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初回放送 4月26日(木) 21:00~23:15
1973年ウクライナのキエフ生まれのヴァレンティーナ・リシッツァの名前が世界中で知 られるようになったのは、インターネットの動画共有サービスYouTubeがきっかけ。 2007年、彼女の夫でピアニストのアレクセイ・クズネツォフが撮影して自主制作した ショパンの練習曲集の映像を、宣伝のためにYouTubeにアップしたのが大ブレイクに つながる。動画は大きな反響を呼び、DVDはインターネット通販サイトAmazonのクラシック映像部門のトップに躍り出るとともに、YouTubeの動画閲覧数も爆発的に伸び続けた。2018年2月現在、彼女のYouTubeチャンネル「Valentina Lisitsa」の登録者は39万人超、アップされている337本の動画の視聴回数合計は1億6千万回を超えている。文字どおり天文学的な数字。インターネットから、そして動画から世界の桧舞台へ羽ばたいた、まさに“時代が生んだピアニスト”である。この番組はベートーヴェン、シューマン、ブラームスからアンコールのリストまで、19世紀のピアノ・レジェンドたちの名曲を、スケールの大きなダイナミズムと、ロマンティックな繊細さで堪能するリサイタル。ヴァレンティーナ・リシッツァは1991年、2台ピアノのコンクールの最高峰と言われるマレイ・ドラノフ国際2台ピアノ・コンクールにクズネツォフとのデュオで優勝。翌年、クズネツォフと結婚してアメリカに渡り、ブレイク前も欧米各地で活動を続けていた。世界的な成功を受けて、2012年に名門デッカ・レーベルが録音契約を結んでいる。ヴァイオリンのヒラリー・ハーンの共演者としても知られるピアニスト。
[演目]ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調『テンペスト』Op.31-2、シューマン:交響的練習曲Op.13、ブラームス:8つの小品Op.76~第7番「間奏曲」イ短調、幻想曲集Op.116~第2番「間奏曲」イ短調/第4番「間奏曲」ホ長調、3つの間奏曲Op.117~第1番変ホ長調/第2番変ロ短調、6つの小品Op.118~第1番「間奏曲」イ短調/第2番「間奏曲」イ長調/第3番「バラード」ト短調/第5番「ロマンス」へ長調/第6番「間奏曲」変ホ短調、4つの小品Op.119~第1番「間奏曲」ロ短調/第2番「間奏曲」ホ短調、8つの小品Op.76~第2番「奇想曲」ロ短調、4つのバラードOp.10~第1番ニ短調、シューベルト(フランツ・リスト編曲):アヴェ・マリア、リスト:パガニーニによる大練習曲S.141~第3番嬰ト短調『ラ・カンパネラ』/ハンガリー狂詩曲S.244~第2番嬰ハ短調
[ピアノ]ヴァレンティーナ・リシッツァ
[収録]2014年11月24日ケベック大劇場(カナダ)
初回放送 4月29日(日・祝) 21:00~22:40
2013年、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団によって行なわれた、「希望の ヴァイオリン」をフィーチュアしたコンサート。現在欧米各地のオーケストラで、「希 望のヴァイオリン」を用いたコンサートや、そのショッキングな背景を物語る展覧会 や講演会が開催され、また2014年に書籍化された『希望のヴァイオリン』は日本 語訳も出版されている(ジェイムズ・A・グライムズ著、宇丹貴代実訳・白水社刊)。 希望のヴァイオリン。それはテルアビブ在住のユダヤ人ヴァイオリン職人、アムノン・ヴァインシュテインが、約30年にわたって収集し修復してきた40挺以上の楽器の呼び名。もとの持ち主は有名無名の、ナチスのホロコーストの犠牲者たち。多くのヴァイオリンは持ち主を失い、または、かろうじてガス室送りを逃れた生存者たちに保有されていた。絶望の淵にあったこれらのヴァイオリンがなぜ「希望」の名前で呼ばれるのか。楽器は、持ち主たちが絶望の中で見たかすかな希望の光だったのです。実際、アウシュヴィツのオーケストラのメンバーに採用されたことで、(屈辱的な演奏機会に耐えながらも)生き延びたヴァイオリン奏者もい た。優れた修復師であるアムノンよって新たな生命を得たヴァイオリンが、70年の時を超えて自由の歌を奏でるその音色には、やはり何か特別な感情を重ねずにはいられない。現芸術監督山田和樹の前任者としてモンテカルロ・フィルの芸術監督だった指揮者ジャンルイジ・ジェルメッティは、アムノンに共鳴して、このコンサートのために新曲を書き下ろした。その新曲『KEEV』(苦痛)やエルネスト・ブロッホの『バール・シェム』、チハト・アスキン編曲の『アヴィヌ・マルケイヌ』(われらが父よ、われらが王よ)は、どれもユダヤの旋律による作品。そしてプログラムの最後にはベートーヴェン『運命』の第4楽章が置かれ、勝利の凱歌を歌い上げる。ソリストには、早くからアムノンのプロジェクトに同調して参加してきた仲間、シュロモ・ミンツとチハト・アスキンが迎えられている。ミンツはイスラエル人。アスキンはトルコ人のイスラム教徒。ユダヤ人とムスリム。「希望」の二文字は、民族・宗教を超えた二人の協働にも託されている。
