2019 / 04 / 16
15年目の熱狂へ!~「フェスタ・サマーミューザKAWASAKI 2019」記者発表会レポート(3月27日ミューザ川崎 市民交流室)

記者発表会に登壇した6名。左より、秋山和慶(指揮、ミューザ川崎シンフォニーホール チーフアドバイザー)、小川典子(ピアニスト、同ホール・アドバイザー)、福田紀彦(川崎市長)、松居直美(オルガニスト、同ホール・アドバイザー)、名倉真紀(日本オーケストラ連盟)、大野順二(東京交響楽団 専務理事・楽団長) ©青柳聡
2005年にスタートした恒例の「フェスタ・サマーミューザKAWASAKI」(川崎市およびミューザ川崎シンフォニーホール主催)。15回目の節目を迎える今年は、「15年目の熱狂へ!」をキャッチフレーズに、7月27日から8月12日まで全20公演が行なわれる。ミューザ川崎自体も開館15周年。改修工事のため現在休館中のホールも7月に再開し、万全の準備で「サマーミューザ」を迎えることとなる。
首都圏のオーケストラが一堂に会するフェスティバルとして始まった「サマーミューザ」に、今年は首都圏外から初めて、仙台フィルハーモニー管弦楽団が出演する。また、一昨年に続いて札幌からPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)オーケストラが特別参加するなど規模を拡大。「首都圏オーケストラの祭典」から「日本のオーケストラの祭典」へとグレードアップしつつある。
日程・曲目は下記のとおり。音楽祭全体に特定の作曲家や時代にフォーカスしたテーマを設けないのは初年度からつづくコンセプト。出演オーケストラそれぞれの、また指揮者それぞれの特色を最大限に発揮できるように、という狙いだ。それでも、公演ごとにゆるやかに色分けはうかがえる。平日夜は各オーケストラの定期会員も満足できる、がっちりとした正統派クラシックの重量級プログラム。いっぽう平日昼の公演は、家族づれやクラシック音楽入門者を意識した、どちらかといえばライトなプログラムが組まれている。また、休日の公演にさりげなくロシア音楽が多めなのは、今年の隠し味といったところだ。
いくつか注目公演を挙げておこう。
初日と最終日を、ミューザ川崎を拠点とするホスト役・東京交響楽団が担当するのは例年どおり。その「オープニングコンサート」はユニークだ。音楽監督の英国人指揮者ジョナサン・ノットが、英国の生んだ名作特撮人形ドラマ『サンダーバード』の音楽を振る。そこに現代音楽のエキスパート、タマラ・ステファノヴィッチ独奏によるリゲティのピアノ協奏曲とベートーヴェンの交響曲第1番という組み合わせ。こんなプログラム、見たことがない!(7/27)
音楽監督・上岡敏之指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾く小川典子は、ミューザ川崎のホール・アドバイザー。彼女は当日午前中に、子供たちに向けた恒例の大好評コンサート「イッツ・ア・ピアノ・ワールド」も開催。大忙しの一日だ。(7/28)
スーパー・ギタリスト渡辺香津美が、常任指揮者・川瀬賢太郎指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団と『アランフェス協奏曲』を弾く。渡辺は今回、エレキ・ギターでの演奏を希望しているという。エレキの『アランフェス』といえばジム・ホールのジャズの名盤が有名だけれど、シンフォニー・オーケストラとの共演がどんなアプローチになるのか興味津々。ぜひ実現して聴かせてほしい!(7/30)
3年連続の登場となるカリスマ人気ピアニスト反田恭平は、NHK交響楽団と『ラプソディ・イン・ブルー』を披露。指揮はアメリカを拠点に活躍する若手・原田慶太楼。開演1時間前にはステージでN響メンバーによる室内楽演奏もある。(8/3)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団は、4月に首席客演指揮者に就任した藤岡幸夫とともに登場。『チェロよ歌え!』など超ジャンルのオリジナル作品でも有名なチェリスト、ジョヴァンニ・ソッリマがドヴォルザークのチェロ協奏曲を弾く。楽団の永久芸術顧問で今年が没後30年に当たる芥川也寸志の交響曲第1番も。(8/6)
尾高忠明指揮・東京交響楽団による「フィナーレコンサート」には、昨年の第10回浜松国際ピアノコンクール優勝のトルコのピアニスト、ジャン・チャクムルが登場。同コンクールの審査委員長を務めた小川典子は、「非常に音楽的で知識も深い。指がよく動いて音が大きいという典型的なコンクール優等生ではないタイプのピアニストが1位になったことを誇りに思っている。シューマンという地味な、でも彼にぴったりの協奏曲。大いに期待していただきたいし、それに応えられるピアニストだと思う」と信頼を寄せる。(8/12)
オーケストラ公演以外では、恒例となった「サマーナイト・ジャズ」に、昨年のオープニングコンサート『ラプソディ・イン・ブルー』の圧巻のアドリブで度肝を抜いた大西順子が登場する。昨年11月に急逝したホール・アドバイザーのジャズ・ピアニスト佐山雅弘氏の提案によるプログラムとのこと。毎年の発表会見の席にも出席されていた氏の穏やかな笑顔が思い出される。あらためてご冥福を祈りたい。(8/8)
その佐山氏と「サマーミューザ」で何度も共演して、クラシックとジャズを自由に行き来する痛快なセッションを聴かせていた盟友のオルガニスト、ルドルフ・ルッツが、今年はオール・バッハ・プログラムで登場。佐山氏追悼の一曲も予定されている。なお、ホール改修に伴い、オルガンも調整してリフレッシュ。ホール・アドバイザーのオルガニスト松居直美によれば、その効果はてきめんで、全音域で調和のとれた音像の、美しい響きが聴けるという。(8/10)
