこのまま音楽の勉強を頑張って欲しい。音楽を好きでいてくれてありがとう」という声が聞かれた。普段なかなか聴くことができない世界レベルの演奏に、児童たちは感動とやる気を与えられたことだろう。
クラシカ・ジャパン編成部 井手朋子