2019 / 02 / 19
東京バレエ団 『海賊』公開リハーサル、記者懇親会レポート

©Shoko Matsuhashi

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昨年生誕200年を迎えたマリウス・プティパ。メモリアル・イヤーの締めくくりとして、東京バレエ団は3月15日から『海賊』を上演します。今回上演するのはアンナ=マリー・ホームズ版です。ホームズ氏はカナダ出身。ニューヨークでナタリヤ・ドゥジンスカヤ、アレクサンドル・プーシキンといった伝説のダンサーに師事し、キーロフ・バレエ団に招かれて踊った初の北米のダンサーで、芸術監督の斎藤友佳理とはロシア語で会話しているとのこと。彼女の版は、テンポよく、わかりやすく、エンタテイメント性があり、アメリカン・バレエ・シアター、ミラノ・スカラ座バレエ団、イングリッシュ・ナショナル・バレエなど世界有数のバレエ・カンパニーのレパートリーになっています。東京バレエ団として初演となる今回の公演ですが、ホームズ氏を迎えてのリハーサルを拝見しました。

©Shoko Matsuhashi
『海賊』は男性ダンサーの魅力をたっぷり楽しめるスペクタクルな冒険活劇。登場人物が多く、メドーラ、コンラッド、アリ役だけでなく、たくさんのダンサーのソロが楽しめます。
冒頭、男性ダンサーたちの力強い表情に驚かされました。とにかくテンションが高く熱い! 特に群舞の迫力がすごいのです。そんな中、ソロを踊るダンサーたちも本番さながら。第1幕のメドーラとコンラッド、アリ、ギュルナーラはそれぞれ上野水香、柄本弾、宮川新大、川島麻実子が演じました。ホームズ氏はソリストたちに「up! up!」、「push! push!」と絶妙なタイミングで鼓舞します。みるみるうちにキレが良くなり表情も生き生きとしていくダンサーたち。見ているこちらもワクワク感が増していきます。ランケデムの池本祥真が実にすばらしく、目を奪われます。皆が真剣に踊り続けるなか、シリアスでなくコミカルなキャラクター設定になっているパシャを演じる木村和夫は、実に楽しそうに役どころをエンジョイしている風でした。

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そして第2幕、今回の公演は2キャスト組まれているのですが、なんともうひと組のメドーラの沖香菜子、コンラッドの秋元康臣、第1幕ではランケデムだった池本祥真がアリとして登場。2キャスト両方のパフォーマンスを経験できる貴重な機会となりました。上野&柄本の豪華なパワフルさ、そして沖&秋元の細部まで意識した強さと美しさといった、趣の異なるペアの魅力を楽しめました。そしてパ・ド・トロワ、ここでも魅了したのが池本祥真。気合の入ったパフォーマンスからは重要な役を踊れることの喜びが伝わりました。

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懇親会には、ホームズ氏と斎藤監督、上野水香、柄本弾、川島麻実子、宮川新大の6名が出席。『海賊』とはいえ、なぜいつにも増してダンサーの気合いがすごいのか、ここでその秘密が明らかになりました。今回、団員がそれぞれ踊りたいと望む役を踊れるよう、主役以外のソリスト役はすべて、オーディションをしてキャスティングしたのだそうです。主役4名に関しては、事前にホームズ氏と斎藤監督との構想もありましたが、ビデオでみてもらうなどして、最終決定はホームズ氏に委ねたとのこと。落ち着くところに落ち着いたと思う、と斎藤監督。宮川と池本はランケデムの両方を踊り、オダリスクには研究生の吉江絵璃奈が抜擢されるなど、さまざまなドラマがあったようです。宮川が、「留学中、『海賊』の映像を見て夜のスタジオに仲間と行き、マネをして踊っていた。男性ダンサーが素直にすごいと思う衝撃的な作品」とコメントしたように、特に今回は、男性ダンサーが血湧き肉躍る機会となったのだろうとリハーサルからもひしひしと感じられました。
ダンサーの個性を生かすために、全く面識のなかったホームズ氏を招き、新たな古典のレパートリーを増やそうとする斎藤監督の頼もしい攻めの姿勢は、団員たちにしっかり伝わっていると思いました。本番の舞台も大いに盛り上がるに違いありません。
結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター)

左より、宮川新大、上野水香、アンナ=マリー・ホームズ、斎藤友佳理、川島麻美子、柄本弾 ©Shoko Matsuhashi
『海賊』プロローグ付全3幕
日程:3月15日(金)19:00/16日(土)14:00/17日(日)14:00
会場:東京文化会館
復元振付:アンナ=マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)
音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、ペーター・フォン・オルデンブルク
編曲:ケヴィン・ガリエ
装置・衣裳:ルイザ・スピナテッリ
指揮:ケン・シェ
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
予定される主な出演者
メドーラ:上野水香(15日、17日)、沖香菜子(16日)
コンラッド:柄本弾(15日、17日)、秋元康臣(16日)
アリ:宮川新大(15日、17日)、池本祥真(16日)
ギュルナーラ:川島麻実子(15日、17日)、伝田陽美(16日)
お問い合わせ:NBSチケットセンター 03-3791-8888(平日10:00~18:00/土曜10:00~13:00)
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/lecorsaire/
他都市公演
日程:3月21日(木・祝)15:00
会場:オーバード・ホール
お問い合わせ:富山市民文化事業団 総務企画課 076-445-5610(平日8:30~17:15)
日程:3月23日(金)19:00
会場:兵庫県立芸術文化センター
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(月曜を除く10:00~17:00)
結城美穂子 Mihoko Yuki
出版社勤務を経てフリーランスのエディター/ライターとして活動中。クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。バレエ・ダンス情報誌『ダンツァ』元編集長。単行本・ウェブマガジン・公演パンフレットの編集と執筆、またオペラ、バレエの初心者向け鑑賞ガイドのレクチャー講師を務める。