2019 / 05 / 23
シディ・ラルビ・シェルカウイの振付も注目!トランスジェンダーの主人公がバレリーナを夢見ながらも苦悩する映画『Girl/ガール』のジャパンプレミアが開催

上映後、質疑応答に答えるルーカス・ドン監督。

『Girl/ガール』© Menuet 2018
バレリーナを夢見るトランスジェンダーのララが、努力を重ねながらも次第に追い詰められ、衝撃的なクライマックスを迎える映画『Girl/ガール』。昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール新人賞など3部門を獲得し、今年のアカデミー賞外国語映画賞のベルギー代表に選出された本作は、シディ・ラルビ・シェルカウイが振付を行うということでも注目を集めている。公開を7月5日に控え、4月22日に新宿武蔵野館でジャパンプレミアが行われた。
シェルカウイはコンテンポラリー・ダンスの振付家・演出家・ダンサーとして知られるが、今回振付を行ったのは王道のクラシック・バレエ。一見彼の良さが生かされていないようにも思えるが、シェルカウイは苦境に立たされた主人公の苦しい胸の内を、迫り来るダンスで見事に表現した。レッスン場で、息つく間もなく続けられる過酷な練習の数々。主人公は今にも倒れそうな表情でターンを繰り返す。観ているこちらが苦しくなるような激しいダンス・シーンが次から次へと繰り広げられる。
上映後、会見に登壇したルーカス・ドン監督は「実在のトランスジェンダーの女性がモチーフになっているが、その主人公ララのキャスティングが最も難航した」と述べた。主人公役には必要な資質がたくさんあったことが最大の理由で、シェルカウイの振付を踊れるレベルのダンサーでなければなかったこと、15歳という年齢でありながら作品を担える人でなければならなかったこと、ララのアイデンティティをエレガントに、リスペクトを持って表現できる人でなければならなかったことを挙げた。

『Girl/ガール』© Menuet 2018
質疑応答では、まず「名匠シェルカウイの振付でありながら、カメラは終始演者の表情を追っていた。その意図は?」という質問が上がった。監督はシェルカウイをリスペクトしてやまないそうだが、初期の段階で実際の振付に関してはあまり撮ることができない旨を伝えたという。もちろんあれだけの振付を見せないことはもったいないとは思ったが、観客には振付を見てもらうよりも、踊るというという行為が身体にどのような影響を及ぼすか、ということを知ってもらいたかったからだそうだ。そのため、カメラは個々の動きよりも、主人公の顔や身体をとても近いところから撮影。若いダンサーがシェルカウイの振付を繰り返し練習することによって、どんなことを感じるのか、どんな影響を与えるのかが、この『Girl/ガール』には映っている。
また、監督は作品の中で主人公の内なる葛藤に焦点を当てたかったため、彼女を取り巻く環境の描写はせずに、抱えている葛藤を映像化したいと思ったとのこと。悩み抜いた結果、主人公が踊りを通して自分を型にはめるということを見せることで、彼女が内側で感じていることを表現しようと考えたという。それは、トゥシューズに傷だらけの足を必死に押し込めようとするという行為も同じことだった。
本作が初監督作となるルーカス・ドン監督と、激しいダンスによってトランスジェンダーの苦悩を表現したシェルカウイ。バレエファン必見の名作が、また1つ上映される。
クラシカ・ジャパン編成部 井手朋子

『Girl/ガール』© Menuet 2018
『Girl/ガール』
監督:ルーカス・ドン
脚本:ルーカス・ドン、アンジェロ・ティヒセン
撮影監督:フランク・ヴァン・デン・エーデン
編集:アラン・デソヴァージュ
振付師:シディ・ラルビ・シェルカウイ
美術監督:フィリップ・ベルタン
衣装デザイン:カテリーヌ・ヴァン・ブリー
ヘアメイク:ミシェル・ベークマン
音楽:ヴァレンティン・ハジャド
音響効果:ヤンナ・ソンテンス
キャスト
ララ:ビクトール・ポルスター
マティアス:アリエ・ワルトアルテ
製作年:2018年
製作国:ベルギー
配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
2019年7月5日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
http://girl-movie.com/