コンサートによって、公開リハーサルやプレトーク、開演前のロビー・コンサートなどがあるので、ぜひ併せて楽しみたいもの。そして期間中は近隣の店舗と提携したさまざまな来場者サービスも用意されており、KAWASAKIが街をあげて来客をもてなす態勢が、いっそう充実してきた。
また会見では、10月5日、6日両日の開館15周年記念公演シェーンベルク『グレの歌』についても言及された。出演はジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団。ソリストにトルステン・ケール(テノール)、ドロテア・レシュマン(ソプラノ)、藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)ほか、大御所バリトンのトーマス・アレンが語り手に起用される強力布陣。合唱は東響コーラス。総勢400人にもおよぶ巨大編成ゆえに上演機会の少ない作品のはずが、今年はなぜか『グレの歌』の当たり年。3月の読売日本交響楽団、4月の東京・春・音楽祭につづく、「大トリ」の公演も聴き逃せない。
宮本明(音楽ライター)
フェスタ・サマーミューザ2019 公演概要
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
7月27日(土)13:55 ミューザ川崎シンフォニーホール 歓喜の広場
オープニング・ファンファーレ(演奏:東京交響楽団メンバー、指揮:ジョナサン・ノット)
三澤 慶:「音楽のまちのファンファーレ」~フェスタ サマーミューザ KAWASAKIによせて~
7月27日(土)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
東京交響楽団オープニングコンサート
ジョナサン・ノット(指揮)タマラ・ステファノヴィッチ(ピアノ)
バリー・グレイ:サンダーバード から
リゲティ:ピアノ協奏曲
ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調Op.21
7月28日(日)11:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
こどもフェスタ2019「イッツ・ア・ピアノ・ワールド」
小川典子(ピアノ)
ドビュッシー:『ピアノのために』から~トッカータ
菅野由弘:『水の粒子』ピアノと明珍火箸のための から
エルガー:行進曲『威風堂々』第1番
ほか
7月28日(日)18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
新日本フィルハーモニー交響楽団
上岡敏之(指揮)小川典子(ピアノ)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリエット』組曲から
モンタギュー家とキャピュレット家(第2組曲)
少女ジュリエット(第2組曲)
ジュリエット(第3組曲)
ロメオとジュリエット(第1組曲)
僧ローレンス(第2組曲)
タイボルトの死(第1組曲)
別れの前のロメオとジュリエット(第2組曲)
ジュリエットの墓の前のロメオ(第2組曲)
ジュリエットの死(第3組曲)
7月29日(月)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
東京都交響楽団
アラン・ギルバート(指揮)
ヴォルフ:イタリア風セレナーデ(管弦楽版)
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲
レスピーギ:交響詩『ローマの噴水』
レスピーギ:交響詩『ローマの松』
7月30日(火)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
川瀬賢太郎(指揮)渡辺香津美(ギター)
ボッケリーニ(ベリオ編曲):マドリードの夜警隊の行進
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
シャブリエ:狂詩曲『スペイン』
ファリャ:バレエ音楽『三角帽子』第1組曲、第2組曲
7月31日(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
読売日本交響楽団
井上道義(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版第2稿1890年版)
8月1日(木)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
洗足学園音楽大学
秋山和慶(指揮)洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団、牧阿佐美バレヱ団、谷桃子バレエ団、東京シティ・バレエ団、洗足学園音楽大学バレエコース学生
プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリエット』 組曲から
プロコフィエフ:バレエ音楽『シンデレラ』組曲から
ハチャトゥリアン:『仮面舞踏会』組曲から
ハチャトゥリアン:バレエ音楽『ガイーヌ』組曲から
8月2日(金)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
PMFオーケストラ(特別参加)
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)第16回ピョートル・チャイコフスキー国際コンクール・木管楽器部門優勝者(ソリスト)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調Op.43
8月3日(土)15:00 昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ
出張サマーミューザ@しんゆり!