[演目]ジェルメッティ:KEEV<世界初演>、ブロッホ:組曲『バール・シェム』(第1曲「ヴィドゥイ」第2曲「ニーグン」第3曲「シムハス・トラー」)、
ユダヤの古歌(チハト・アスキン&エライ・アルティンブケン編曲):マルケイヌ、チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35、ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67『運命』~第4楽章、ユダヤの祈りの歌(チハト・アスキン編曲)
[指揮]ジャンルイジ・ジェルメッティ
[演奏]モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン)チハト・アスキン(ヴァイオリン)
ミハエラ・マルク(ソプラノ)ティエリ・アマディ(チェロ/モンテカルロ・フィル首席奏者)
[収録]2013年5月5日グリマルディ・フォーラム(モナコ)
初回放送 4月3日(火) 21:00~22:40
最終回は、ナビゲーターにアメリカ新世代のオルガニスト、キャメロン・カー ペンターを迎えた「20世紀以降」。驚異の超絶技巧と自由なパフォーマン スに加え、型破りなヴィジュアルでクラシック界の常識を覆してきたカーペン ター。彼自らが、『春の祭典』や12音技法、『三文オペラ』とキャバレー音 楽、映画、ジョージ・ガーシュウィンとジャズ、ジョン・ケージ、ミニマル・ミュー ジックといった多彩なキーワードを、演奏と言葉で解き明かす。二つの大 戦、ソヴィエト連邦の誕生、テクノロジーの発展、女性の解放…。番組で は数々の貴重なモノクロ映像をたよりに、激動の20世紀に迫る。印象派音 楽、電子音楽、さまざまな前衛音楽の潮流には、まさに時代の転変が反映されていると言える。解説陣はパーヴォ・ヤルヴィ、ダニエル・ホープといった世界的アーティストに、ジャズ・シンガー、カバレティスト(キャバレー俳優)、識者も加わる多彩な顔触れ。歴史的な映像資料を通して、若きジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ジョン・ケージらの言動に触れることもできる。随所でジャズの名曲が流れるのも、20世紀を扱う最終回ならでは。ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、アルトゥーロ・トスカニーニ、ヘルベルト・フォン・カラヤン、クラウディオ・アバド、ルチアーノ・パヴァロッティ、アンナ・ネトレプコら、20世紀以降の音楽シーンを語る上で欠かせない「スター演奏家たち」の映像も堪能できる、充実の90分。
[出演]キャメロン・カーペンター(ナビゲーター/オルガン奏者)パーヴォ・ヤルヴィ(指揮者)フランク・シュトローベル(指揮者)ダニエル・ホープ(ヴァイオリン奏者)アンナ・プロハスカ(ソプラノ歌手)アリソン・バルサム(トランペット奏者)アヴィ・アヴィタル(マンドリン奏者)ジェイミー・カラム(ジャズ・シンガー)モーリッツ・エッゲルト(作曲家、ピアニスト)ホルガー・ヴェンホフ(音楽ジャーナリスト)サラ・バルブデット(芸術学者)セルダル・ソムンジュ(カバレティスト) 他
[監督]アクセル・ブリュッヘマン&レナ・クパッツ
[制作]2015年
50年以上にわたって世界の指揮者界を牽引し続けるズービン・メータは、古くからの 友人であるクラウディオ・アバドやダニエル・バレンボイム、あるいはカルロス・クライバー、 ロリン・マゼール、小澤征爾、リッカルド・ムーティといったそうそうたる顔ぶれとともに、ポ スト・カラヤンの黄金世代の一人。この番組は2016年、80歳の誕生日を祝って制 作された、メータの半生を振り返るドキュメンタリー。番組は、テルアビブ、フィレンツェ、ムンバイとメータの活動に密着。盟友バレンボイムや少年時代の友人など多勢の関係者の証言を交えながら、過去の映像と共に巨匠の音楽と人生を辿る。なかでも1981年10月テルアビブでのイスラエル・フィルの演奏会で、ホロコーストの生存者や犠牲者家族の反ナチ、反ワーグナーの怒号が渦巻くなか、オーケストラのため、音楽のために、と『トリスタンとイゾルデ』前奏曲を指揮した有名なエピソードや、1994年ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でセルビア人勢力の攻撃が続くサラエヴォで、廃墟となったムスリムの図書館の中庭でモーツァルトの『レクイエム』を演奏した映像など。一方で、1990年に「三大テノール」の初公演を指揮し、1998年に中国の映画監督チャン・イーモウを演出に起用して紫禁城で『トゥーランドット』を上演するなど、歴史的なエンターテイメントの成功にもその力を発揮する。番組の副題には「善き思い、善き言葉、善き行い」という、メータの出自であるパールシー(インドのゾロアスター教)の祈りの言葉が掲げられている。巨匠の人間性と思慮深さにあらためて感銘を受ける90分。
[出演]ズービン・メータ 他
[監督]ベッティナ・エールハルト
[制作]2016年