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【クラシック大全第2章】弦楽の世界〜弦楽器エンターテイメント!
初回放送 1月4日(水)21:00~22:20
堅苦しいコンサート・ホールからリラックスしたクラブへ。クラシック音楽の新しい聴衆に向けて新しい聴き方を提案する、世界最大のクラシック音楽レーベル「ドイツ・グラモフォン」の取り組み“イエロー・ラウンジ”に、世界最高のヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターが登場。この番組は、2015年5月にベルリンの新名所、ノイエ・ハイマートで行ったクラブ・コンサート。プログラムは、ヴィヴァルディやバッハといったバロックから、ドビュッシーやサン=サーンス、ブラームス、チャイコフスキー、アメリカのガーシュウィンやコープランド、さらには英国の現代作曲家ジョージ・ベンジャミンの『ジャマイカン・ルンバ』、ジョン・ウィリアムズの映画『シンドラーのリスト』のテーマ曲まで、誰もが一度は耳にしたことのある幅広いジャンルのポピュラーな名曲が満載。ムターの妥協しない徹底した一流の音楽に会場の若者たちも熱狂。ムター財団奨学生の若手奏者で編成された「ムター・ヴィルトゥオージ」と親しい音楽仲間を伴い、色鮮やかな照明の下、ムターの熱気あふれるパフォーマンスは、スタイリッシュ!まさにクラシックの新たな時代を告げる新感覚の音楽番組。
[演目]ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集Op.8『四季』より『夏』ト短調Op.8-2,RV.315~第3楽章、ガーシュウィン(ヤッシャ・ハイフェッツ編曲):3つの前奏曲、J・S・バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV.1043~第3楽章、チャイコフスキー(ヤッシャ・ハイフェッツ編曲):メロディ(なつかしい土地の思い出Op.42より)、ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集Op.8『四季』より『冬』ヘ短調Op.8-4,RV.297~第1楽章、J・S・バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV.1043~第1楽章、ブラームス(ヨーゼフ・ヨアヒム編曲/レオポルト・アウアー改訂):ハンガリー舞曲第1番ト短調、ドビュッシー(ヤッシャ・ハイフェッツ編曲):ゴリウォーグのケークウォーク(組曲『子供の領分』より)、サン=サーンス(ジョルジュ・ビゼー編曲):序奏とロンド・カプリチオーソOp.28、ドビュッシー(アレクサンドル・レーレン編曲):月の光(『ベルガマスク組曲』より)、コープランド(アーロン・コープランド編曲):ダウン(バレエ組曲『ロデオ』より)、J・S・バッハ/グノー:アヴェ・マリア、ベンジャミン(ウィリアム・プリムローズ編曲):ジャマイカン・ルンバ、ウィリアムズ:映画『シンドラーのリスト』のテーマ
[出演]アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)ランバート・オーキス(ピアノ)マハン・エスファハニ(チェンバロ)ムター・ヴィルトゥオージ(アンサンブル)ノア・ヴィルトシュット(ヴァイオリン)ナンシー・ゾウ(ヴァイオリン)
[収録]2015年5月7日&8日ノイエ・ハイマート(ベルリン)
初回放送 1月11日(水)21:00~22:10
1981年ロンドン生まれのアヌーシュカ・シャンカールは、ビートルズにも影響を与えた20世紀最大のインド古典音楽家/シタール奏者ラヴィ・シャンカールを父親に、そしてアメリカのピアノ弾き語りジャズ歌手でジャズピアニストのノラ・ジョーンズを異母姉に持つ美貌のシタール奏者。この番組は、父親の親友でもあった巨匠ヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインの生誕100年に因んで、アヌーシュカが2016年4月23日ベルリンのコンツェルトハウスで行ったインド音楽のコンサート。モルドヴァ出身の人気ヴァイオリニスト、パトリツィア・コパチンスカヤをゲストに、タンモイ・ボーズ(タブラ)太田健司(タンプーラ)ピラシャンナ・テーヴァラージャ(パーカッション)といった世界的アーティストとのアンサンブルで、アヌーシュカが信じられないくらい情熱的で即興的なインド音楽を奏でる。番組では、シタール、タブラ、タンブーラといったインドの民族楽器の数々も見どころ。ビートルズのジョージ・ハリスン(「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」「ノルウェーの森」などで使用)やローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ(「黒くぬれ」で使用)など、1960年代ロックファンにはお馴染み。
[演目]Raga Puriya Kalyan、Raga Piloo、Raga Pancham Se Gara、Monsoon(Raga Manj Khamaj)
[出演]アヌーシュカ・シャンカール(シタール)パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)タンモイ・ボーズ(タブラ)太田健司(タンプーラ)ピラシャンナ・テーヴァラージャ(パーカッション)他
[収録]2016年4月23日コンツェルトハウス(ベルリン)「インド古典音楽の夕べ~ユーディ・メニューインの思い出に~」
初回放送 1月18日(水)21:00~22:30
