2019 / 05 / 23
熊川哲也 Kバレエ カンパニー『シンデレラ』公開リハーサルレポート

左より、高橋怜衣、ルーク・ヘイドン、成田紗弥、杉山桃子、浅川紫織
熊川哲也 Kバレエ カンパニーの『シンデレラ』(2012年初演)は、ファンタスティックな物語バレエとして好評を博している人気作品だ。2018年5月24日(金)~6月6日(木)に行われる公演は、新キャストも加わり注目される。5月14日、その公開リハーサルが行われた。

第1幕よりシンデレラと継母たちの場面
最初に披露されたのは、第1幕よりシンデレラと継母たちの場面。母親を亡くしたシンデレラは継母と義姉妹と暮らし、肩身の狭い思いをしている。シンデレラを演じるのは昨年9月、韓国のユニバーサル・バレエ団を経て入団した成田紗弥(プリンシパル・ソリスト)。バランスのよい肢体に恵まれ、小気味のよい脚さばきと伸びやかな上体の使い方に秀でているのは一目瞭然だ。ほうきを手に掃除したり、義姉妹が動かした椅子を戻したりと甲斐甲斐しく働く姿や、母親の形見をカバンから取り出し回想にふける様子から、シンデレラの心情をヴィヴィッドに浮かびあがらせる。存在感十分なルーク・ヘイドンの継母、おてんばでやりたい放題の演技が笑いを誘う杉山桃子、高橋怜衣の義姉妹も魅せてくれる。
指導したのは、昨秋までプリンシパルを務めていた浅川紫織。長きにわたってカンパニーの躍進を支えてきた名花は、熊川作品のスタイルを知り尽くしている。成田に対し小道具の扱い方や継母から水をかけられる時のタイミングを細かく伝え、動きのリアクションについて注意する。「次のアクションのきっかけをオーバー目に!」との声が飛んだが、演技を客席にいかに伝えるかを強く意識してステージングしていることがうかがわれた。
成田が囲み取材で「振付を覚えるのは大変」と話すようにプロコフエフの名曲と一体化した熊川振付の精緻さにあらためて驚く。そのうえで浅川いわく「演技をどうやって自然に伝えられるか」が肝になってくる。実力派の新鋭・成田の表題役デビューを注視したい。

シンデレラ演じる矢内千夏と王子演じる高橋裕哉
続いては、第2幕よりシンデレラと王子のパ・ド・ドゥが公開された。お城の舞踏会でめぐり会ったシンデレラと王子が互いの気持ちを伝えあう珠玉の名場面である。シンデレラは昨年末の『くるみ割り人形』の際にプリンシパルに昇格した矢内千夏。王子は昨年9月にハンガリー国立バレエ団から入団した高橋裕哉(プリンシパル・ソリスト)だった。矢内は強固なテクニックの持ち主で、今年3月の『カルメン』では熊川のパートナーを務めるなど躍進著しい。高橋もハンガリーで王子役など主役級を踊っていただけに有望な踊り手だ。
指導は、プリンシパルでバレエマスターも担う遅沢佑介。この場面では夢を見ているかのような美しいパ・ド・ドゥが繰り広げられる。何よりもパートナーリングが大切で、少しでもタイミングがずれると流麗な踊りが崩れてしまう。遅沢の指導は実践的で、リフトのやり方やサポートのタイミングをていねいに伝え、みずからお手本を見せる。

左より、高橋裕哉、矢内千夏、遅沢佑介
遅沢は囲み取材で「二人は若く成長中なので楽しみ」と期待を寄せた。矢内は「つなぎの部分が途切れないようにし、的確なポジションでやっていかないと…」と意識を高めている。高橋は入団の動機を問われ「クラシックを極めたい。熊川さんと働けるのは長所」と語り、熊川の下でバレエの真髄をどん欲に吸収したいという意欲を感じさせた。
若き才能の台頭に胸弾むKバレエ カンパニーの『シンデレラ』は、豪華かつ洗練された装置・衣裳、井田勝大指揮のシアター オーケストラ トーキョーの演奏も相まって、グランド・バレエの醍醐味を堪能できそうだ。
高橋森彦(舞踊評論家)
<公演概要>
熊川哲也 Kバレエ カンパニー『シンデレラ』
芸術監督:熊川哲也
演出・振付:熊川哲也
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
衣裳デザイン:ヨランダ・ソナベンド
舞台美術デザイン:レズリー・トラヴァース
照明デザイン:足立恒
2019年
●5月24日(金)14:00/25日(土)14:00/26日(日)14:00 東京文化会館 大ホール
●5月31日(金)14:00/6月1日(土)13:30/1日(土)17:30/2日(日)13:00 Bunkamuraオーチャードホール
●6月4日(火)18:30 アクトシティ浜松
●6月6日(木)18:30 フェスティバルホール
シンデレラ:中村祥子(24日・31日・4日・6日)矢内千夏(25日・1日17:30)成田紗弥(26日・1日13:30)小林美奈(2日)
王子:宮尾俊太郎(24日・31日・4日・6日)高橋裕哉(25日・1日17:30)山本雅也(26日・1日13:30)栗山廉(2日)
継母:ルーク・ヘイドン(全日)
仙女:山田蘭(24日・31日・4日・6日)戸田梨紗子(25日・1日17:30)浅野真由香(26日・1日13:30)井上とも美(2日)
指揮:井田勝大
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
高橋 森彦
舞踊評論家。第12回日本ダンス評論賞佳作受賞を経て2004年「ダンスマガジン」(新書館)にて評論家としてデビュー。以後バレエ、ダンスを中心に舞台芸術に関する批評、解説、紹介記事、インタビュー記事を一般紙、専門紙誌、広報誌、Web媒体、公演プログラム・チラシ、リリース、単行本、ムック本などに寄稿する。国内外のバレエ、コンテンポラリーダンス、現代舞踊、フラメンコなどを数多く観劇・取材。(一社)現代舞踊協会制定 江口隆哉賞選考委員や埼玉全国舞踊コンクール、座間全国舞踊コンクール、全日本高校・大学ダンスフェスティバル(神戸)、「ダンスがみたい!新人シリーズ」などの審査員を歴任している。