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【クラシック大全第2章】オペラ400年史
放送日時 5月14日(土)21:00~22:50
このチューリヒ歌劇場のプロダクションは、まさに17世紀イタリアの作曲家モンテヴェルディ復興のきっかけとなり、以降、モンテヴェルディのオペラが世界的に上演されるようになった。1607年マントヴァで初演された『オルフェオ』は、現在上演される最古のオペラ。これまでのレチタティーヴォ(朗唱)中心の様式を継承しつつ、器楽部分の大規模化と歌唱旋律の充実を図ることで、よりリアルで、よりドラマティックな表現を獲得。モンテヴェルディはこの作品で「音楽による劇」(dramma per musica)という新しい様式を作り上げた。オペラは、文学や映画や絵画でも有名な、ギリシャ神話の「オルフェオとエウリディーチェ」に基づく。決して振り向いてはならぬという掟を破り、永遠に妻を失う物語は、その劇的な音楽と相俟って、今見てもリアルな力で迫ってくる。作曲家が残した楽譜とその時代の奏法を研究し、オリジナル楽器による演奏で大きな足跡を残したアーノンクール。この番組では、大胆な時代考証によって当時の観客の興奮を喚起する彼の音楽性と、17世紀初演の舞台を彷彿させるポネルの感性が見事に融合。フィリップ・フッテンロッハーやトゥルデリーゼ・シュミット、ヴェルナー・グレッシェル、ラシェル・ヤカール、そして若き日のフランシスコ・アライサなど、1970~80年代に活躍した歌手たちの美しい演唱をたっぷりお楽しみいただける。
[出演]フィリップ・フッテンロッハー(オルフェオ)ディートリンデ・トゥルバン(エウリディーチェ/歌唱:ラシェル・ヤカール)トゥルデリーゼ・シュミット(音楽の女神&希望)ローラント・ヘルマン(アポロ)グレニス・リノス(シルヴィア&プロセルピナ)ヴェルナー・グレッシェル(プルトーネ)ハンス・フランツェン(カロンテ)スザンヌ・カラブロ(ニンファ)フランシスコ・アライサ(霊)クリスティアン・ベッシュ(牧人)チューリヒ歌劇場バレエ団
[演目]モンテヴェルディ:プロローグ&5幕のファーヴォラ・イン・ムージカ『オルフェオ』
[演出&装置]ジャン=ピエール・ポネル
[指揮]ニコラウス・アーノンクール
[演奏]チューリヒ歌劇場モンテヴェルディ・アンサンブル及び同合唱団
[音声収録]1977年12月1日~22日チューリヒ歌劇場
[映像収録]1978年3月28日~4月20日ウィーン・フィルム(ウィーン)
初回放送 5月21日(土)21:00~23:45
1613年ヴェネツィアのサン・マルコ寺院の楽長に任命され、1843年に没するまで30年にわたりヴェネツィアで過ごしたモンテヴェルディ。『オルフェオ』初演から30年以上経ち、ヴェネツィアの一般劇場のために作曲された『ウリッセの帰還』は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を元に、トロイ戦争から9年ぶりに故国に帰るウリッセと貞節を守り続けた妻ペネーロペの物語。多くのエピソードやスペクタクルな展開は、当時の庶民だけでなく現代を生きる我々でも楽しめるものになっている。作曲家が残した楽譜とその時代の奏法を研究し、オリジナル楽器による演奏で大きな足跡を残したアーノンクール。この番組では、大胆な時代考証によって当時の観客の興奮を喚起する彼の音楽性と、17世紀初演の舞台を彷彿させるポネルの感性が見事に融合。トゥルデリーゼ・シュミット、ヴェルナー・グレッシェル、ジャネット・ペリー、ポール・エスウッド、サイモン・エステス、そして若き日のフランシスコ・アライサなど、1970~80年代に活躍した歌手たちの美しい演唱をたっぷりお楽しみいただける。