1978年イスラエル生まれのマンドリン奏者アヴィ・アヴィタルは、その驚異のテクニックと豊かな音楽性で、マンドリン界初の世界的人気アーティストとして絶賛を浴びている。この番組は、2015年7月31日、ヴェルビエ音楽祭で行われたアヴィタルのマンドリン・リサイタル。バロックからユダヤ音楽、現代音楽まで、さまざまなテイストで贈るバラエティあふれるマンドリン・ソロがお楽しみいただける。彼の若々しい息遣いと音楽に真摯に向き合う情熱が画面から伝わってくる番組。その屈託のない笑顔とジョークを交えた爽やかなコメントも魅力。繊細な響きから信じられないくらいの圧倒的迫力まで、マンドリンという楽器の底知れぬ可能性が発見できる。
[演目]ブロッホ:組曲『バール・シェム』~第2曲「ニーグン」、ルーストム:ハンジャレ、サウリ:無伴奏マンドリンのためのパルティータ第3番ハ長調~プレリュード/アルマンド/クーラント/アリア/ジーグ、桑原康雄:マンドリン独奏のための『即興詩』、アヴィタル:変則調弦マンドリンのための『ケドマ』(即興曲)、J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV.1004(第1曲「アルマンド」第2曲「クーラント」第3曲「サラバンド」第4曲「ジーグ」第5曲「シャコンヌ」)、ブルガリア舞曲
[マンドリン]アヴィ・アヴィタル
[収録]2015年7月31日ヴェルビエ教会「ヴェルビエ音楽祭2015」
放送日時 1月25日(水)21:00~21:50
クラシックの音色とエレクトロニカの革新性を融合させたサウンド「ポスト・クラシカル」を代表するドイツ人作曲家マックス・リヒターと、南アフリカ生まれの英国人ヴァイオリニスト、ダニエル・ホープがタッグを組んだ全く新しいヴィヴァルディ『四季』は、英米独のi-Tunesクラシカル・チャートでトップになったヒット作。原曲の75%は切り捨てられているにもかかわらず、明らかにヴィヴァルディの『四季』であるところが不思議。この番組は、ドイツ北東部のバルト海に面した港湾都市ロストックにある1850年創業のネプチューン造船所のホールで行われた「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」でのライブ。
[演目]アントニオ・ヴィヴァルディ/マックス・リヒター:四季
[演奏]ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)マックス・リヒター(キーボード)ラルテ・デル・モンド(コンサートマスター:ヴェルナー・エールハルト)
[収録]2013年ネプチューン造船所「ホール207」(ロストック)「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」
チャレンジする弦楽器奏者たち
新規リスナー絶賛募集中。クラシックの音楽家はいつだってそうだ。いくらすばらしい音楽、すばらしい演奏だったとしても「わかる人だけにわかってもらえばいい」などと言っていられないのがこの世界。聴衆の固定化や高齢化にあらがうためにも、絶えず新たな聴衆を開拓し続けなければならない。
そこで、クラシックの音楽家たちも従来の殻を破るような活動にチャレンジする例が増えてきた。異なるジャンルのアーティストとの共演や、伝統的なクラシック音楽以外のレパートリーへの挑戦、コンサートホール以外の場所での演奏等々。
そんなクロスオーバーというか越境的な活動ぶりを目にして強く感じるのは、コンサートという形態も、レパートリーも、まだまだ大きな可能性に満ちあふれているのだな、ということ。
1月に放送される「弦楽器エンターテイメント!」では、アンネ=ゾフィー・ムターが若者向けのクラブで演奏したり、パトリツィア・コパチンスカヤがラヴィ・シャンカールの娘アヌーシュカのシタールと共演したり、マンドリン奏者アヴィ・アヴィタルがソロ・リサイタルで多彩なレパートリーを聴かせたりと、三者三様に弦楽器の可能性を広げる挑戦的なコンサートに臨む様子を目にできる。
まさかあのムターがクラブで弾くとは!場所も驚きだが、若者たちの反応も興味深い。たとえばバッハを弾いて客席から「イエーイ!」といった反応が返ってくる。ライブはステージと客席とで作るもの。場が生み出す反応が演奏者に影響を与えて、いっそう音楽が躍動する。同じバッハやヴィヴァルディを弾いても、コンサートホールとクラブでは違った音楽が生まれてくるのだと感じる。
コパチンスカヤやアヴィ・アヴィタルのチャレンジは、ともに聴き手の世界を広げてくれるものといえるだろう。固定化されたレパートリーを演奏するのではなく、その外側にある広大な音楽の世界へと誘ってくれる。
本来、こういったジャンルを超越した活動を成功させるのは並大抵のことではないはず。クラブで演奏したけど、客席の若者はシラーッとしてしまうかもしれない。異ジャンルの音楽家と共演したら、肉でも魚でもない音楽ができあがってもおかしくない。でも、そこでエキサイティングな音楽を作り出せるのは、やはりムターやコパチンスカヤ、アヴィ・アヴィタルらが傑出したアーティストである証明なのだろう。殻を破るのは、トップランナーたちの特権なのかも。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
飯尾 洋一 Yoichi Iio
音楽ジャーナリスト。著書に『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシック』(廣済堂新書)、『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10 倍楽しめる!』(三笠書房・王様文庫)他。雑誌、ウェブメディア、プログラムノートへの執筆や放送などで幅広く活動中。
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