東京交響楽団
秋山和慶(指揮)戸田弥生(ヴァイオリン)
ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68
8月3日(土)16:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
NHK交響楽団
原田慶太楼(指揮)反田恭平(ピアノ)
ヴェルディ:歌劇『運命の力』序曲
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
ボロディン:歌劇『イーゴリ公』から~だったん人の踊り
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ブラームス:ハンガリー舞曲集~第1番、第5番、第6番
エルガー:行進曲『威風堂々』第1番Op.39
8月4日(日)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
仙台フィルハーモニー管弦楽団
高関健(指揮)郷古廉(ヴァイオリン)
ストラヴィンスキー:サーカス・ポルカ
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調Op.36
8月6日(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
藤岡幸夫(指揮)ジョヴァンニ・ソッリマ(チェロ)
シベリウス:『レンミンカイネン組曲』から~レンミンカイネンの帰郷
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調Op.104(B.191)
芥川也寸志:交響曲第1番
8月7日(水)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
日本フィルハーモニー交響楽団
小林研一郎(指揮)藤田真央(ピアノ)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調Op.23
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調Op.92
8月8日(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
サマーナイト・ジャズ 大西順子トリオ
大西順子(ピアノ)井上陽介(ベース)高橋信之介(ドラムス)ほかゲストプレーヤー(後日発表)
8月9日(金)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
昭和音楽大学
齊藤一郎(指揮)古川展生(チェロ)
ヴォーン=ウィリアムズ:グリーンスリーヴズによる幻想曲
エルガー:チェロ協奏曲ホ短調Op.85
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95『新世界より』
8月10日(土)13:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
こどもフェスタ2019
かわさきジュニアオーケストラ発表会
江上孝則(指揮)山田美也子(司会)
ロッシーニ:歌劇『セビリャの理髪師』序曲
ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67『運命』第1楽章
アラン・メンケン:映画『美女と野獣』から
ほか
8月10日(土)15:00 昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ
出張サマーミューザ@しんゆり!
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
指揮:垣内悠希
ヴァイオリン:成田達輝
ピアノ:菊池洋子
ベートーヴェン:歌劇『フィデリオ』序曲 作品72
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73『皇帝』
8月10日(土)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
真夏のバッハ Ⅳ ルドルフ・ルッツ パイプオルガン・リサイタル
J.S.バッハ:前奏曲とフーガ イ長調BWV.536/「おお、汚れなき神の子羊」BWV.656/「装いせよ、おお愛する魂よ」BWV.654 ~即興を交えて~/パッサカリア ハ短調BWV.582/前奏曲とフーガ変ホ長調BWV.552/「目覚めよと呼ぶ声がきこえ」BWV.645~即興を交えて~
ルドルフ・ルッツ:佐山雅弘氏に捧げる《虹の彼方に》― J.S.バッハのスタイルによる
8月11日(日)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
東京フィルハーモニー交響楽団
ダン・エッティンガー(指揮)高木綾子(フルート)
ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』から~第1幕前奏曲
モーツァルト:フルート協奏曲第1番ト長調 K.313(285c)
チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調Op.74『悲愴』
8月12日(月休)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
東京交響楽団フィナーレコンサート
尾高忠明(指揮)ジャン・チャクムル(ピアノ)
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調Op.47『革命』
宮本明 Akira Miyamoto
東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。『レコード芸術』『音楽の友』『GRAND OPERA』など音楽雑誌の編集部勤務を経て、2004年からフリーランスの音楽ライター、編集者として活動。雑誌、インターネット媒体への寄稿、音楽書籍の編集、CD録音の監修・制作など、形態を問わず音楽関連の仕事を手がけている。