[出演]ヴェルナー・ホルヴェーク(ウリッセ、人間のはかなさ)ヴェルナー・グレッシェル(時の神)レナーテ・レンハルト(運命の神、ジュノー)クラウス・ブレットシュナイダー(愛の神)トゥルデリーゼ・シュミット(ペネーロペ)マリア・ミネット(エリクーレア)ジャネット・ペリー(メラント)ペーター・ケラー(エウリーマコ)ヘルルン・ガードウ(ミネルヴァ)フランシスコ・アライサ(テレーマコ)フィリップ・フッテンロッハー(エウメーテ)ハンス・フランツェン(海神ネットゥーノ)サイモン・エステス(アンティノオ)ポール・エスウッド(アンフィーモ)ペテル・ストラカ(ピサンドロ)ヨージェフ・デネ(ジュピター)アーリー・リース(イーロ)
[演目]モンテヴェルディ:プロローグ&3幕のドランマ・ペル・ムージカ『ウリッセの帰還』
[演出&装置]ジャン=ピエール・ポネル
[指揮]ニコラウス・アーノンクール
[演奏]チューリヒ歌劇場モンテヴェルディ・アンサンブル
[音声収録]1979年2月1日~15日チューリヒ歌劇場
[映像収録]1979年10月29日~11月26日ウィーン・フィルム(ウィーン)
初回放送 5月28日(土)21:00~23:55
1613年ヴェネツィアのサン・マルコ寺院の楽長に任命され、1843年に没するまで30年にわたりヴェネツィアで過ごしたモンテヴェルディ。『オルフェオ』初演から30年以上経ち、ヴェネツィアの一般劇場のために作曲された『ポッペアの戴冠』は、モンテヴェルディ最晩年の傑作で、タキトゥスの『年代記』に基づき、皇帝ネロの寵愛を受けて次々と邪魔者を消し、最後は皇妃として戴冠を受けるポッペアの姿を描きます。神話や聖書によらずに歴史を題材にした最初のオペラともいわれ。その登場人物の優れた性格描写に、モンテヴェルディの最高傑作との声も高い作品。
作曲家が残した楽譜とその時代の奏法を研究し、オリジナル楽器による演奏で大きな足跡を残したアーノンクール。この番組では、大胆な時代考証によって当時の観客の興奮を喚起する彼の音楽性と、17世紀初演の舞台を彷彿させるポネルの感性が見事に融合。トゥルデリーゼ・シュミット、ヴェルナー・グレッシェル、ジャネット・ペリー、ポール・エスウッド、サイモン・エステス、そして若き日のフランシスコ・アライサなど、1970~80年代に活躍した歌手たちの美しい演唱をたっぷりお楽しみいただける。
[出演]レナーテ・レンハルト(運命の神)ヘルルン・ガードウ(美徳の神)クラウス・ブレットシュナイダー(愛の神)ラシェル・ヤカール(ポッペア)エリック・タピー(ネロ)トゥルデリーゼ・シュミット(オッターヴィア)ポール・エスウッド(オットーネ)マッティ・サルミネン(セネカ)ジャネット・ペリー(ドルシッラ)アレクザンダー・オリヴァー(アルナルタ)マリア・ミネット(乳母)フィリップ・フッテンロッハー(ルカーノ)ペーター・ケラー(小姓、セネカの友人)スザンヌ・カラブロ(侍女)ルドルフ・A・ハルトマン(近衛隊長)ペーター・シュトラーカ(兵士)フリッツ・ペーター(兵士)フランシスコ・アライサ(セネカの友人)ヴェルナー・グレッシェル(セネカの友人)
[演目]モンテヴェルディ:プロローグ&3幕のドランマ・ムジカーレ『ポッペアの戴冠』
[演出&装置]ジャン=ピエール・ポネル
[指揮]ニコラウス・アーノンクール
[演奏]チューリヒ歌劇場モンテヴェルディ・アンサンブル
[音声収録]1978年6月15日~23日チューリヒ歌劇場
[映像収録]1979年1月2日~30日ウィーン・フィルム(ウィーン)
17世紀オペラの誕生
16世紀のイタリアでは、大貴族の婚儀のような祝賀行事の際に、豪華な仕立てのインテルメーディオ【幕間劇】が上演された。それは、長いお芝居の間に別のお話を見せるという「幕間狂言的な出しもの」で、ギリシャ・ローマ神話を題材にした短い筋立てのもと、歌や踊りが賑やかに用いられた。音楽学者船山信子氏の言葉を借りれば「ミニチュア・オペラ」であり、今のオペラの前身とも言えるだろう。
その後、このインテルメーディオの規模が膨らんで、一晩の鑑賞に堪えうる長さと筋立てを持つ作品が出現。それらが後にオペラと呼ばれるようになった。具体的には、莫大な財力を有し、文芸も庇護したメディチ家統治下のフィレンツェにおいて、16世紀末からオペラが続々と誕生していった。
当時、フィレンツェには「カメラータ」と呼ばれる文化人たちの音楽サークルが存在し、彼らがさまざまに議論する中でインテルメーディオもオペラも生まれてきた。ただし、この2つのジャンルの決定的な違いは、インテルメーディオの場合は台本も音楽も、芸術家たちの「合作」であったこと。それとは反対に、オペラでは原則的に台本作家は一人、作曲家も一人で作り上げている。
史上初のオペラとみなされるのは、ペーリ作曲の《ダフネ》(1597年または98年に初演)である。しかし、この作品は今では台本しか存在しない。それゆえ、完全な形で楽譜が残る最古のオペラは、同じペーリの《エウリディーチェ》(1600)になる。
それから僅か7年後、1607年に「いまもオペラ史に耀く名作」第1号として、モンテヴェルディの《オルフェオ》が誕生した。こちらは、フィレンツェではなく、マントヴァの大公宮殿で初演されたオペラ。その音楽は当時の作曲家の誰よりも力強く雄弁で、神々の清らかさも庶民の逞しさも鮮烈に表した。爾来、モンテヴェルディは36年間で十数作のオペラを書き上げたが、楽譜が揃って残る大がかりなオペラは、《オルフェオ》の他、《ウリッセの帰還》(1640)と《ポッペアの戴冠》(1643)のみ。この3つの傑作を「モンテヴェルディ3部作」と呼んでいる。
なお、後の2つ、《ウリッセ》と《ポッペア》は、大衆向けの「入場料システムを採る」歌劇場で上演されたもの。1637年、史上初の商業歌劇場がヴェネツィアに開場すると、オペラの楽しみが市民層に爆発的に広まった。また、この頃からオペラで大活躍し始めたのが、「今は聴けない声」のカストラート(去勢歌手)である。男の肺活量で女声並みの優美な響きが出せる彼らが、華やかなフレーズをひと息で歌う妙技を競ったことから、18世紀前半まで続くバロック・オペラの最盛期がスタート。美声と超絶技巧を誇る大カストラートが、現代の映画スターの如き人気で欧州中を席巻した。ただし、フランス人だけは状況を疑問視し、フランス・オペラにはカストラートの役が一つも無いという事態に。この奇妙な勢力分布図が、次代のオペラ界をより多彩に染め上げてゆく。
岸 純信(オペラ研究家)
岸 純信 Suminobu Kishi
1963年生まれ。音楽雑誌や公演プログラム等に寄稿。CD及びDVDの解説多数。 テレビ、ラジオなど放送媒体にもたびたび出演。新国立劇場次期オペラ芸術監督選考委員(2013年)。新国立劇場オペラ専門委員。静岡国際オペラコンクール実行委員。大阪大学外国語学部非常勤講師(オペラ史)。近著に『オペラは手ごわい』(春秋社)など。
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